313:出発しよう。
「ま、要するにキック由来の名前って事か」
「そういう事ですな」
一言にまとめたお兄さんに同意するアルおじさん。
蹴るって言うとなんか馬とかがパッと出てきそうなものだけど、若干の変化球だな。
「で、ルミさんは?」
「私ですか?」
「うん。あ、ちなみに聞いてる俺はただのあだ名だからね」
自分が聞かれる前に言っておくのか。
まぁ人に聞いてるわけだし、自分も言うのが筋かな?
でもあだ名の由来は特に言わないんだな。
まぁ現実の名前とかそんなところなんだろう。
「他の人は由来っつーか何なのか判るけど、おっさんとルミさんのは判らなかったからさ。別に言いたくないとかめんどいなら答えなくて良いよ」
「構いませんよ。ゲルセミウム・エレガンスという花の名前から適当に抜き出しました」
「ほー。俺それ知らないんだけど、どんな花なん?」
「黄色くて小さな、可愛らしい花を咲かせる植物ですね」
またしてもレティさんの解説が。
この人は百科事典でも搭載してるんだろうか。
「ほー」
「ただし、植物の中では世界最強と言われる程の猛毒を持っています」
「怖っ」
「【呪術】使いという事で、毒性にあやかりたいと選んでみました」
「いや、そんなフフーンって顔されてもな。まぁ解ったよ、ありがと」
ロクさんが「どうだ、ちゃんと意味が有るんだぞー」といった得意げな顔のルミさんに礼を言う。
なんか妙に可愛いとこあるな、ルミさん。
「さて、それじゃそろそろ移動するか」
このままだと何となくずっと話していそうだからか、アヤメさんが行動を促した。
うん、訪ねるのが遅くなりすぎると相手にも悪いしね。
そこは若干今更ではあるけど。
あと大人数だし。
「そうですな。ロクさんは場所を知っているのでしたか」
「おー。出て裏に回って、南にちょっと行ったとこだな」
「高い塀で目立ってるし、すぐ判るよ」
ロクさんの返事にアヤメさんが補足して歩き出す。
そういえばシルクは後頭部に引っ付いてるけど、カトリーヌさんは……
あ、普通に飛んでた。
「ぴーちゃん、こっちおいでー」
「ぴゃっ」
自分の肩をポンポン叩いてるお姉ちゃんに呼ばれて、素直に飛んでいくぴーちゃん。
どうやら定位置にしたいらしいな。
まぁいつも呼んでるとは限らないから、その努力に意味があるのかって気はするけど。
「それじゃ、お疲れ様でーす」
残って遊んでる人たちにお姉ちゃんが挨拶をし、私も一応声に出しつつ手を振って挨拶。
うん、みんな土人形ばっかいじってないで本来の訓練もした方が良いと思うよ。
「しっかし安全が保障出来ないって、いったい何されんの?」
訓練場を出たところで、思い出したようにロクさんが問いかけてきた。
「えーと、油断してると人体実験の材料にされるかも?」
まぁ不法侵入はともかく、普通に入れば無理矢理捕まえてってのは無いと思うけど。
「えー…… なんか実験に使われるかもとか言ってますよ」
「マジかよ」
ちょっと「やめときゃ良かったかな」って顔になるロクさん。
うん、お勧めはしない。
「でも、そうならないためにあんたに紹介してもらうんだろ?」
「いやー、ディーさんは判らないけどジェイさんは日常会話に混ぜて言質取ってきそうな気がするからさ」
「あー、自分から志願した体にされちゃうんだね」
「してきそうって勝手に思ってるだけだから、失礼な話ではあるんだけど」
「まぁ白雪がそう感じたなら、一応気を付けといた方が良いか」
「かな。あ、そうだ」
「ん?」
「一応言っておくけど、間違ってもアリア様を軽んじる発言はしないでね」
「そりゃ普通にやんないけど、いきなりどうした?」
「いや、あの人たちって狂信者かってレベルでアリア様大好きだから。もし目の前でバカにしたりしたら、即座にミンチにされるかもしれないよ」
「あー…… えっと、この町に来てる姫様居るじゃないですか」
うへぇって顔で三人に伝えてくれるアヤメさん。
「はい。私はお目にかかったことは有りませんが」
「あ、俺話したこと有る。偉そうだけどかわいーよね。いや偉いのか」
うん、偉いんだよ。ここのトップだよ。
「研究所の人たちの前で悪く言うと、即座に殺されかねないらしいから気を付けてください」
「いやこえーよ! いやバカにする理由はないから大丈夫だけどさ!」
「と言いますか、普通は王族をバカにした時点でマズいですよね」
冷静に言うルミさん。まぁそうだよね。
とは言え、多少ならアリア様は笑って流すだろうけど。
……コレットさんは許してくれないかもしれない。
「てか、殺されるならまだマシかも。本国でアリア様を襲った人が生きたまま生首にされて、今も標本と一緒に飾られてるらしいし」
「……なぁ、やっぱ私帰っちゃダメかな」
「ダメです。観念してください」
いやーレティさん、実にいい笑顔だなぁ……
てか流石にそこまでなることはないだろうから、大丈夫大丈夫。多分。




