312:名を名乗ろう。
「あ、失礼しました。申し遅れましたが、私はレティシャと言います。レティとお呼びください」
おじさん達に挨拶していなかったことを思い出したレティさんが、そちらに向き直り丁寧に名乗った。
そういえばお互いにまともに名乗ってなかったな……
ていうかすっかり忘れてたけどシャルロットさん、多分アヤメさんの名前しか知らないよね。
まぁ私は「妖精さん」で通じちゃうし、今のところお姉ちゃんやレティさんに直接の用事は無いだろうから、困る事はなさそうだけど。
「はい。私はルミエレスです。で、こちらはアルおじさん」
あ、名前ルミだけじゃないのね。
いや、よくある事か。レティさんもそうだし。
てか、なんかついでにおじさんも紹介されたぞ。
「自分は正式に名乗っておいて、なぜ私は略すのですか」
苦笑しながら言うアルおじさん。
おじさんって呼ばれることには別に異議は無いんだな。
まぁお兄さんにはおっさんとか呼ばれてたし、今更か。
「正式なキャラクター名はカズアルと言います。呼び方はご自由にどうぞ」
カズさんじゃないんだな。
いや、ご自由にって言ってるし別にそっちでも気にしないんだろうけど。
「ルミさんにアルさんですね。私はミヤコです。よろしくお願いします」
「私はアヤメ。で、この子たちはシルク、ラキ、ぴーちゃん。あ、ぴーちゃんは『ちゃん』も名前のうちなんで、略さないであげてください」
「ぴっ」
自分を紹介された時と忠告に「おねがいします」と言う時で、二回頭を下げるぴーちゃん。
毎度お願いする手間をかけて申し訳ない。
でもぴーちゃんは気に入ってくれてるみたいだから、後悔はしてないぞ。
……ご主人様がつけた名前ならどんな名前でも受け入れちゃうのかもしれないけど。
いやうん、それは考えないでおこう。
「こっちのちょっと大きいのが雪ちゃん…… 白雪で」
「コレはカトリーヌです」
「よろしくお願いします」
お姉ちゃんとアヤメさんに代わりに名乗ってもらって、二人でぺこりとお辞儀する。
例によってカトリーヌさんの扱いが雑だけど、気にしないでおこう。
「はいはーい! 待って、俺忘れないでー!」
あ、お兄さんが隣の集団から走ってきた。
「ふー、流れに置いてかれずに済んだ…… 俺ロク。六郎」
……六男なのかな?
いや別にそういう訳じゃないだろうけど。
「すみません、私が先走って挨拶を始めてしまいました。よろしくお願いします、ロクさん」
「おー。良いよ良いよ、間に合ったし一応聞こえてはいたから」
謝るレティさんに気にするなと手を振るロクさん。
聞こえてたなら別にダッシュしなくて良かったんじゃないかな。
「つーかおっさん、カズアルって言うのな。知らんかったわ」
「お互い様ですよ」
「あー、それもそうか。俺もちゃんと名乗ってなかったもんな」
まぁ、訓練とかでたまにやりあうくらいならそれが普通なのかな?
「その名前って、何か意味とかあんの?」
「ヒクイドリの事ですよ」
「鳥?」
「とても強いキック力を持ち世界一危険な鳥とも言われる、ダチョウの様な大型の鳥ですね。英語ですとキャサワリーと言って、そのままでは少々女性名といった感じを受けますね」
あ、横からいつものレティさんによる解説が入った。
「はい。ですので初めに名前を決める時にいくつか辞書を漁りまして、何語だったかは忘れましたがこの読みなら良いだろうと」
「なんでそこまでして……」
「はて、何故でしょうな。今考えると自分でもよく解りませんが、その時は拘りが有ったのでしょう」
えーって顔のロクさんにしれっと答えるアルおじさん。
うん、そういうのはたまにある。
後で考えると何でそんな拘ってたんだろう、別に良いじゃんっての。




