311:師範になろう。
「それじゃこの後の予定とかなければ、今から行きますか?」
「『時間が有るなら今から行きます?』って」
「人を訪ねるのに適した時刻とは言えませんが、よろしくお願いします」
うん、まぁそろそろ日が暮れるしね。
でもまぁ、少なくともジェイさんは寝る必要なさそうな体してるから大丈夫じゃないかな?
いやそういう問題ではないか。
「後で別々に案内してもらうのも、妖精さんの手間増やしちゃうしなー」
「お願いします」
おじさんに続いてお兄さんとルミさんも行こうとの事。
うん、それじゃここから直行だな。
……そもそも入れてもらえる保障は無いけど、多分なんとかなるでしょ。
「ならとりあえず、レティさんとラキを迎えに行こうか。反省会は終わったかな?」
「あー、どうだろな。そろそろ終わりそうな雰囲気だけど」
「まぁ終わってなかったら見てれば良いか」
「それじゃ案内する前にパーティーメンバーを回収するので、そちらも連絡を済ませておいてください」
「ほいよー、ちょっと行ってくる。あの子のとこだよな?」
「はい。そちらは?」
レティさん達の方を指さして尋ねるお兄さんに返事をして、おじさん達にも確認するお姉ちゃん。
「私は固定パーティーは組んでいないので大丈夫です」
ルミさんはフリーなのか。
まぁ使ってる魔法から考えると一人で狩りはしないだろうから、フリーの人で集まったり他のパーティーの助っ人に入ったりしてるのかな。
「私もフリーですので問題有りません」
ほー、おじさんもか。
「の、野良ダンディー! んぐっ」
「お前な……」
意味の解らない事を口走るお姉ちゃんの脳天に、アヤメさんの拳骨が叩き込まれた。
ほんと何言ってんだこの姉。
「すみません、うちのアホが」
「いえいえ。ダンディーなどと言われるのは少々面映ゆいですが、フリーの事を野良と呼ぶのは珍しい事ではありませんから」
おじさんが苦笑してる。
まぁうん、野良パーティーとか言うもんね。
「うぅ、ひどいよぅ」
「ほとんど面識のなかった相手に、いきなり失礼な事を叫ぶ奴が悪い」
「そうだけどさ……」
あ、解ってはいるんだ。
いやうん、テンションが普通の時はいたってまともだもんな。
問題はこっちだとポンコツだってことだけど。
いや、外で戦ってるときはまともらしいけど、一緒に行けないから見たこと無いし。
「それじゃあっち行こっか。 ……うぅ」
頭をさすりながら歩きだすお姉ちゃん。
相当良い感じに入ったらしいな。
んー、アレは何やってるんだ……?
五メートルくらいは有りそうな大きな箱が置かれてて、それにラキがカサコソ登っていってる。
で、箱の横にレティさんを含めた四人が座ってる。
お、てっぺんに着いてレティさん達のいる側の端っこに立ったぞ。
「ありがとうございました」
おおう、四人がそろって頭を下げた……
なんか知らないうちにラキが師範みたいになってる。
「何事だよ……」
「あ、お疲れ様です。ラキちゃん道場だそうですよ」
みたいっていうか師範だった。
こないだ私が【妖精吐息】配る時に、加護を授けるみたいな感じにされたのと同じ流れかな?
まぁこっちは本人もノリノリっぽいけど。
「ラキちゃん凄いねー…… うぅ、解ったよう」
褒めようとしたら威嚇されて、すごすごと引き下がっていくお姉ちゃん。
へこたれないなぁ。
「それでは私たちはこれで失礼しますね」
「おー、お疲れーす。ラキちゃんもまたなー」
差し出されたレティさんの手に飛び乗り、ぶんぶん手を振るラキ。
うんうん、遊んでもらえて良かったねー。
「お待たせしました」
「そっちもお疲れさん。なんか流れでこの人達を研究所に紹介することになったよ」
「そうですか、研究所に……」
あ、レティさんが「ほほぅ……」って顔になった。
「……私は先に帰ろうかな」
「シルクさんが『逃がさない』と仰っている様ですよ」
「え? ……いつの間に」
私も知らないうちに、アヤメさんの後頭部にシルクが引っ付いてた。
さっきまでカトリーヌさんを担いで後ろにいたはずなのに……
「くそう、観念するしかないか……」
「アヤメちゃん、ほんと小っちゃい子に優しいよねぇ」
「うるさいよ」
「振り払おうと思えばいつでも出来ますが、そうはしませんしね」
「良い人ですわ」
うん、シルクは家の中だと普通の人くらいの力が出せるけど、お外だと見た目通りになっちゃうもんね。
普通に頭を振るだけで落としてしまえるだろう。
「私にももうちょっと優しくして欲しいなぁ」
「それはミヤコさんが悪いのではないかと」
「はい……」
頭をさすりながらボヤいたお姉ちゃんが、レティさんに一言で黙らされた。
うん、大体自業自得だよね。




