309:呼んでこよう。
ぴゃっぴゃっとミドルキックの反復練習をするぴーちゃんに、おじさんが言葉で説明しつつ人形を使って姿勢を修正してあげてる。
なんか人形の腕に長手袋みたいに布がかぶせてあるのは、指導の時にぴーちゃんが泥で汚れない様にかな?
向かいに居た呪術使いさんは、引き続きぴーちゃん人形を作るのに没頭してるらしい。
あれ何か芯でも入れてあるのかな?
ぴーちゃんの足の部分、細いから普通だと支えきれないと思うんだけど。
あぁ、でも【錬金術】とかで固めたりもできるかな。
あの人が持ってるかは知らないけど。
「おっとハーピーさん、お迎えがいらしたようですよ」
「ぴっ? ぴゃー! ぴぴっ、ぴっ」
私の方を見てから万歳して、おじさんの方を向き直して「ありがとうございました」と深々とお辞儀するぴーちゃん。
あれ、別に通訳要らなかった?
あー、でもぞろぞろ来たから終わりってすぐに解ったのかもしれないし、まぁ良いか。
「ありがとうございましたー」
私からもお礼を言ってお辞儀し、一応お姉ちゃんに通訳してもらう。
してもらうっていうか、頼む前に察したお姉ちゃんが伝えてくれたんだけど。
「いえいえ。ハーピーさんに指導することでこちらにも色々と得るものも有りますので、お気になさらず」
「ちっちゃい子とのふれあいとかな」
「いえ、体の造りの違う方に適した動きを工夫していく中で、自らの体遣いも改めて見直せます。一つ二つ気になる点も出来ましたので、中々に有意義であったかと」
「真面目か。いや、あんたそういう人だったわ」
後ろから昼にやりあってたお兄さんが茶化すも、すっごい普通に返されて苦笑してる。
「ほほう、ぴーちゃん様はキックを教わっていたのですね」
「うん。なんかよく解んないけど教えてもらえることになったみたい」
「では、修練の成果を私にひぃっ!?」
変な事を言おうとしたカトリーヌさんが、またシルクにお尻ぺんぺんされてる。
今の言葉だけだと普通に防御で受けてみる可能性もあったけど、まぁどうせカトリーヌさんだからノーガードだろうな。
いや違ったら申し訳ないんだけど、その場合はちゃんと言うだろうし。
言ってこないっていう事はボケてツッコまれておしまいって事だろう。
ていうか、そもそもまだ成果が出るほど修練してないよね。
いや、それ以前にぴーちゃんの力だと成果が無くても【妖精】じゃ止められないわ。
「放っておいて大丈夫なのですか?」
「あー、どつき漫才みたいなもんだから気にしない方が良いですよ。キリが無いんで」
「ふむ、なるほど」
少し心配そうに言うおじさんに、アヤメさんが説明してくれた。
実際、シルクがぺんぺんしなかったらぴーちゃんが遠慮なく蹴り飛ばすだろうから、カトリーヌさんがダメージを受けることには変わりないし。
「ところでルミさん、一つお願いが有るのですが」
「はい。新しいサバトンですね?」
呪術の人、ルミさんっていうのか。
呼び名だから本名かは判らないけど。
ていうかサバトンって何だっけ?
「ええ。恐らくそうは呼べない物になるでしょうが、よろしくお願いします」
「それじゃ、後ほど工房で詰めましょう」
「なぁ、サバトンって何だっけ?」
お、ラッキー。さっきのお兄さんが聞いてくれた。
「私が普段武器として使っている、甲冑の靴の部分ですよ」
あー、なるほど。グリーブが脛当だっけ?
なんか靴のとこもセットでその名前で覚えてた気がする。
「ああ、あのごっついのか。どっかイカレたのか?」
「いえ、ハーピーさんの足を模した仕掛け靴を作って頂こうかと。やはり、自分で試してみた方が感覚も掴みやすいですからね」
おおう、そこまでするか……
なんか申し訳なくなってくるな。
「ほー、教えるためにわざわざ新しく作るのか。真面目だねぇ」
「いえいえ。自ら飛べる様になった時、その分自分に返ってくる事ですので」
「あー、なるほどね」
そっか、その時は逆に教えてくれって言ってたもんね。
ぴーちゃんの練度が上がるのは、おじさんにとっても良い事なのか。
「ところで、空を飛ぶなら遠距離戦も出来た方が良いと思うんですが」
おや、ルミさんが横から声をかけた。
魔法じゃダメなのかな?
あー、でも狐族とは言え普通の人の魔力で飛んだ上に【空間魔法】なんて使ってたら、普通の攻撃に回す魔力なんて無いか。
「ふむ、確かに」
「トランプ投げとか似合うと思うんですよ」
いや何を言い出してるんだ。
確かに似合いそうではあるけど。
「トランプですか? 確かに現実でも余興として習得はしましたが、空中戦の距離では使えないかと思いますよ」
……できるんだ。
似合うからやってみてとか言われたのかな。




