307:助けよう。
うん、まぁやっちゃったものは仕方ない。
今のはわざとですしーとか取り繕おうとしたら、多分余計に生暖かい眼で見られるだけだろうから、開き直るしかない。
ん? あー、また切れてたか。
翅をつんつんするシルクにお礼を言って、【姫蛍】を再発動。
てか、お外はそろそろ暗くなり始めてるな。
この辺で切り上げよう。
「今日はここまでにしようか。シルク、行くよー」
地面から少しだけ浮いた状態で座っているシルクに声をかけ、まずはお姉ちゃんの所へ。
距離はぴーちゃんが一番近いんだけど、おじさんは私の声が聞こえないから通訳が居た方が良いだろうし。
「どうしたのですか? 遠慮は要らないのですよ? 私は手の届く距離に居ますわよ?」
「ふぬー!」
本当に不思議ですわねぇと言った表情でお姉ちゃんを挑発し続けつつ、ひらひらと人形のパンチを避け続けるカトリーヌさん。
……カトリーヌさん、その気になればこんなに動けるんだなぁ。
でもこの妖精の場合、この機動力を使って逆に攻撃に当たりに行くから無駄だよね。
「おーい、そろそろ切り上げないー?」
「雪ちゃーん、全然当たんないよー!」
人形を止めてこちらを向き、泣き言を言うお姉ちゃん。
「まー頑張るしか無いんじゃない? いや、それ頑張るくらいなら普通の訓練しなよとは思うけど」
「そうなんだけどさ。もう意地だよね」
「解らないでもないけどさ。ってカトリーヌさんはどうしたの」
なんか気付いたら土下座してた。
「誠に申し訳ございませんでした」
「あー、挑発してたからか」
「良いよ良いよ。私に手を出させるためだったのは解ってるし、実際まともに当てられてないんだから」
「いえ、そういうわけには参りません。この無礼者にどうか」
「はいはいシルク、それ拾っといて」
挑発を口実に罰を受けようとしているカトリーヌさんの言葉を遮って、シルクに回収をお願いする。
「がふっ」
……おおう。
土下座してるカトリーヌさんの脇腹に蹴りを入れて仰向けにひっくり返してから、ひょいっと拾って肩にお腹を乗せて担いだ。
かなりびっくりしたけど、近づいて行ってる最中にカトリーヌさんがチラッと目くばせしてシルクも頷いてたから、あの一瞬で打ち合わせをしたんだろう。
あ、鼓みたいにお尻を叩かれてあひぃって言ってる。
「あれ、良いの?」
「まぁ本人の希望だろうし良いんじゃない?」
「うわー……」って顔でカトリーヌさんを見て言うお姉ちゃんに雑な返事を返しつつ、アヤメさんの様子を見に行く。
慣れないとやってらんないよ?
「くっそ、ちょっ、やめろって!」
「良いじゃなーい」
あー、遊ばれてるなぁ。
お狐さんが片手で人形を操りながら、アヤメさんのウサ耳をさわさわ撫でまわしてる。
逃れようと頭を振ってるけど、一旦離れて戻って来た耳が触ってた手にぼふって当たってちょっと気持ちよさそうだぞ。
「いやー、楽しまれてるねぇ」
「助けてくれよー……」
「言われてもなぁ。まぁ切り上げようって言いに来たんだし、ある意味助かりはするかもだけど」
「お、そっか。妖精さんがそろそろ帰りたいらしいから、私も切り上げますよ」
「あら残念、それじゃ仕方ないかー。ウサちゃん、またねー?」
素直に引き下がってくれたな。
いや、ウサ耳から手を離す直前にわさわさっと揉んで堪能してたみたいだけど。
アヤメさん、「だぁーっ!」って言ってたし。
「なんで私はああいう人ばっかり寄ってくるんだ……」
「うーん、なんだろねぇ」
「アヤメちゃんの何かが惹き付けちゃうんだろうね」
「嬉しくは無いな」
「あ、研究所のジェイさんもあんなタイプだよ」
「マジか……」
「うん。多分気に入られてヌルヌルされちゃうと思うから、行くなら気を付けた方が良いよ」
「うん、そう言われたら行く事は無いな」
……いやー、なんだかんだと逃れられない理由を付けられて、レティさんに引きずられて行く未来が見える気がするよ。
お姉ちゃんも面白がって止めないだろうし。




