302:観戦して回ろう。
さてさて、そのラキは頑張ってるかな?
あ、ぴーちゃんがカトリーヌさんに飽きたのか他を見に行った。
……操ってる人と目が合ってビクッてされて、ちょっとしょんぼりして謝られてる。
うん、まぁ仕方ない。
現実だとそのまま逃げられるだけだから、謝ってもらえる分まだ良いよ。うん。
お、やってるやってる。
ってあれ、なんか攻守が入れ替わってるのかな?
ラキがグローブ付けてる。
「別の遊びにしてみたの?」
「はい。いくらやっても捕まえられなかったので、お願いしてみたのですが……」
「ん、何か問題が有った?」
「問題と言いますか…… ラキさん、そちらの方が得意らしい上に、容赦も全く無いですね」
あ、顎にまっすぐパンチが入って人形の首がバコーンって吹っ飛んだ。
削り取るとかへこませるとかじゃなくて丸ごと吹き飛ばすとか、一体どうなってるんだアレは。
「あー…… まぁ、飛びかかる時限定の能力みたいなのもあるっぽいくらいだしね」
私に向けて勝利のダンスを踊るラキを見ながらコメントする。
今は完全に攻撃に備えてない状態みたいだけど、頭部を破壊したら勝ちってルールなのかな?
レティさんも糸を置いて飛び散った土を人形の根元に集めてるし。
「よしよし、頑張ってるねー」
踊りを止めて両手を上げ「褒めて褒めてー!」って顔をしてるので、近づいて人差し指でナデナデしてあげた。
「よし。ラキさん、もう一勝負と参りましょう」
準備を終えたレティさんの言葉で、ラキが私の指先に頬ずりするのを止めて人形に向き直る。
「お互いに頑張ってねー」
試合を始めた二人に手を振って離れる。
……あれ?
そもそもあれって待ってる時間に遊んでるために渡した様な?
まぁ良いか。
別に他の用事が有るでもないし、そこまで夜遅くもないし。
「あ、白雪さ」
「あっ」
横から近づいた私に挨拶をしようとしたカトリーヌさんが、ほっぺたに人形のパンチを受けて吹っ飛んだ。
あれ、でも痛そうではあるけど無事だな。
少なくとも首はちゃんと繋がってる。
「ご、ごめんカトリーヌさん! 大丈夫!?」
「いやお姉ちゃん、自分で当てておいて何言ってんの」
「いや、なんか当たると思ってなかったからビックリして……」
「ご心配なく。と言いますか、思ったより痛くないですわ……」
あ、ガッカリした感じで戻ってきた。
「まぁ、よく考えてみたら同じスケールな訳だしね」
「そうですね。土で出来ているおかげか、重めの打撃ではありましたが」
「んー…… 多分素材じゃなくて、根元が固定されてるからじゃない?」
「ああ、なるほど」
お姉ちゃんの推測に納得するカトリーヌさん。
足が滑ったりしない分、パンチの反動を綺麗に受け止められるのかな。
「では、今度は石などで作って頂いて」
「いや、別に私カトリーヌさんを殺したいわけじゃないからね?」
鞄を後ろに隠しながら言うお姉ちゃん。
いや持ち主じゃないと多分出せないし、そもそもお姉ちゃんの持ってる石を使えとも言ってないし。
ていうかその反応、その鞄どれだけ石入ってんの?
「残念です。ではこのまま練習を続けましょう」
「えー? カトリーヌさん相手だと、当たった時焦っちゃうんだけど……」
うん、まぁそうだろうね。
さっきのも挑発された勢いでそのままやってただけだろうし。
「大丈夫ですよ。先程は油断しただけですので」
「でもなー」
「本来でしたら、この程度の弱々しい攻撃しか出せないミヤコさんなどに、この私が吹き飛ばされるはずが無いでしょう?」
「うぬぬー」
カトリーヌさんの挑発に唸るお姉ちゃん。
しかしカトリーヌさん、人形の腕をぺちぺち叩いてる仕草や表情とか、見下す態度が手慣れてる感じだなぁ。
……あー、そうか。
あの人の場合、自分がされたい対応を参考にすれば良いのか。
「よーし解った。そんな挑発が出来ない位、上達してやるんだから!」
「それで良いのです。この様な口が二度と聞けない様に、徹底的に打ちのめしてしまいましょう」
「いや、そこまでは別に…… ある程度当てられる様になればそれで良いよ」
「むぅ、案外落ち着いていらっしゃる」
いや、カトリーヌさんが行き過ぎた事を言うから、逆に引き戻されてるだけだと思うよ?




