301:皆にもあげよう。
「ところで白雪さん」
「ん?」
レティさんがむにむにと人形の頭を直しているのを見ていると、急に振り向いて声をかけてきた。
なにかな?
「どうせなら皆さんにも作ってさしあげた方が良いのでは?」
「……あー」
「僕からもお願いしたいなぁ。このままじゃその内奪い取られるんじゃない?」
あははと笑うお兄さん。
私が皆をスルーしてレティさんとラキを見に来たからか、余ってたのを使ってたお兄さんがめっちゃ見られてたらしい。
自分だけやってないで早く代われよって事か。
というか、はっきり言われてないとはいえこれだけ露骨に見られてるのに全く動じずに続行してるあたり、かなりの精神力の持ち主だな。
面の皮の厚さかもしれないけど。
「いや、まぁ別に私の糸が無くても普通に出来るはずなんですけどね」
「地面を経由するのと違って無駄な所に流れて行きにくいから、かなりやりやすさが違うかな」
「はー、なるほど。……って聞こえてるんですね」
「うん、まぁね。ついでに一つ先取りさせてもらうと、普通の糸よりもかなり魔力が通しやすいね」
「あ、はい」
普通の糸でも良いんじゃって言葉を封じられてしまった。
まぁ別に糸を出す事が嫌ってわけじゃないから、素直に出せば良いだけなんだけど。
さて、それじゃ配布するとしようか。
両手を振って皆の注意を引き、レティさんに伝言を頼む。
「それじゃ順番に渡しますから、欲しい人は並んでくださいねーとの事です」
おおう、魔法使い組は殆ど並ぶのか。
糸が欲しいだけの人とか居るんじゃないだろうな。
まぁそうだったとしても別に良いけどさ。
お金を取れる程の量を渡すわけでもないんだしね。
にょろにょろと糸を出しまくって、サクサクと渡していく。
流石にこれだけの人数だと人形まで作ってたら時間かかっちゃうんで、そこはセルフサービスで。
……集まらせた私が言うのもなんだけど、皆暇なのかな?
うん、人の事は言えないから気にしないでおこう。
どんどん量産しながら、既に渡した人たちをチラっと見てみる。
当然と言うか、やっぱり個人差が結構あるみたいだなぁ。
割と初めの方に渡したのに、まだ地面から人形が出せてない人とかも居るみたいだし。
これも当然だけど、【土魔法】を撃ってきてた人は比較的滑らかに動かせてる。
……なんか一番強力なの撃ってた人が人形も出せてなくて「あれー……?」って言ってるけど、まぁそれは例外だろう。
あ、【空間魔法】のおじさんだ。
そういえば今日は魔法使い組に居なかったな。
訓練で結構使ってたみたいだし、無駄に撃つほどは余ってなかったんだろう。
はい、と手渡してぺこりとお辞儀。
おじさんも笑顔で頭を下げ、先に受け取って練習していた呪術使いさんの向かいに歩いていった。
なんだろう、会話は全く無いけど割と仲が良さそうに見える。
いや別に何も問題は無いし、良い事だと思うけどさ。
最初に見た目が地味って言ってた繋がりで、何か通じる物が有ったんだろうか。
よーし、希望者全員に配り終わったぞー。
皆待たせちゃったかな?
って何もやってないのシルクとぴーちゃんだけだったか。
シルクはずっと私の斜め後ろにそっと気配を消して浮いてたけど、ぴーちゃんはどこに……
あ、お姉ちゃんとカトリーヌさんの戦いを観戦してる。
アヤメさんはどうかな?
あー、今度は逆にのらりくらりと攻撃を躱される側になってるな。
「あーもう、この人すっごいやり辛い!」
「ふふっ。ほーらほら、もっと楽しみましょー?」
パンチをくぐって、反撃するでもなくそっと撫でるだけで下がっていくお狐さんの人形。
うわー、あれは悔しいだろうな。
まぁカトリーヌさんの時のラキよりはマシだろうけど。
あれ、相手を見てすらいなかったし。




