299:うっかりしよう。
「うおっ!?」
「ほわっ!?」
突然背後で沸き起こった爆笑に、魔人さんと一緒に驚いて振り向く。
一緒に来てた人も皆あっち見てるな。
「なんだぁ……?」
「何があったんですかね?」
聞こえないのは承知で呟きつつ見ようとするも、人が多くて何も見えない。
上から見てみようかな?
「ア、アヤメちゃん、かっこわるーい!」
と思ったらなんかお姉ちゃんの声が聞こえて来た。
「だー! やかましい!」
恥ずかしげなアヤメさんの声も。
アヤメさんが何かやらかしたのは判ったけど一体どうしたって言うんだ。
「だ、大体あんただって気付いて無かっただろうが!」
「うっ」
アヤメさんの叫びとお姉ちゃんの気まずげな声。
……あー、そうか。
アリア様まで平気でやってるから忘れてたけど、普通の前衛は【魔力操作】持ってないから、まず魔力を流すことが出来ないんだな。
私も忘れてたからあんまり笑えないわ……
「ぅ私が相手だぁ……ッア゛ァー!!」
……なんか脛を押さえた人が転がり出てきた。
横からおちょくって制裁されたか。
「何をやってるんだ、あいつらは……」
あ、魔人さんが呆れてる。
まぁそりゃそうだ。
「えーと、多分アヤメさんがやるって言ったは良いけど、【魔力操作】が無いから動かせなかったんだと思います」
推測を口に出しつつ、聞こえない相手なのでジェスチャーで伝える努力をする。
指を揃えた両手を頭に当ててウサ耳にして、下ろした右手に魔力球を浮かべて左手で指差し、それを消してから両手でおっきくバツ印。
「あー、なるほど。相手をしようにも魔力が操れなくて動かせなかったのか」
お、伝わった。
「ウサ雪さん、可愛らしいですわ」
「……言われたらなんか恥ずかしいから勘弁して」
「はい」
むぅ、クスクス笑うんじゃないよ。
「いやうん、つい笑っちゃったけどごめんね。私の為にやるって言ってくれた様なものなのに」
「あー、良いよ、気にするな…… 気付かなかったのは事実だし」
あー。確かにアヤメさんが名乗り出たのは、お姉ちゃんがボコボコにされてたからだもんな。
うん、善意でやってくれたことでうっかりしてただけだし、バカにするのは良くないだろう。
「ただな」
「ん?」
「レティ、あんたは気付いたのに黙ってただろ……」
「ぬ、濡れ衣、です、よ?」
「顔見りゃ判るわぁ!」
うん、ここから聞こえる笑いを堪えてる声でも大体想像が付く。
あの人は本当にアヤメさんをイジるのが好きだなぁ……
「くっそー、見てろよ…… 絶対ボコボコにしてやるからな」
「あ、両方取っちゃうんだ」
両方? ……あぁ、【魔力操作】と【魔力感知】か。
ていうかわざわざ取っちゃうのか。
「良いだろ。あんたらだって【聴覚強化】取ってんだし」
「構わないけどさ。それにアヤメちゃん、普段からMP余ってるもんね」
「使い道がほぼ無いからな。いっそ頑張って私も【純魔法】覚えるかね」
「あー、獣人は適性低いから中々取れないだろうけどね」
「まぁ取れたらラッキーって感じで。よーし、待ってろ。すぐに慣れるから」
「うぅ、アヤメちゃん器用だし、本当にすぐ慣れちゃいそうだよぅ」
やる前から弱音を吐いててどうするんだ、お姉ちゃんよ。
アヤメさんが練習してる間に自分も頑張りなさい。
「っと、いつまでも見てないでこっちはこっちでやらんとな」
面白そうに見ていた魔人さんが、集まった理由を思い出して皆の注意を引く。
「そうですね。あ、シルクー…… ありがと」
いつも通り一応脱いでおこうと思ってシルクを呼んだら、例によって何か言う前に脱がされた。
うん、話が早くて良いけどさ。
「私も脱いだ方がぁっ!?」
「ぴゃー」
隣でしょうもない事言ってぴーちゃんにドロップキックされてる【妖精】が居るけど、気にしないでおこう。
「よーし並べ並べー。ケンカすんじゃねーぞー」
「一列で良いのかー?」
「おー、先頭が空いた側に入れば良いだろ」
魔人さんが魔法使いの皆を整列させる。
仕切ってくれる人が居ると、本当に助かるなぁ。
「あ、おかえり」
「ぴっ」
カトリーヌさんを鷲掴みにしたぴーちゃんが帰って来て、上からポイッと捨てる。
ぐったりした姿勢のまま落ちてきて、そのままのポーズで私の横にフワッと止まるカトリーヌさん。
かなりの勢いでふっ飛ばされた割に、結構余裕あるな。
「はいはいカトリーヌさん、起きて挨拶しようね」
「はい。それでは皆様、よろしくお願い致します」
「お願いしまーす」
カトリーヌさんに合わせて、皆に向かってぺこりと一礼。
よーし、バンバン撃ってこーい。
お、ラッキー。
先頭でこっちに来たの、初めての人だ。
「よろしくねー! よーし、行っくよー」
挨拶にお辞儀を返して、さぁ来いと手を広げて頷く。
お、かなり強いのが来るっぽいな。
やっぱり遠出で鍛えられてる人かな?
まぁ何でも良いんだけど。
おー、温かくて気持ちいい。
お味の方はどうかなー?
「うおー、美味しいけどちょっとすっぱい……」
うん、レモン系だな。
魔力が濃くて美味しいから良し。
十発ほどポンポン撃たれて、全部美味しく頂く。
「ふー、もう無理ー」
「ありがとうございましたー」
スイーッと近寄って、体の周りを回りながら【妖精吐息】を全身に吹いてあげる。
一発一発が強力で、しかも一杯撃ってくれたからサービスだ。
「わー、ありがとう。忙しくてあんまり来られないけど、次もよろしくね!」
「こちらこそありがとうございます。とても美味しかったです」
お礼を言いつつ頭を下げる。
多分【MND強化】の経験値的にも美味しかったんじゃないかな。
「よ、よろしくお願いします」
おおう、次は【呪術】の人か。
この人、大人しそうな顔して平気で即死魔法叩きこんで来るからな……
いや、別に構わないんだけどね。




