298:遊ばせよう。
「なんだそれ?」
「雪ちゃんが今日これで遊んでたって聞いて、私もやりたいって言ったんですよ」
「訓練ね、訓練。あと説明になってないよ」
後ろから覗きこんだ魔人さんの疑問に、雑な返事を返すお姉ちゃん。
「それ」が「なに」か聞いた質問への回答じゃないでしょそれ。
「遊んでたんじゃなくて『くんれん』してたんだいって怒られちゃいました」
「だからなんでお遊戯みたいなニュアンスで言うかな……」
「こうやって魔力を流して、【土魔法】の練習として動かしてるうちに『対戦しようぜー』みたいなノリになったらしくて」
私のツッコミをスルーして、ぎこちなく人形の腕を動かしながら言うお姉ちゃん。
あ、レティさんが自分が動かしてた人形をお姉ちゃんのやつの正面にそっと植えた。
「あぁっ!?」
「このように、ですね」
地面と同化させて固定した人形を操り、スパーンと正面の人形の首を飛ばすレティさん。
慣れるの早い上に容赦ないな。
「ひどいよぅ」
「乗せて馴染ませるだけで元通りですし、良いじゃないですか」
「んもー、レティちゃんなんでもうそんなに動かせてるの……」
「まぁレティだからな」
「むぅ。仕方ないか」
人形の頭部を戻しながらぼやくお姉ちゃんに、答えになってない答えをアヤメさんが横から返す。
それで納得できちゃうのか。
なんとなく解らなくもないけど。
「あんたは【火魔法】専門だと思ってたんだが、【土魔法】も持ってたのか?」
「はい、一応基本的な魔法は一通り。ただ仰る通り、専門だと思われるくらい【火魔法】しか使ってないので……」
「『一応使えるだけ』といった感じですね」
「ちなみにレティちゃんは持ってないはずなんですけどね……」
お姉ちゃんが魔人さんと話してる間にも、お姉ちゃんの人形がぎこちなく放つパンチをすり抜けて、そのボディにひたすら左右からフックを叩きこんでいるレティさん。
あんまりやってるとまた折れちゃうぞ。
「んもー、レティちゃん慣れるの早すぎてイジメみたいにしかならないよぅ」
「レティ、貸してみ。流石に私になら勝てるだろ」
見かねたアヤメさんがレティさんと交代した。
「うぅ、負けられない戦いが始まる……」
まぁ魔法担当としてはそう思うかもしれないけどさ。
攻撃魔法とは別の技術なんだから良いんじゃないかな。
実際、【妖精】の私達よりジョージさんやコレットさんの方が動かすの上手いし。
いや、あの二人は別格な気もするけど。
「では私はこちらの人形を…… あら?」
あ、レティさんの肩に乗ってたラキが駆け下りて、人形の正面でシャドーを始めた。
「ええと、これは勝負しようという事でしょうか?」
「多分。私達が別の訓練してる間にアリア様と遊んでたし、そういう事だと思うよ」
「人形を上半身だけにして、ラキ様のフィールドはほぼ人形の前方のみに制限していましたわね」
人形の近くの地面に手を置いて、魔力を流して人形の下半身をずぶっと地面に引きずり込むカトリーヌさん。
なんか私より【土魔法】慣れてきてないか。
いや良い事だけどさ。
そのまま周りの地面も操って細い溝を掘り、ラキ用のフィールドを作っていく。
うーん、器用だなぁ。私も頑張らなきゃ。
「で、上手くラキを捕まえるか弾いて場外に出せば勝ちって感じかな」
「ラキさんは危なくないのですか?」
心配するレティさんの言葉に、両手を上げてキシャーッと威嚇するラキ。
「ちっちゃいからってなめんなよー、だってさ。アリア様もべちーんって普通に叩きに行ってたし、問題ないはずだよ」
「そういう事でしたら遠慮なく…… カトリーヌさん、危ないですよ?」
「あ」
打撃を受けようとして間に待機してたカトリーヌさんが、ラキに排除された。
こらこら、足首に巻いた糸を引っ張って地面の上を引きずり回すのは止めてあげなさい。
擦り傷だらけになって嬉しそうだから。
「まったく、ラキの邪魔しちゃダメだよ」
「すみません、ついつい」
砂や小石に擦れてそこら中から血が出ているので、血が止まるくらいまで【妖精吐息】で治療しておく。
残念そうだけど、半端に現実味のある傷だから見てて痛々しいんだよ。
「他の奴なら大丈夫かって言うんだが、変態だからなぁ」
「いつもの事ですしね」
後ろから見ていた魔人さんのコメントに同意する。
聞こえない相手だから大きめに頷くのもセットにしておこう。
「さて。正直俺もそっちが気になるんだが、今は妖精さんに魔法をぶち込みに集まったんだしな」
「そうですね。それじゃあっちへ行きましょうか」
近くでやったらわざわざ壁の近くで作った意味が無いので、『あっちいこう』というジェスチャーをしつつ皆を残して元の位置へ飛んで行く。
よーし、今日も一杯耐えるぞー。
……初めての人は何味かなー?




