297:おもちゃを上げよう。
「んじゃ、行こうか」
「はーい」
アヤメさんの言葉を合図に台から飛び立つ。
……前に、こっそりと銅貨を置いておこう。
うん、なんかお姉さんがチラッとこっちをみてた気がするけど、気付かれてないって事にしとこ。
で、改めて飛び立つ。
「あ」
訓練場に向かって歩いていると、お姉ちゃんが突然何かを思い出した様な声を上げる。
「ん? どうした?」
「いや、【騎兵】って乗ってる馬に経験値を流すわけでしょ?」
「あぁ、そう言ってたな」
「それで思ったんだけど、複数の馬に乗ってたら経験値ってどうなるんだろ」
「複数の馬に同時にってのは良く解らんけど、分配されるんじゃないか?」
「ほら、人でも良いんだし運動会の騎馬戦みたいにさ」
「あー」
なるほど、確かにあれだと三人くらいに乗ってる事になるか。
「いっその事、四人で輿を担いで【騎兵】を乗せれば、パーティー人数的にも丁度良いのでは」
「……いや見てみたくはあるけど、完全に色物だよな」
「ていうか、それもう上に居るの【騎兵】じゃなくて良いよね」
なんでレティさんは「良い事を思いつきました」みたいな顔で言うんだ。
魔物相手に喧嘩神輿でもやる気か。
あとお姉ちゃん、それを言うならさっき自分が言ったのにも当てはまってるからね?
などと割とどうでも良い事を話しているうちに訓練場に着いた。
例によって書き込んでそんなに経ってないのに、結構たくさん集まってるみたいだな。
初めて見る人もチラホラ居るな。
遠出してた人が帰ってきたのかな?
あ、いつもの魔人さんが歩いてきた。
「よっ」
「あ、こんばんはー。今日も集まってもらってありがとうございます」
「俺が集めた訳じゃないし、それは皆に言ってやってくれ。全く暇人が多いよなぁ」
「集まった側の代表みたいになってるあんたが言うか」
「それを言われると返す言葉が無いな」
うん、皆勤の人が言える事ではないよね。
お姉ちゃんに代わりに挨拶をしてもらいつつ、カトリーヌさんと並んでお辞儀する。
「少なくとも私は訓練場に行く」って言ったけど、よく考えたら誰か一人は付いて来てもらわないと挨拶出来ない可能性があったな。
いつも聞こえる人が居てくれるとは限らないし。
「で、申し訳ないんですけど始める前に少し時間をもらいますね」
「どうしたんだ?」
「ちょっとおもちゃを貰う約束をしてまして」
ん? あー、糸か。
そうそう、待ってる間にやるなら渡しておかないとだな。
「んじゃ危なくない様に、端っこの方で」
「はーい」
近くでやってると、流れ弾が飛んで行かないとも限らないしね。
壁の近くまで飛んで行って、糸を五メートルほど伸ばしつつ下がっていく。
短すぎるとやりづらそうだから伸ばしてみたけど、長くても流すのは問題無いのかな?
まぁやってみれば判る事か。
糸を指先から切り離して反対の手で掴み、魔力を流して地面を盛り上げ簡単な形の人形を作る。
予備も含めて同じ物を四つくらい作っておくか。
「はいこれ。見た目の調整は自分でお願いね。あと動かし方は口では説明しづらいから、頑張って慣れて」
「わーい、ありがとー」
「慣れるとあんな感じで、結構滑らかに動かせる様になるから。多分」
カトリーヌさんが地面に直接魔力を流して実演してくれてるので、それを指さして言う。
「多分ってなんだよ」
「【妖精】の魔力の濃さのおかげで簡単に動かせてる可能性もあるし」
「あー」
他に遊んでたのがジョージさんやコレットさんだから、普通の人としてはあんまり当てにならないんだよなぁ。
「あ、でもアリア様も普通にやってたか。うん、それなら大丈夫かな」
「まぁ、やってみりゃ判るだろ。てな訳でどうよ?」
「うーん…… なんとかなりそう、かな」
「慣れが必要そうですね」
いつの間にかレティさんも拾って試してた。
うん、二人ともぎこちないけど動かせてるし、すぐに慣れるでしょ。
「ところでこれ、横に並べて作ってあるけど動かせるのか?」
「あー、多分むしってから置き直して、地面に馴染ませれば大丈夫じゃないかな」
うん、多分。
その辺、何も考えずに適当に作ってたよ。
まぁ糸で動かしてるんだし、固定さえできれば問題ないでしょ。




