296:また落とそう。
「ところで、そちらの妖精さんは大丈夫なんですか?」
ん?
あ、そちらのって事はカトリーヌさんかな……って、静かだと思ったら何やってんの。
クモ糸で猿轡を噛まされて全身を縛られたあげくに、後ろ側で手首と足首をまとめられてエビ反りになってた。
ラキの姿が見えないけど、なんかカトリーヌさんがちょっとずつ端に向かって動いてるから、体で出来た輪っかの中で押してるんだろうな。
……手足をまとめた所から糸が伸びてるし、また突き落とす気か。
引きずったり担いで放り投げたりじゃないって事は、位置取り的にも一緒に落ちてブランコにするつもりかな?
「え? あー、まぁカトリーヌはそういう人だから放っとけば良いよ。いつもの事だから」
「大丈夫じゃないけど大丈夫だよ」
「な、なるほど……?」
アヤメさんとお姉ちゃんが乾いた笑いと共に微妙なコメントを返す。
シャルロットさんは「良く解んないけどそう言うなら……」って感じだな。
あ、落ちた。
「さて、それでは私はそろそろ失礼させて頂きますね。お魚、ありがとうございました。この恩はいつか必ず」
「別に、そのくらい気にしなくて良いよ」
「いえ、そういう訳にはいきません。どこへ逃げようとも、必ず追い詰めて返させてもらいますからね!」
「いや怖いわ」
アヤメさんが若干引いてる。
……この屋台、高いのでも銅貨二枚だったと思うんだけど。
「あ、そうだ」
「はい? あ、はい」
なんかアヤメさんが手を動かして、続いてシャルロットさんも動かしてる。
メニューパネルを操作してるのかな?
「では改めて失礼します。お疲れさまでしたー」
「おつかれさまー」
シャルロットさんはぺこりと頭を下げて、てこてこ歩いて人混みに消えていった。
「アヤメちゃん、さっき何してたの?」
「ん? 返したいって言ってるし、フレンド登録しておいた方が便利かなって」
「えー、ずるーい」
ぶーっとむくれるお姉ちゃん。
子供か。
「いやずるいって何だよ。自分もしたけりゃ、今度見かけた時にでもお願いすれば良いだろ」
「まぁそうだけどさー」
まぁ元々この近くに居たっぽいし、ご飯時に屋台エリアを探せば見つけるのは難しくなさそうだしね。
「んじゃ、私達も食べ終わったんだし移動しよかー」
「そうですね。カトリーヌさん、助けは必要ですか? ……大丈夫ですね」
おお……
エビぞりに縛られたままの状態でフワーッと浮かんできた……
うん、まぁ確かに翅が動かせなくても飛べるけどさ。
見た目の違和感が尋常じゃないな。
シルクがカトリーヌさんに手を伸ばしたけど何をする気かな?
あー、糸を切ってあげてるのね。
あ、ラキがシルクの腕の上を走って来た。
勢いそのままにジャンプして、ぽすっとぴーちゃんの頭の上に張り付く。
よしよし、おかえりー。
「ふぅ。シルク様、ありがとうございます」
手首をコキコキさせながらお礼を言うカトリーヌさん。
……いや、あれどっちかって言うとゴリゴリだな。
落ちた衝撃で関節がおかしくなったのかな?
足首もなんかプラプラしてるし。
少しだけ浮いたまま関節の位置を調整して足を板に押し付ける様に降下し、足首を無理矢理はめるカトリーヌさん。
うわー、すごい痛そう。
でもまぁ本人は幸せそうだから、良いんだろう。
「一応、治療しておきますか?」
「いえ、大丈夫ですわ。お待たせして申し訳ありません。さぁ、参りましょう」
「あー、これから訓練場なんだよね?」
エリちゃんが確認の問いかけを発する。
どうしたのかな?
「少なくとも私はそうだね。カトリーヌさんもかな」
「はい」
「私も行くよー。さっき言ってたのも試したいしね」
さっき?
あー、土人形でのボクシングもどきか。
アヤメさんとレティさんも頷いてるし、一緒に行くんだろう。
「んじゃ私は一旦ここで別れるよー。ソニアちゃんにおみやげ買ってくるって約束してるからねー」
「あ、うん。それじゃエリちゃんもお疲れー」
「あー、多分そっちが戻って来てもまだ居ると思うけどねー」
手を振って屋台を物色しながら歩いていくエリちゃん。
お金は大丈夫かな?
まぁ足りなさそうなら言ってきてるだろうし、問題無いか。
「それじゃ行こうか」
「うん。さ、シルク、ぴーちゃん」
シルクの抱っことぴーちゃんお布団から脱出して二匹の背中をポンと叩くと、それぞれアヤメさんとお姉ちゃんに向かって飛んで行く。
途中でぴーちゃんが急に曲がったからどうしたのかと思ったら、ラキをレティさんの手に置きに行ったんだな。
……お姉ちゃん、そんな「あぁっ!?」って顔しなくても、置いたらちゃんとそっちに行くから安心しなさい。




