295:担いでみよう。
「といってもまぁ、四人以下のパーティーって結構見るよね」
「はい。しかし一人に二人分の経験値を吸われるとあって、あまり良い顔をされませんね」
「あー、なるほど」
「しかも、その内の一人分はどこかに消えてしまう様です」
「乗ってる時はその分が『馬』に行くって事なのか?」
「はい。ソロプレイの時も馬とパーティーは組んでいませんしね」
「【騎兵】の職業特性で、余分に経験値を貰って自分が乗っている相手に送り込むという事ですね」
それってソロの時は倍の経験値をくれる敵と戦わなきゃいけないんじゃ?
まぁそれだけ馬に乗った【騎兵】が強いって事かな。
「ねーねー、ちょっと気になったんだけどさー」
「はい?」
エリちゃんが唐突にシャルロットさんの横から声をかける。
素直な疑問の顔なんだけど、なんかイタズラしようとしてる気配を感じるぞ。
「騎乗ボーナスって馬じゃなくても良いんだよね?」
「え? はい。先程言った通り、牛にも少し乗りましたし」
「それって飼いならすまで適用されないのかな?」
「いえ、飛び乗った時点で有効でしたね。無理矢理乗りこなそうとする時にも強化されるので、せめてもの情けなんでしょうか?」
「気を遣う所がおかしいだろ」
アヤメさんのツッコミが飛ぶ。
うん、まぁそうだよね。
普通は馬が蘇生出来ないにしても、初めから町で買えそうなもんだし。
「あと、乗るのって生き物じゃないとダメなのかな?」
「それは…… 試していないのでなんとも」
「あー、バイク乗りとかもライダーって言うもんねぇ」
あれ、騎兵の英訳ってトルーパーじゃなかったっけ?
ライダーは騎手だった様な。
まぁ乗るのは一緒だしどっちでもいいのかな。
そもそも私のはしょせん和英辞典の知識だし、実情に合ってるって言いきれる訳でなし。
うん、どうでもいいな。
「バイクは流石に無いですが、騎兵は元々は直接馬に乗らずに、馬の引く戦車に乗る兵士だったらしいですよ」
「へー。あ、エジプト関連か何かで見た気がする」
「漫画やゲームでもたまに出てくるアレだな」
あー、パッと見たら荷馬車にも見える奴ね。
いや、実際は色々軽めの装甲とかついてるんだろうけど。
「まぁそっちはともかくとして、馬じゃなくても良い訳だよね」
「はい」
「お前、自分で話題振っておいてそれかよ」
「そっかそっか。じゃあちょっと、じっとしててねー」
「え? あ、はい」
アヤメさんの抗議をスルーして、シャルロットさんの背後に回るエリちゃん。
何をする気だ?
「そぅりゃー」
「わぁっ!? ちょっ、ちょっと!?」
……いきなりしゃがみこんで、シャルロットさんの脚の間に頭を突っ込んでひざに手を添え、一気に立ち上がった。
要するにシャルロットさんを肩車した訳だけど、突然何やってんのこの人。
「あ、あの、恥ずかしいので……」
「どうー? ボーナスついたー?」
「えっ? ……ついてますね」
「……それで良いのか、【騎兵】」
アヤメさんが「えぇー……」って顔で呟く。
うん、多分私もそんな顔になってる。
気になったってのはこれの事だったか。
「あっはっは。エリちゃんライダー!」
「えっと、下ろして頂けますか……? すごく注目されてて恥ずかしいので」
「あ、はい。ごめんなさい」
素直に下ろして、素直に謝るエリちゃん。
謝るくらいなら、やって良いか聞いてからにしようね。
「えーと、うん、なんともコメントしがたい仕様が判明した訳だけどさ」
「どう活かせって言うんだよ」
「ボーナスが付いたとしても、明らかに弱体化していますよね……」
どう考えても普通に立ってた方が戦いやすいし、別々に戦った方が良いもんね。
ていうか下の人も一緒にパーティーに入れたら、三人分取って余計にダメなんじゃない?
いや、もしやるなら下の人は入れずに乗馬としての経験値を入れる形になるだろうけど。
それ以前にやる可能性はほぼ無いだろうけど。
「いやー、まぁ気になっただけだからさ。流石に私も今のが意味あるとは思ってないし」
「仕様を知れたのは良いのですが、恥ずかしかったです」
「ごめんなさい」
再度頭を下げるエリちゃん。
謝るのは素直なんだよな。変な事するけど。
あとどうでも良いけど、むーってなってるシャルロットさん、ちっこいのも相まって可愛らしいな。
いや、本人は小さいの気にしてるし、カッコイイを目指してるんだから絶対に言わないけどさ。




