294:理想を話そう。
「ところで、あなた方は野生馬を…… っと失礼。見ていないと先程言っていましたね」
「そだねぇ」
「少なくとも、私たちは一度も見てないな」
「南側は森が広がっていますので、居るとすれば他の方角でしょうか」
「ふむぅ」
困ったものだといった顔で唸るシャルロットさん。
「てかさー」
「はい?」
「シャルロットさん的に、牛でもセーフだったの? こう、カッコよさ的な意味で」
エリちゃんが唐突に疑問を投げかける。
あー、まぁ確かにそこは気になるかも。
「ええ、まぁ。現状では背に腹は代えられませんし、それに牛には牛の良さも有りますから」
「あー、突進とか強そう」
「槍を前に突き出して突撃すれば一緒な気はするけどな」
「むぅ」
お姉ちゃんのコメントにアヤメさんがすかさずツッコむ。
「んー、確かに見た目は馬が一番騎士様っぽいけど」
「そう、魔獣乗りというのもそれはそれでカッコイイのです!」
エリちゃんの言葉から続きを察して、食い気味に続けるシャルロットさん。
その興奮するとグイグイ近寄っていくのは癖なのかな?
「はい、ステイステーイ」
「はっ、すみません。一度ならず二度までも」
エリちゃんが詰め寄って来たシャルロットさんの両肩を掴み、ヒョイッと持ち上げ腕を伸ばしてストンと下ろす。
少し離されて落ち着きを取り戻して謝ってるけど、これ多分今までも言われ続けてるだろうし、治らないんじゃないかな……?
「んじゃ、理想としては馬っぽい魔物なら両立出来て良いのかな?」
「向かってきてくれるという意味でも、それが嬉しいですね。ファンタジー的な理想を言えば、ペガサスの様なものが居るならば最高です」
「あー、それ良いねぇ」
「空を飛ぶなら、弓が欲しい所だな」
「それは流石に気が早いのでは? ……と言いますか確かに格好良いのですが、大きな問題が一つ有るのでは」
「ん? あー、撃墜されるか……」
あぁ、そういえばそんなのが居るはずなんだよなぁ。
「撃墜、とは?」
「多分レティが掲示板のどこかに書いてるとは思うけど、ある程度の高さに飛ぶと桁違いの強さの生き物に撃ち落とされるらしいんだよ」
「桁違いですか」
「うん。NPCの人たちってかなり強いけど、その中でもトップクラスの人が一撃で重傷を負ったとか聞いたよ」
「ふむぅ…… 残念ですが、空を飛ぶのは諦めた方が良いようですね」
潔く諦めてるけど、表情はすごい残念そうだ。
これ多分、「カッコイイのになー」って事だろうな。
「ところで参考までに、そのトップクラスの人というのはどの様な方なのでしょうか?」
「本国に居る人だから、聞いた話なんだけどね」
「金属製の全身鎧を着た騎士隊長を素手でボコボコにする、王国最強の魔法使いだそうだ。あ、ボコったのは強化魔法無しの素の筋力でな」
「……果たしてそれはヒトなのでしょうか」
「お気持ちは解りますが正真正銘の人類で、驚くことに【魔人】の方だそうです」
「魔法使いが【魔人】で驚かれるってどういう事だって思うけどな」
「でもアヤメちゃん、今朝そういう人に捕まってたじゃない」
「言うな……」
げんなりするアヤメさん。うん、まぁアレは仕方ない。
「ふむぅ。この世界には恐ろしい生き物が居るのですね」
……どっちの事だろう。
「ファンタジー世界で今更とは思うけどな」
「どうやら、人類ではどうしようも無い存在が気楽にそこらを歩き回っている世界らしいですよ」
「ドラゴンナイトなども夢見てはいたのですが……」
「この世界の龍って、まさにその手に負えない存在らしいから無理そうだねぇ」
「むぅ。まぁ、どちらにしろ普通の乗馬一頭居ない現状では夢のまた夢なのですがね」
自虐気味な台詞を明るく笑いながら言うシャルロットさん。
根がポジティブなのかヤセ我慢なのかは判らないけど、暗くなるよりは良いよね。
「うーん、回復屋さんを雇えるお金が溜まるまで、普通の前衛としてどこかのパーティーに参加してみればどうかな?」
「それも有りかもしれませんが、【騎兵】は二人分枠を食いますので中々」
「え? お馬さんが一枠じゃないの?」
「えぇ。騎乗しているかどうかに関わらず、【騎兵】がパーティーに居ると最大人数が一人減ってしまうのですよ」
「私が見たのは【騎兵】を入れた側の書き込みだったのかな?」
「恐らくは。流石に嫌がらせなのではないかとボヤきたくもなりますが、仕様ならば諦めざるを得ません」
うーん、流石ここの開発。
本当に客が欲しいのか?




