292:本人に見つかろう。
「それって、他の人と協力しちゃいけないのかな?」
「あー、押さえてもらったり回復してもらったりー? そこんとこどーなの?」
お姉ちゃんとエリちゃんが、アヤメさんに質問を続ける。
別にアヤメさん【騎兵】じゃないのにね。
まぁ書いてあったかもってくらいで、知らないなら仕方ない程度のノリだろうな。
「終わってからの回復はともかく、捕獲自体に協力するのは良くないらしいぞ」
「一人でやらなくてはいけないのでしょうか?」
「発動条件に有るわけじゃないけど、成功し辛くなるみたいだな」
「あー、相手に自分の方が上だって認めさせなきゃダメーみたいな?」
「なんじゃないか? 私も書いてあるのを見ただけだから詳しくは知らんけど」
「なんだっけ、マウンティング?」
「文字通りですね」
あー、無理矢理配下にするんだしそのくらい出来なきゃって事なのかな。
「そういう条件が無くて背中に引っ付いてれば良いだけなら、雪ちゃんが居れば一発なのにね」
「え? あー、弛緩毒ね」
「なんかそれ、出来たとしても初めのうちは乗った【騎兵】じゃなくて白雪の配下になりそうだな」
「【騎兵】じゃなくて【妖精】に負けたんだ、という事ですね。おいおい認めさせていく感じでしょうか」
「まー出来ないっぽいから、想像してみても意味無いんじゃない?」
「まぁそうなんだけどな」
うん、もしもの話は時間つぶしの雑談には良いよね。
「それにしても、一度は捕獲に成功してるって凄いねぇ」
あぁ、それは確かに。
「前衛ボーナス無しの一対一でなんとか出来るくらい強いなら、もういっそ乗らなくても良いんじゃない?」
「いやいや、そういう問題じゃないだろ」
エリちゃんがなんか言い出した。
でもまぁ確かに、乗らなくても普通の前衛としてやっていけそうではあるね。
乗っても問題無いくらいの大きな相手を、倒すどころか殺さずに乗りこなせてるくらいだし。
「まぁそれはともかく、まぐれではなく実力で制圧出来たのなら、終わった後の回復さえしてもらえばなんとかなるのでは?」
「回復を、頼むお金が、無いのです!」
「おわぁっ!?」
アヤメさんのすぐ後ろから悲し気なシャウトが。
驚いて振り向いたアヤメさんの陰に、鎧姿のちっこい女の人が立ってる。
「びっくりしたぁー……」
「あ、突然すみません。私の話をされていたようで、失礼ながら聞かせて頂いていたのです」
「あー、いえいえ。こちらこそ、なんか雑談のネタにしちゃってごめんなさい」
「いえ、良いのです」
お姉ちゃんと騎兵さんがお互いに謝りあってる。
まぁ知らない人が自分の事を話してたら気になるよね。
「ええと、という事はあなたがその【騎兵】さんなのですね?」
「はい。シャルロットと言います」
「ほへー、ちっちゃいのに強いんだねぇ」
「あの、強いと言って頂けるのは嬉しいのですが、背の事は気にしているので出来れば言わないで頂けると……」
「あ、ごめんなさい。以後気を付けます」
口を滑らせたエリちゃんが深々と頭を下げる。
でも実際、お姉ちゃんよりも更に頭一つは小さいな。
「で、お金って言うのは?」
「いやぁ、初期の資金は全て装備に消えておりまして。無償で人を使う訳にもいかず、ずっと一人で駆け回っていたので、頼める様な知り合いも居ないのですよ」
はっはっはと笑うシャルロットさん。
「では、そちらさえ良ければ私が」
「いや結構。これも試練というものですよ」
シャルロットさんがレティさんの提案を遮って断った。
なんだろう、変に固い感じのする人だな。
「それにこの言い方で手伝って頂くと、それが目当てで口を挟んだ様に見えますしね」
「いやー、それは気にしすぎ…… いや、うん、確かに」
お姉ちゃんが否定しようとして考え直した。
うん、まぁ確かにそうなるかも。
「それにしても、そんな強いなら普通の前衛職でも良かったんじゃ?」
「何を言うのです! 【騎兵】ってカッコイイじゃないですか! カッコイイというのはとても大事でしょう!」
ふと言ってみたお姉ちゃんに食って掛かるシャルロットさん。
うん、なんか何気にこの人も残念っぽい感じがするな。
まぁゲームなんだし、楽しむのは大事って意味では何も間違ってないか。




