291:「馬」の話をしよう。
「えっと、それってもうやっちゃった人が居るって事だよね……?」
お姉ちゃんが恐る恐るアヤメさんに確認する。
「いや、祝福が無い事とかは選んだ時に説明されるらしい」
……そこは優しいんだな。
いや、レア種族の扱いが優しくなさすぎるだけだけど。
「あ、そうなんだ」
「ただ、少なくとも二人はやらかしてるらしい」
「あ、そうなんだ……」
ほっとさせておいて落とすアヤメさん。
「その人たちはどうしたんですか?」
レティさんが続きを促す。
そういえば今更だけど、流石にずっと一緒に居ても全部を話してる訳じゃないんだな。
適当にお喋りしながら、それぞれ掲示板を眺めてた時に見たのかな?
「一人は落ち込んで『寝る』とだけ書きこんで、それからまだログインしてないみたいだ」
「あー。まー短い付き合いだったとは言っても、割り切ってなきゃそんな気分にはなるよねー」
「作成時から一緒に居るって事は、お馬さんも初めから懐いてただろうしねぇ……」
このゲームのAI、動物もリアルっていうかリアルより賢く設定されてるからなぁ。
珠ちゃんですら人の言葉をちゃんと理解して従ってくれるし。
まぁそれはそれで、本物の動物に親しんだ人からは逆に不満が有るかも知れないけど。
「もう一人の方はどうされたのですか?」
「落ち込みはしたものの、そのままでいる訳にもいかないって狩りに出てるらしい」
「新しいお馬さんと?」
「いや、徒歩で」
「え?」
「少なくとも今は、馬とかの騎乗用の生き物はほぼ手に入らないらしいんだ」
「……あぁ、こちらでの繁殖も出来ていないし、船は人員が優先されている訳ですか」
「そういう事らしい。現実と違って大きな荷車を自力で引けたりする人が居る分、優先度が低いんだな」
そういえばでっかい台車はあっても、町中で馬とか見たこと無いな……
いや、そもそも馬が通る様な大通りにあんまり出ないけどさ。
死に続けてスキルのレベルが殆ど上がってなさそうなカトリーヌさんでさえ、一人でめーちゃんを担げてたくらいだしなぁ。
「それじゃどうするの? っていうか、【騎兵】って降りて戦えるものなの?」
「そりゃまぁ、普通に戦う事は出来るだろ。本人の自虐じみた言い方を借りるなら、ただの劣化戦士らしいけど」
「あー、まぁ降りても何の問題も無きゃ、優遇されてる感じがするね」
「問題が有るって言うか、戦闘職としてのボーナスが騎乗時しか適用されないらしい」
「騎乗してこそ【騎兵】、という事ですね」
とはいえ、特にペナルティが付いたりはしないんだな。
完全な状態ではないにしても、仮にも前衛ってことか。
「で、どうするかだけど」
「お馬さんが増えるまで、待つしかないのかな?」
「それもあるけど、どうも専用スキルで野生馬や魔物を捕まえて乗れるらしい」
「ほほー。という事は馬以外もいけるのかー」
「と言っても、そう簡単な事では無いのでは?」
「簡単じゃないどころか、無理ゲーだって書いてあったな」
「そうなんだ。条件が厳しいとか?」
「普通の馬をねらったとしても、まず野生馬を見つけて捕まえる所からだからな」
「……結構うろついてるけど、見かけたこともないねぇ」
「もし見つけたとしても、馬は臆病で警戒心の強い生き物ですから、一人で捕まえられる様な物では無いでしょうね」
あー、しかもこっちも馬に乗って縄を振り回すとかならまだしも、徒歩だもんなぁ。
まず近寄る事さえ出来ないだろうし、罠とかでなんとかするしかないだろうな。
「魔物は魔物で、そっちは近寄ってくるとはいっても自分を殺すためだからな」
「しかも人が乗ろうと思うくらいには、大型で機動力かパワーの有る相手だよね?」
「だな。そんなのの背中に、結構な時間貼り付いてないといけないらしい」
「……無理ゲーだねぇ」
「ある程度弱らせてからではいけないのですか?」
「やっては見たらしいんだけど、成功したからってその瞬間に回復する訳じゃないから、連れて帰る最中に他の魔物に襲われてその魔物もろとも殺されたらしい」
……最低でも回復魔法が使えるか、使える人と一緒に行かなきゃダメなんだな。




