289:お魚を食べよう。
「へいらっしゃーい!」
結局そのまま魚を食べる事にした。
相変わらずやたらと威勢がいいな、このおねーさん。
「四人前と、この子たちの食べられる物を何かお願いします」
「あいよーぅ」
レティさんが注文し、おねーさんが焼きにかかる。
作り置きの無いタイミングだったか。
台の上でクッションに座ったシルクに抱っこされ、優しくナデナデされながら出来上がりを待つ。
むぅ、でも流石に現場に来ると動きがちょっと硬いな。
まぁ昨日の今日だし、仕方ないよね。
横で尾羽をぴこぴこさせながら待機してたぴーちゃんが、「どうしたの? 大丈夫?」って顔でシルクを覗きこんで来た。
頭の上のラキも同じ顔だな。
……二匹が一瞬ビクッとして、怯えるような顔でこっち見た。
すぐにほっとした顔になって普通に戻ったけど、今のはシルクに何があったか説明されて、ついでにあんまり調子に乗って怒らせると自分達もそうなるぞって脅されたんだろうか?
で、向こうもやり過ぎたって思ってるからそこまではされないだろうけど、気を付けなさいねって感じかな。
多分だけど。
「はいよ、熱いから気を付けてね!」
台の上にほぐした魚を乗せた皿がコトッと置かれた。
……なんかカトリーヌさんが、隙間に手を突っ込んでうっとりしてる。
「もー、なにやってんの。皆で食べるご飯で遊んでちゃ駄目でしょ?」
「すみません、ついつい手が出てしまいましたわ」
「つい」で手を蒸し物にするんじゃないよ。
あーあー、完全に蒸し上がっちゃってるじゃないか。
私達、小さいぶん火の通りも良いからなぁ。
放っておいたら店の人に迷惑が掛かりそうなので、強めの【妖精吐息】でなんとか動くくらいまで回復させておく。
はいはい、残念そうな顔しない。
おねーさんが「お前が少し冷ましてから出さないから、妖精さんが怪我をしてしまったじゃないか」とか責められちゃったらどうするのさ。
私が治し終わったのを見たシルクが、魚を手に取りふーふーして私に出せる温度まで冷ます。
手が顔の前に近づいてきたのを見て口を開けると、スッと挿しこまれるので噛み切ってもぐもぐ。
うん、美味しい。
隣では朝と同じ様にシルクが左手でぴーちゃんにご飯を上げて、ぴーちゃんがもぐもぐ噛んで少し柔らかくし、口から少し出してラキに分けてあげている。
別にラキの腕力なら噛んであげなくてもむしり取れると思うんだけど、まぁ良いか。
カトリーヌさんも、大人しく普通に食べてるな。
わざわざ熱そうなところから掴み取ってるけど、火傷はしない様にしてるみたいだから大丈夫だろう。
いろいろやらかしはするけど、ちゃんと注意は聞いてくれるからそこは助かる。
いや最初からやらかさない方が当然良いんだけど、同じ場面で何度もやられるよりはね。
満足したらしいラキが、ぴーちゃんの羽から飛び降りてカトリーヌさんに駆け寄る。
「あらラキ様、申し訳ありませんが少々お待ちになって頂けますか?」
丁度大き目の塊を手に取った所だったらしい。
微妙にタイミングが悪いけど、まぁ仕方ないだろう。
「こらこら、急かさないの」
カトリーヌさんの横で反復横飛びを始めたラキを嗜めておく。
ごはんくらいゆっくり食べさせてあげなさい。
私も満足したので、皆が食べ終わるまでのんびりする事にする。
シルクによるナデナデとぷにぷにマットに、ぴーちゃんの羽布団でほっこりぬくぬく。
ぴーちゃんが私の首の辺りに顔を埋めてるのは気にしないでおこう。
「あ、雪ちゃん雪ちゃん」
「んぁ? どしたの?」
「おねむのとこごめんね。今日はアレやるの?」
「いや、別におねむではないけどさ。アレって魔法攻撃してもらうやつだよね? うん、やろうかな」
「そそ。それじゃ、雪ちゃんスレで告知しておくねー」
「ありがとー」
「おねむじゃないって言う割に、返事がちょっと怪しかったよな」
「あと十秒程ほっといたら、多分すやすや寝てたよねー」
「そこ、うるさいよー」
ヒソヒソと声を潜める感じで話すアヤメさんとエリちゃんに、とりあえず文句を言っておく。
潜めてもどうせ聞こえるからって、ポーズだけで音量は普通じゃないか。




