287:報告しよう。
「おかえりー」
「ただいまー、で良いのかな。まぁ良いや」
シルクから降りながら返事をする。
家から出てるけどまぁ戻って来たんだし。
あ、エリちゃんも出てきてる。
まぁあのままグースカ寝てたりじゃなけりゃ、普通に出てくるだけだしすぐか。
「少し遅かったな。何か有ったのか?」
「あー、うん、まあ」
アヤメさんの問いかけに曖昧な返事を返す。
まぁ物も出来事も有ったな。
「良ければ、何が有ったのか聞かせて頂いても?」
「んー、良いんだけど、そんな気になるもんかな?」
「そりゃあんた、んな奇妙な事ばっかやらかしてたら気にもなるだろ」
「好きでやってんじゃないやい」
【妖精】の文句は開発に言ってくれ。
私がこういう仕様にしてくれって言ったんじゃないから。
「えーと、まず脱衣場に木製の脱衣籠が大量に出来てた」
「棒を曲げて作ったようなやつ?」
「いや、薄切りの板で編んだ感じのやつだね」
「それ、普通は木の皮とかで作る物なんじゃ……?」
「まぁ実際出来てたんだから、なんとかなるんでしょ」
お姉ちゃんの疑問に若干投げやりな答えを返す。
うん、この世界だと魔法も有るし、実際なんでも有りだからね。
私も竹を捏ねて馬とか作ったし。
「で、おーって思いながらお風呂入ったら、シルクがお風呂を増設してた」
「……そんな簡単に増設できる物なの?」
「まぁ、このサイズだしねぇ」
「白雪さん、現物を見せて頂いても良いですか?」
「あ、良いよー」
「はいどーぞー、ほいさー」
レティさんの希望に返事をすると、すかさずエリちゃんがカパッと三階を持ち上げてくれた。
あ、シルクが「むぅ」って顔してる。
仕事を取られた感じなのか。
「ほぁー、ちっちゃーい」
「いや、そりゃ今更でしょうに」
お姉ちゃんの「思った事をそのまま口に出しました」的な感想に、ツッコミを入れておく。
「風呂っていうか枡だな。持ってみても良いか?」
「うん、多分。シルク、取ってあげて」
シルクは私の頼みにこくりと頷き、上からお風呂に入って枡を持ち上げてアヤメさんの手に乗せる。
「ありがと」
「おー、力持ちだ」
「家の中だと普通の人間サイズ並みの力が出せるしね。お湯が入ってても軽々持ち上げるよ」
「雪ちゃん自慢げだけど、それシルクちゃんの力だよね」
「……良いの。シルクは私が喚んでるんだから、広い意味では私の力なの」
「まぁそうとも言えるか。負け惜しみみたいにしか聞こえないけどな」
「うっさいやい」
アヤメさんの冷静なコメントに文句を言っておく。
いや、自分でも思ったけどさ。
「おー、綺麗に出来てるなー」
枡をクルクル回して、色んな角度から見るアヤメさん。
「釘は使ってないんだな」
「釘どころか、接着剤さえないよ。ぎちっとはめ込んでるだけ」
「マジか、凄いな……」
「職人技ですねぇ」
「ん? あ、ありがと」
感心しているアヤメさん達を尻目に脱衣場からカゴを取り、お姉ちゃんに渡すシルク。
ちょっと得意げなのが子供っぽくて、珍しく見た目相応な感じだな。
「シルクちゃん、これ摘まんでみても大丈夫かな?」
お姉ちゃんが手の上にちょこんと乗っているカゴの強度を心配して、一応確認を取る。
まぁあのサイズだし、薄っぺらく見えるだろうしなぁ。
「おー、思ったよりガッチリしてるね。ちょっとくらい力入れても大丈夫っぽい」
「いや壊さないでよ? せっかく作ってくれたんだから」
シルクが頷いたのを見て、摘まみ上げて強度を試してみてるお姉ちゃんに注意を促しておく。
カシャっていっちゃったらどうするんだ。
「あはは、大丈夫だよー。……自信無いからもうやらないけど」
「絶対何も考えずにやったでしょ……」
「ミヤコだしな」
「ミヤコさんですしね」
「なんか扱い酷くない?」
「普段はマトモな癖に、はしゃぐとすぐポンコツになる奴が悪い」
「むぅ」
アヤメさんの言葉にむくれはするものの、それ以上文句を言わないお姉ちゃん。
一応自覚はあるんだよね。
「ありがと、返すねー」
「はい、こっちも。ありがとうな」
お姉ちゃんがシルクにカゴを返して、それをしまい終わってからアヤメさんも枡を返した。
「で、作り終わってから行くよーって言ったら、なんか私の足じっと見てダメーって顔するからさ」
枡を置いたのを見て、続きを言っていく。
「あぁ、シルクちゃん的には綺麗になってないって判定だったんだね」
「まぁ、あくまでも応急処置の様なものですしね」
「そゆこと。足だけささっと洗われちゃった」
うーん、あれ言うべきかなー。
でもどうせその内バレるっていうか言わされるかうっかり言っちゃうかだしなー。
もう今更だし、全部言っちゃえばいいか。
「まぁ洗われたっていうかしゃぶられたんだけど……」
「あー」
「舐めとられて、その後石鹸で洗われたのか?」
「いや、その後はお湯で流しただけ。なんかシルクの唾液、洗剤の効果があるらしいよ」
「……どういう種族だよ」
「ま、まぁ家事に特化していると考えれば……?」
流石のレティさんも戸惑いを隠せない様子。
「普通の涎が洗剤なの? 洗剤も出せるだけなの?」
「あ、そっちなんだ」
突然のエリちゃんの疑問に、後者でシルクが頷いた。
あー、確かに洗剤でご飯はあんまり食べたくないかな?
まぁ自分の口の中で出してるんだし、害も変な味も無いだろうけどさ。
そもそも、元々は食べる必要さえ無い種族っぽいけど。
「へー。もしかして、成長したらもっと色々出せる様になっちゃったり?」
……笑顔で頷いた。
うぅむ、便利にはなるんだろうけど、なんか複雑だな。
特に絵面的な意味で。
床を舐めてワックスがけする幼女とかになりそうでどうにも……




