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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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285/3658

285:お風呂を作ろう。

 楽しげに猫じゃらしを揺らしながらソニアちゃんのお部屋に歩いていくアリア様を見送り、シルクを呼ぶために家の中へ入る。


 うん、入っても出てこないな。

 まぁ出てくるなら、玄関も開けてくれただろうから判ってたけど。

 多分手が離せないんだろうから、自分からお風呂まで行くとしよう。



「おおう」


 脱衣場に入ると、何も無かったはずの棚の中に脱いだ物を入れるためっぽい籠がずらっと並んでた。

 これは薄くスライスした木を編んで作ってあるのかな?

 なんかこのノリで放っておいたら、旅館のお風呂の脱衣場みたいになりそうだな……


 しかしまぁ、よくあの時間でこんなに作ったな。

 でも今、この家って私とカトリーヌさんくらいしか住んでないから、あんまり意味が無くない?

 いや、まぁ一応召喚獣も服着てるか。それでも多いけど。



 というかそもそも、浴槽がカップ一つだけだから多人数で入れないし。

 銭湯みたいに広い浴槽ならともかく、あれに二人以上で入るのは流石に無いでしょ。


 ……そういえば、これだけ沢山の部屋が有るお家でお風呂があれ一つって、アリア様なにげに迷走してるな。

 多分大浴場を作っておいたら、私がそっちに行っちゃってたからだろうけど。



「おーい、シルクー。ご飯食べに行くよー? って今離れられない?」


 なんかお風呂の隅の方で、材木を横に並べて作業してる最中だった。

 あれは木製の狭い浴槽を増設してるっぽいな。


 敷いてある土台っぽい板から見るに、ティーカップより更に狭いし私だとかなり窮屈だろうな。

 普通の身長の人でも、膝を抱えて座って入るくらいのサイズだし。


 ……あー。

 あれ多分召喚獣用、っていうかラキとぴーちゃん用だな。

 お世話は私がやるから、あなた達はぬくぬくしてなさいって事だろう。



「んー、すぐに終わる?」


 なんか私と材料の間で視線が二往復したので聞いてみると、シルクはおずおずと頷いた。


「うん、もうちょっとで出来るなら、やっちゃえば良いよ。そのくらい皆待ってくれるからさ」


 パァッと表情が輝き、こくこくと頷く。

 うん、別に誰も急いでないし。


「なんなら何か手伝おうか?」


 ふるふると首を横に振り、ぺこりと頭を下げてお風呂に向き直るシルク。

 ……役に立たないからじゃない事を願おう。




 おー、やっぱり魔法っぽいものが使えるんだな。

 置いてある木材を手元に持ってきて、指でツーっとなぞるだけでカット出来てる。


 コレットさんの場合は謎の技だけど、シルクのは【魔力武具】に似た能力っぽい。

 指先から透明な魔力の刃が出てるのが観えるし。


 ガイドも無しにフリーハンドでまっすぐに、測っても居ないのに目的の寸法ぴったりにカットしてる。

 そりゃこれなら作業も早いはずだよ。



 左右に規則正しい凹凸をつけた、厚めの板が四枚出来上がった。

 それをスコンスコンとはめ合わせて、四角い枠を作るシルク。

 あー、これ底板を付けたらただの小さい枡だ。


「それ、接着はどうするの?」


 少し気になって横から聞いてみる。

 ここには材木だけで、接着剤とか置いてないし。



「ん、引っ張るの?」


 問いかけた私の前にトスッと枠を置いて片手で端を押さえ、逆の手で一辺を指さしてからくいーっと引っ張るジェスチャーをするシルク。

 やってみるか。


 ……おおう。

 ギッチギチに合わさってて、全力で引っ張っても微動だにしない。

 私が弱いのもあるけど、何この職人技。



「すごいなー。あ、でも底は? ……あ、はい」


 私が聞くのとほぼ同時に、シルクが置いてあった土台を枠に合わせて乗せてからぺちぺち叩く。

 うん、枠の結合が外れるほどには大きくないけど、ギッチリとはまる絶妙のサイズだったらしい。

 ほんとなんなの。




「完成かな?」


 土台が置いてあった場所に枡をどむっと置いたシルクに聞いてみると、こくっと頷いた。


「それじゃ試しに」


 枡の上に手をかざして、【大洪水】でだばーっとお湯を出す。

 おー、全く漏れない……

 どういう技術力だ。


 ってこれ、私【細工】要らないんじゃ……?

 いや、うん、まぁ気にしないで練習を続けよう。

 そもそも、元々必要かって言うとそうでもないのにやってたんだし。



「ちゃんと出来てるねー。あ、これ排水はどうするの?」


 底も綺麗な一枚の板で、穴とか開いてないけど。


「あ、なるほど」


 普通に浸かれる程度にはお湯の入った枡を両手で挟んでヒョイッと持ち上げ、中のお湯がこぼれない程度に傾けるシルク。

 うん、家の中だと通常サイズの人間並みの腕力があるんだもんね。

 取っ手が有れば片手でも余裕なんだろうな。



「よし、それじゃお片付けして皆のところに行こうか」


 私が言い始めるのと殆ど同時に木を拾い始めたシルクが、私を見てふるふると首を振る。


「え、あれ? まだ何かあるの?」


 頷いて、むーって顔で私の足を見るシルク。

 あ、さっきのバターか。

 気にならない程度には落ちたけど完璧ではないから、シルクとしては気になっちゃうのかね。




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