282:自分も登録しよう。
「にしても、いきなり発動しないでよー。もし周りを巻きこんじゃったらどうするのさ」
「その可能性は薄いと判断しましたので」
言いながら【自爆】のパネルを開き、説明文を指さしながら見せてくるカトリーヌさん。
「……ああ、確かに『爆風が対象以外に影響を及ぼすことは無い』って書いてあるけどさ」
「それならそうなんだろうね。基本的に嘘は書かれてないものだし」
「本当の事も書かれていない事が多いですけどね」
うん、【妖精】関連は特に。
いや他のスキルとかきっちり見てないから、他もそんな感じなのかも知れないけど。
「今ので言うなら、確かに爆風は無かったけどめっちゃ眩しかったしな」
「あー、そうだねぇ」
アヤメさんの言葉に同意しておく。
実際カトリーヌさんの方見てると目が開けてられなかったから、周りから見れば隙だらけだったろうし。
「カトリーヌさん、カトリーヌさん」
「はい、何でしょう?」
「どんな感じで、どれくらい痛かったの?」
お姉ちゃんは何を聞いてるんだよ。
というか聞いてどうするんだ。
いや、単に興味本位なのは判ってるけどさ。
「うーん、そうですわねぇ……」
表現に悩むカトリーヌさん。
「意識を残したままフードプロセッサーにかけられれば、あの様な感覚かもしれませんわね」
「うわぁ……」
「とは言え、普通の方でしたらすぐに気絶されると思いますので、感じられるのは初めの一瞬だけかと」
「一瞬でも気絶する様な痛みを味わうのは嫌だなぁ…… うん、やっぱ封印だ」
そもそもそんなの、プレイヤーの正気を守るための安全装置とか働きそうだよ。
問題無く耐えられてるカトリーヌさんが正気なのかって言われると、ちょっと疑問が残るけど。
いや、うん、ちょーっと感覚が普通の人と違うだけで、正気ではあるのか。
「あっと、それより私も登録してもらわなきゃね」
「さあ、こちらにどうぞ」
片膝をついて恭しくこちらに手を掲げてくるモニカさん。
「……いや、片手は石碑に触れててくださいよ」
両手を揃えて掲げてたら登録出来ないでしょうに。
「はっ、そうでした。では改めて」
「頼みますよ、ほんと」
軽くボヤきながらモニカさんの指先を両手で包む。
これでほわっと光ればオッケーなんだよね。
……あれ、光らない?
自分からじゃ見えないのかな。
「モニカさん、何か問題でもあったの?」
「いえ、そのような事は御座いませんが」
お姉ちゃんの問いかけに、何も問題は無いと答えるモニカさん。
見えないって訳じゃなくて、使ってないだけか。
でもなんで……
ってなんかめっちゃこっち見てる。
いやモニカさんが見てくるのはいつもだけど、それとはなんか違う感じだ。
……あー。
カトリーヌさんみたいに乗ってくれなきゃやらないぞって事か、これ。
「えーと、これで良いですかね……?」
おおう、ぺたっと座った瞬間に柔らかい光に包まれた。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……」
なぜかモニカさんに礼を言われたので、こっちもと返す。
うん、ちゃんと登録してもらえたみたいではあるから、お礼は言うよ。
ただ、後ろに拳を握ったジョージさんが居るから私は離れるよ。
「ふぐっ」
あー、真上からゴインッと拳骨が落ちた。
その場に居たら手の動きに巻き込まれて死んでたな。
まぁジョージさんがそんなヘマするとは思えないけど。
「仕事は仕事でちゃんとやりやがれ」
「はっはっは。白雪と遊んでいたお前が言うのか」
「あれは目的はちゃんと果たせてますんでね」
あ、アリア様のツッコミに言い訳じみた事言って消えていった。
うん、まぁそうかもしれないけどさ。
「ぐぅ…… め、めーちゃん様もどうぞ」
「んー、根っこでもだいじょーぶですかー?」
「恐らくは。出して頂ければこちらから触れますので、手の届く距離にお願いします」
「はーい。むー、えいっ」
おー、モニカさんのすぐそばから根っこが飛び出した。
結構慣れてきたのかな?
「では失礼して…… はい、ありがとうございました」
おー、でっかいめーちゃんがぽわっと光ると、なんか神聖な樹みたいだな。
「んー、ありがとうございますー。今立ってるとこに、出るんですよねー?」
「はい、そのようにさせて頂きました」
「わーい」
まぁ、他のとこに出たら移動が大変だもんなぁ。
家の上は問題外だし。
「とりあえず登録はオッケーですね。ソニアちゃんは日没を待たなきゃ無理ですけど」
「うむ。日が沈んでいても少し痛い思いをしてもらう事になるだろうが、耐えてもらわねばな」
「ところで白雪様」
「はい?」
なんか唐突にモニカさんに呼ばれた。
なんだなんだ。
「私、頑張って覚えました」
「え、あ、はい。そうですね」
こっちに反応するの我慢したり、反応して戻らされたりはしてたね。
「つきましては、ご褒美を頂けると大変嬉しいのですが」
「……えーと、うん、お仕事ですよね……? まぁ出来る事なら別に構いませんけど」
あ、一瞬だけジョージさんが出てきて、軽く拳骨入れて消えていった。
まぁそりゃ叱られるよね。
「何か希望はあるんですか?」
「は、はいっ!」
えらく勢いが良いな。
嫌な予感しかしないぞ。
「さきほどのお酒……は少々欲張り過ぎですので」
うん、一瞬私が微妙な顔になったの見てやめたよね、今。
「出来ましたら白雪様のバターを頂けたらと……」
「えー…… うー」
ぬぅ、バターか……
「お、嫌そうだな」
うおぅ、横からジョージさんが割り込んで来た。
「あの、そのフリで出て来られると嫌な予感しかしないんですけど」
「おう、間違ってないから安心しろ」
「出来ませんよ」
何を安心しろと言うのか。
「そらそうだ。で、嫌そうなら丁度良い。姫様、罰としてやらせるんでコレットが持ってるバターを出させても良いですかね」
「ぬ、出させるのは構わんが、罰とな? 白雪が何かやったのか?」
「えっと、自分でも心当たりがないんですけど……」
「やっぱり忘れてたな。お前、さっき姫様が【妖精】の話してる時に【石弾】使ってそいつにツッコんだろ?」
「はい」
「お前、【土魔法】登録してねぇだろ」
「……あっ」
そういえば、テーブルの上は結界の外だった……




