281:登録しよう。
「でもそれにしては雪ちゃん、きっちりお金取ってるよね」
「そりゃまあ無いよりは有った方が良いでしょ。ていうか、最初は流石にここまで使い道が無いとは思ってなかったからってのが大きいけど」
価格設定したのはアリア様や役場の人だし、それに合わせて屋台でも取ってるだけだけどね。
あっちで無料だと役場の人にも悪いし。
「その割にバンバン使ってるよな」
「有った方が良いけど、溜め込んでても仕方ないしね。とは言っても、自分の為の物ってあんまり買ってない気もするけど」
人に使ってもらうための道具とか箱とか。
木材とか鉄くずとかは殆どが端材だから、大した金額じゃないんだよね。
紅茶は一応自分でも使ってるけど、ほぼお客様に出すための物だし。
……あっ。
アリア様にお茶出してないや……
うん、今更だしこのタイミングで出しても微妙な空気になるから諦めよう。
「てかさっき自分で言ってたけど、白雪が使える物なんて限られてるからそうもなるよな」
「まぁね。あー、そのへんを使ってもらったりするために人を雇えばお金はかかるだろうけど」
「けど?」
「別に自分のところでやる必要って全く無いんだよね。お菓子にしたければ作りたがってる人に材料渡して、完成品をちょろっと分けてもらえば良いだけだし」
「あー、確かに」
「自分用のお菓子が作りたければ、自分に見合ったサイズの道具を使えば良いですしね」
「【魔力武具】で大体なんとかなるからねぇ。武具ってなんだろうね」
「ほら、フライパンや麺棒でも戦う事は出来ますから」
いや、それはかなり特殊な例だと思うよ。
ていうかやった事あるのか、レティさん……
「作る人を雇ってお菓子のお店とか出したりしたら、結構お金もかかるんじゃない?」
「それ、稼いだお金を元手にしてもっと儲けてるだけじゃないの。増えた利益分から払ってて、お金がかかるんだーって言われても微妙でしょ」
「まぁそうかも」
「っていうかさ」
「ん?」
「蜜を欲しがる人間に安定して提供しようと思ったら、こっちに居る間ずっと蜜集めても多分間に合わないんだけど」
「確かにお金は稼げるかもしれませんが、ただの蜜を集める家畜となってしまいますわね」
「ふむ。【妖精】の菓子店が開けば、行列が出来る事は想像に難くないからな」
「その場で食べられるタイプの店なら、朝から晩まで居座りそうな人がそこに居るしなぁ」
「し、仕事が、ありますの、でぇぇ……」
……アヤメさんのコメントに、モニカさんが向こうを向いたまま泣きそうな声を上げる。
「いやそんなすっごい悔しそうな声出されても。もしもやってたらって話でしょうに」
「ふむ」
「ん? どうしました?」
「白雪の蜜と砂糖とバターを使った菓子を、白雪の蜜と砂糖を入れた茶で頂く。最高なのではないか?」
「突然何を言ってるんですか……」
ていうかアリア様、なんで名指しなんですか。
そこにカトリーヌさんも居るでしょうに。
「アリア様」
「ぬ?」
「白雪が浸かった紅茶は、『妖精茶』になるらしいですよ」
「ちょっ」
いきなりアヤメさんがぶっこんできた……
なんで言っちゃうかね。
いや言うのはともかく、なんでこのタイミングかな?
「ほほう、それはそれは。まだ上が有ったか」
「えーと、そんな目で見られても…… ていうかモニカさんが怖いんですけど」
なんか右手で左腕を握ってブルブル震えてるよ。
反応するのを我慢してるのか……
「ま、それはまたの機会にだな」
「私としてはその機会が来ない事を祈るのみなんですが」
「はっはっは、そう言うな。モニカ、そろそろ覚えられたのではないか?」
「はい。試してみない事には断言出来ませんが、恐らく問題無いかと」
なんだかんだでちゃんと読んでたんだな。
うん、変態的な暴走しない限りはこの人も凄い優秀な人なんだよなぁ。
ちょっと色物のイメージが強すぎるんだけど。
「では、どうぞ私でお試しくださいな」
「ははっ。それでは、私の手に触れてください」
左手を石碑の上に乗せ、右手をカトリーヌさんの前に伸ばすモニカさん。
……カトリーヌさん、別に手の平にぺたんと座らなくても良いんじゃないかな?
まぁ乗られた方は心の底から嬉しそうだから良いのか。
「おー、光った」
モニカさんの手に乗ったカトリーヌさんの体が、ほわっとした光に包まれた。
これで登録完了したって事かな?
「これで、次からはカトリーヌ様の私室で復活して頂けるかと」
「あ、位置はここじゃないんですね」
「はい。ある程度の範囲であれば指定する事が出来ます」
「広場の石碑は噴水の中だと言ったろう? 石碑のすぐ傍に現れるのであれば、皆水浸しになってしまうさ」
「あー、そういえばそうですね」
あっちはあの広場の開いてる場所にランダムって感じなのかな?
ていうかそういえば、石碑の所にしか出られないならめーちゃんがこの家の上に降ってきちゃうか。
「では試してみましょうか」
「え、どうやっ……」
カトリーヌさんの言葉に問いかけようと思ったら、私が口を開くと同時に手の平から飛び上がって激しく光り始めた。
「ぁがああ゛ぁぁあぁぁっ!」
カトリーヌさんの悲鳴と共にどんどん光が強くなって、眩しすぎるので目を閉じる。
このまま見続けてたら目がやられちゃいそうだし。
「……収まった?」
悲鳴が途切れて少し経ってから目を開けると、そこにカトリーヌさんの姿は無かった。
「……あー、【自爆】か」
「あ、なるほど」
アヤメさんの言葉に納得する。
そういえば一度も試したこと無かったな。
あ、窓から出て来た。
「無事登録出来たようですね」
「カトリーヌさん、凄い声出してたけど大丈夫?」
「はい。しかし、これは私以外が【自爆】を使うのは止めておいた方がよろしいかと」
「カトリーヌさんが言うならそうなんだろうね……」
うん、絶対にやめとこ。
と言っても、使うしかなくなったら使うんだろうけどね。




