278:洗われた話をしよう。
「ていうかね」
「ん?」
「もしそういう事がしたいと思ってたら、そんな派手な方法使わないでしょ」
「まぁ確かに、【魔力武具】でなんでも切れるんだったな」
「うん。ほら静か」
アヤメさんの言葉を証明するように、真っ二つになった岩を【魔力武具】で作った巨大な包丁で更に半分にカットする。
どれだけ大きくても重量が無いのは楽で良いね。
「ふむ、綺麗なものだな」
「刃物を扱う心得が無いので、狙ったようには切れないんですけどね」
断面を見て感心するアリア様に、武器が凄いだけだと白状しておく。
実際、縦にまっすぐ切るつもりだったのにちょっと斜めになったし。
「それにしてもさー」
立てていた【魔力武具】の包丁の刃に突っ込んで来た【妖精】を平たい面でスパーンと撃墜していると、お姉ちゃんが何か気付いた様な顔で口を開いた。
「これだけ良く燃えるんだから、下手したら火を用意した瞬間に爆発した可能性があったんじゃ……」
「あ」
「いえ、流石にこの量では密閉しない限り大丈夫だと思いますよ」
「まぁ【妖精】の吐いた物だから何があってもおかしくないし、確実ではないけどな」
誰が常識の通用しない謎生物か。
……否定できる要素が欠片も無いな、うん。
「ま、それはともかくだ。……ええと、元々は何の話だったかな?」
「白雪様がシルク様にバターを使ったマッサージをされていた、という所でしたかと」
「あ、そうでしたね」
アリア様の問いにコレットさんが即座に答える。
正直自分でもどのあたりで逸れたかはっきり覚えてないから、ちょっと助かった。
「えーと、全身揉まれて…… そうそう、殆ど落ちたって言ってもバターまみれだったから、洗ってもらったんだ」
「雪ちゃん雪ちゃん、なんで殆ど落ちてたのかな?」
……ぬぅ、しまった。
お姉ちゃんがニヤニヤしながらツッコんで来た。
絶対察してるし、多分皆も解ってるだろうに。
「……三匹がかりで全部舐めとられたからだぃ」
「正直でよろしい」
くそー、偉そうにー。
いや、まぁ実の姉だし偉いかどうかで言うとちょっと偉いかもだけどさ。
「で、まぁお風呂に連れてかれて、私の上に乗って舐めてたせいで脚がバターまみれになったラキを私が洗ってたんだけど」
「その流れだと結局自分から言う羽目になってたんじゃないか?」
「聞かれなきゃそのまま洗われたとこだけ言ってたかな」
「それもそうか。ま、もう素直に全部言っちまいなよ」
「うん、そのつもりだよ……」
どうせ隠そうとしても、変な所で察しの良いお姉ちゃんがイジりに来るだろうし。
「で、水洗いしたは良いけど油分が落ちづらいからどうするかなって思ったら、シルクが粉石鹸みたいなの持ってきてくれてね」
「あー、そういえば市場にそういうのも売ってたね」
「資金と優先順位の関係で持っていませんが、たまに欲しくなるんですよね」
「特に敵と接触する私がな。血とか脂が中々落ちなくてなぁ……」
「腕を上げれば要らなくなるぞ」
「そりゃそうでしょうけどね……」
アヤメさんと似たような武器を使いそうなジョージさんから参考にならない言葉が。
そんな腕前に到達するのに、一体どれだけかかるんだよ。
「で、まぁラキにふりかけてくれたからわしゃわしゃ泡立てて、水で流そうと思った所でシルクに取り上げられた」
「え、なんで?」
「んー…… 結論から言うと……」
「遠慮なくどうぞ」
「いや、遠慮ではないけどさ。うん、ラキのお尻って少し硬めの毛で覆われてるじゃない?」
「……あー、本当だな」
「うぅ、見せてくれない……」
アヤメさんがじっと見てるのは気にしないのに、お姉ちゃんが近づくときしゃーっと威嚇するラキ。
うん、いつもの事だな。
「ああ、なるほど」
「まぁ察せたみたいだけど、うん。要するにラキのお尻をたわしにして、全身こすられたね」
「あー……」
「なんか誇らしげなんだけど、そういうもんなのかね」
「お役に立てた、という事なのでしょうね」
アヤメさんの言葉でラキを見てみれば、腰に手を当ててえっへんって感じに胸を張ってる。
うん、まぁ良いけどさ。
「本人は誇らしげだったし自分の仕事みたいな顔してたけど、自分を道具扱いするのはやめようねって言っておいた」
「ま、召喚獣だし間違っちゃいないんだろうけどな」
「でもなんか気分的にねぇ。あとちょっと恥ずかしいし」
「全身舐め回させておいて何言ってるの雪ちゃん」
「いや、諦めて好きにさせただけで、自分からやらせたわけじゃないよ……」
なんで私が舐めなさいって言ったみたいに言うのか。
私、そんな趣味は持ってないよ。




