277:燃やしてみよう。
「ふむ、仲直りしたばかりで再び嫌われたくはないからな。ぴーちゃんがダメというなら止めておくとしよう」
そっと手を添え、ぴーちゃんの羽を優しく撫でながら言うアリア様。
パッと見は微笑ましいんだけど、手を添えた瞬間ぴーちゃんがちょっとビクってしてたな。
まぁさっきも最初は似たような動きだったし、仕方ないか。
「しかしそうすると、コレはどうしたものかな。コレット、飲んでみるか?」
「いえ、私は姫様をお守りする立場ですので」
「ふむ、確かに仕事中であるしな。だからモニカもチラチラこちらを見るでない」
アリア様が飲まないなら回ってこないかと、期待しつつ様子を伺って釘を刺されるモニカさん。
まぁ本来の業務じゃないとはいえ、残業中みたいなものだしね。
「ま、しまっておくとするか。部屋で大人しく飲む分にはぴーちゃんも許してくれるだろう」
「ぴっ」
ぴーちゃんがこくこくと頷いて同意する。
再度襲われたらたまったもんじゃないから止めただけで、アリア様の行動を縛りたい訳じゃないだろうしね。
「白雪さん」
「ん?」
コレットさんが瓶に注ぎ込んでいるのを眺めていたら、背後からレティさんに呼ばれた。
「こちらにも一つ頂いても良いですか?」
「良いけど…… どうするの?」
レティさんがお姉ちゃんが出した岩を指して要求するので、聞いてから口に含んで近寄って行く。
「いえ、少し気になる事が有りまして。それほどに強くアルコール臭が拡散するのなら、火を近づけたらどうなるのかと」
「危なくない?」
「少量ですし、大きく燃え広がったりはしないでしょう。大丈夫ですよ、何かあっても私が治してあげますから」
「ちょっと待って? やるの私なの?」
「ふふ、冗談ですよ」
お姉ちゃんが遊ばれてるのを眺めつつ、岩の上にてれーっと吐き出す。
何気にアヤメさんがちょっとだけ離れてるのは、飛び火してレティさんの的になるのを避けてるんだろうな……
「はいどうぞー」
「ありがとうございます。ミヤコさん、この棒に火をお願いします」
「はーい」
レティさんが取り出したつまようじくらいの木の棒に、お姉ちゃんが人差し指を近づけてポッと火を点ける。
「では…… あっ!?」
「うわっ!? ちょっ、レティさん大丈夫!?」
マッチみたいになった棒で火を近づけた瞬間に、蜜がボフッという音と閃光を発して一瞬で燃え尽きた。
おいおい、あれ小規模だけど爆発してるじゃないか……
「だ、大丈夫です。少し驚いただけですので」
「とんだ危険物じゃないか……」
「あ、ちょっと溶けかけてる」
あ、ほんとだ。
お姉ちゃんの言葉で蜜が乗っていた所を見てみると、赤熱して変形してた。
「ん?」
「どうしたの? ……あぁ」
疑問の声を上げるお姉ちゃんに一瞬怪訝な顔を向けて、すぐに自分でも気づいた。
さっきの爆発で蜜の甘い香りが、爆風に乗って広がってるっぽい。
「おー、少し甘ったるいけど良い匂いだな」
「何かに染み込ませたりしてゆっくりと燃焼させられれば、アロマキャンドルの様な使い方が出来るかもしれませんね」
……また【妖精】の謎用途が増えてしまうのか。
「白雪」
「はい?」
なんか唐突にジョージさんが声をかけてきた。
今度は何だろう?
「置いた瞬間に燃えない様に少し冷ましてから、端から端に細くていいから線を引く様に垂らしてみてくれ」
「良いですけど……」
さっきの岩とテーブルの間に木の板を挟みながら、蜜を要求してくる。
構わないけどどうするんだろうか。
【凍結吐息】で一気に冷やすと割れてしまいそうなので、【灼熱旋風】で常温の風をぶおーと吹きつけて触れる程度まで冷ましていく。
あ、それでも変形してたとこがちょっとパキっていった。
まぁ良いか。
冷めたのを確認してから蜜を頬張り、口の中でもにゅもにゅと混ぜて端っこからツーッと垂らして伸ばしていく。
む、流石にいくら細くしても一滴じゃ足りないか。
結局五滴ほど使ってしまった。
しかしこれ、人間からだと普通なら見るのがやっとってくらいの細さじゃないかな。
ジョージさんはどうせ余裕で見えるだろうから、気にする必要は無いけど。
「ありがとよ。よし、危ないからちっと離れてな」
「言われなくても怖いから離れますよ」
「そりゃそうか。よし、行くぞ」
ジョージさんの指先から、私の指先くらいの小さな火の玉が蜜の端に向かって飛んで行く。
うおぅ、シュボっという音と光を発して一瞬で反対側まで燃え広がった。
これ、熱々の岩にうっかり吐いたら私の頭が吹き飛んじゃうな。
「お、行けたな」
「何が……おおう」
岩が私の引いた線に沿って真っ二つに割れてる。
「テルミットか何かかよ」
「雪ちゃん、金庫破りでもするの?」
「しないよ……」
別に私の意思でこういう仕様になった訳じゃないし。
ていうか試したのジョージさんじゃん。




