275:許してあげよう。
「ぴ、ぴーちゃんよ」
「……ぴー」
テーブルに横たわったぴーちゃんに、少し焦った感じで声をかけるアリア様。
ぴーちゃんは一応返事はするものの、背中を向けたまま「知らない」と言った態度を取る。
「すまなんだ。この通り、謝るから許してはもらえんか?」
「……ぅぴゃっ」
アリア様が机に両手をついて頭を下げて謝るが、チラッと見てすぐにぷいっと顔を背けるぴーちゃん。
むすーっとしてるなぁ。
「ぬぅ、どうしたものか…… すっかり嫌われてしまったぞ」
「まぁこれでもかってくらい揉んでましたからねぇ」
「わ、私の意思では無いのだがな…… しかし、私がやった事には変わりないからな。言い訳のしようも無いか……」
「うーん、でも頼まれてやった事とはいえ、酔わせちゃったのは雪ちゃんですよね?」
「あー、まぁ確かにそうだね。お互いにあんな事になるとは思ってなかったから、事故みたいなものだと思うけど」
言い訳じみた物言いだけど、実際お酒になるなんて思ってもみなかったし。
しかもあんな強いの。
転がったぴーちゃんの横に行って、説得してみる。
「ぴーちゃん、アリア様も謝ってくれてるし許してあげよ?」
「ぴゃー……」
「ほら、半ば私のせいでもあるし。アリア様だって、好きで酷い事したんじゃないからさ」
「ぴぅ……」
あ、起き上がって座った。
もうちょっとかな?
「共犯どころか、私が原因みたいなものだし。ぴーちゃんは、私も嫌い?」
おおう。
困った様な「むぅ」って顔して、おなかに抱き着いてきた。
「雪ちゃん、なんかその言い方ずるくない?」
「そもそも元々は、お姉ちゃんが変な事言いだしたからじゃないの」
「ひぃっ、ヤブヘビっ」
ぴーちゃんが一瞬「そういえばそうだよ」とハッとした顔になり、お姉ちゃんをじとーっと見つめる。
うん、まぁ嫌わないであげてね。
お姉ちゃんもただ言ってみただけなんだし。
悪いのはこんな仕様にした開発だと思うんだ。
「ぴ」
おや、私のお腹から離れてトコトコと下げっぱなしのアリア様の頭に近づいて行った。
「ぴゃー」
「ゆ、許してくれるのか……?」
羽の先でアリア様の脳天をぽふぽふするぴーちゃん。
えーと、とっても偉い人の頭に触れちゃったりして大丈夫なの?
……まぁ大丈夫じゃなかったら、コレットさんに始末されてるか。
アリア様がゆっくりと上げた顔に、羽を広げて正面からもふっと抱き着くぴーちゃん。
うんうん、仲良くしようね。
……何気に「事故でも次は無いからな」みたいな顔してるけど。
まぁあれだけ好き放題されたら仕方ないかな?
「むぅ。許されたのは嬉しいが、白雪に言われて仕方なくと言った感じだな……」
「姫様、何か贈り物をしてみてはいかがでしょうか」
「ふむ、誠意を示すという訳だな」
コレットさんの提案になるほどと頷くアリア様。
待って、その流れで私えらい目に遭ってるんだけど。
「という訳で白雪、ぴーちゃんは何が好きなのだろうか」
「えーと…… 一応言っておきますけど、あんまり高価な物とかは」
「安心しろ、心得ているさ」
本当かなぁ……?
私の基準とアリア様の基準がかけ離れてる気がするんだよなー。
まぁどっちにしろ貰う以外の道は無さそうなんだけどさ。
「んー、果物は美味しそうに食べてましたね。……あとラキ」
おおう、ラキが凄い勢いでこっち見た。
大丈夫だよ、ラキを生贄にしようって訳じゃないから。
「ふむ。果物盛り合わせ……も良いかもしれないが、そんなには食べられんか。しかし虫の魔物を集めて送るのも、白雪への嫌がらせになりそうだな」
「あー、流石にそれは勘弁して欲しいですね」
一匹がどのくらいの大きさか知らないけど、凄い絵面になりそうだし。
「ふむ…… あぁ、果物はそもそも市場に行けば、好きに食べられるのだったな」
「そういえばそうですね。あとは……」
なんか有ったっけ?
実際、すごい懐かれてるけど今日呼んだばっかりの子だからなぁ。
そこまで良くは知らないんだよね。
「あ、そうだ」
「お、何かあるのか?」
「本が好きなのかもしれません。ジェイさんに捕まってた時、本を読んでもらって大人しくしてましたし」
「ふむ、本か。それならば、ソニアの部屋にいくつか写本を贈る予定であったからな。ぴーちゃんへのお詫びの分を上乗せするとしよう」
「あー、ソニアさんが役場に読みに行けないからですか?」
「うむ。図書室にも貸し出し用の物を置いていくつもりでもあるしな。ぴーちゃん、どういう本が読みたいという要求は有るかな?」
「ぴゃー」
一転してにっこり笑顔になって、なんでもいいよと首を振るぴーちゃん。
あれ、この子結構チョロい?




