274:目を覚まさせよう。
「おーい、アリア様ー。大丈夫ですかー?」
ぽけーっとしちゃってるアリア様に声をかけてみる。
どうしちゃったのかな?
アヤメさんの時みたいに、妙な事になってなきゃいいんだけど……
「……ぬっ?」
あ、返事が返ってきた。
「むぅ、すまん。少し惚けていたようだな」
「良かった、体に悪い物になってたらどうしようかと思いましたよ」
「そうですね。アヤメさんになってしまわれたのではないかと、心配しました」
「おいレティ、ちょっと表に出ようか」
「はいはいアヤメちゃん、落ち着こうね。あとここもう屋外だよ」
うん、確かに表ではあるけど、お庭で暴れられても困る。
まぁ暴れはせずに、むにーっとレティさんのほっぺた引っ張るだけにしたみたいだけど。
「いや、問題無い。それどころか体がほかほかと暖かくなって、とても良い気分だ」
「おー、そうですか。それは良かった」
「うむ、非常に美味であったぞ。毎晩、寝る前に一杯欲しいくらいであるな」
「いえ、流石にそれは……」
「ふむ、残念だ。時にぴーちゃんよ」
「ぅぴゃっ?」
油断してたところにいきなり声をかけられて、微妙に変な鳴き声になってる。
「ふふっ。もそっと近う寄れ」
「ぴー?」
いきなり呼んでるけど、どうしたんだろ。
ぴーちゃんも心当たりがないみたいで、なんだろって顔してるし。
「ヤバくねぇか?」
「もう少し様子を見ましょう」
あれ、ジョージさんが出てきてコレットさんになんか言ってる。
ヤバいって何だ。
「ぴっ」
「よしよし、可愛いな。じっとしているのだぞ」
机の端っこに立って「来ましたー」って感じで鳴いたぴーちゃんに、ゆっくりと両手を伸ばすアリア様。
そっと両手で包み込むように持って、優しく持ち上げて……
「ぴやぁぁぁぁぁー!?」
「これ、暴れるでない。ふふふ…… 思った通り、とても気持ち良いな……」
……両方の親指でぴーちゃんのふかふかをこねくり回し始めた。
なんでだよ。
もがこうとはしてるけど、ガッチリ確保されて抜け出せないぴーちゃん。
お姉ちゃんが相手ならともかく、アリア様だと鉤爪でひっかいたり蹴ったりする訳にも行かないからなぁ。
「あー、やっぱりダメだったか」
「あの、アリア様はどうしちゃったんですか?」
「あれ、べろんべろんに酔っぱらってるぞ」
「そうですね。あの行いから見るに、限界一歩手前かと」
ジョージさんの回答に、コレットさんが補足する。
「え、いや、なんで酔っ払ってるんですか」
「なんでも何も、どう考えてもお前の飲ませた物のせいだろ」
「いくら姫様がお弱いとはいえ、あの量でここまでの状態になるとは、尋常でない強さのお酒のようですね」
……えー。
私が蜜をくちゅくちゅすると、お酒になっちゃうのか……
私はなんともないって事は、口から出すとそうなるのか【妖精】には効果が出ないのか、そもそも【妖精】はお酒に酔わないのか。
てかアリア様、お酒が飲める歳だったんだな。
同じくらいかと思ってたけど。
あ、もしかしたらこの国の法律では若くても飲めるってだけかな?
「姫様は、酒に弱い上に酒癖が悪くてな…… 少し酔っただけなら引っ付いて座ったりするくらいなんだが」
「酔いが回るにつれて接触が過剰になって行き、抱き着きや頬ずりを経て、最終的に手当たり次第に揉み始めます」
「あそこまで行っても口調がまともなままだってのが性質が悪いわな。まぁ普通ならああなる前に気づいて止めるけどよ」
「うはー……」
ぴーちゃんには悪いけど、狙われなくて良かった。
私じゃ揉まれたらそのままぐちゃぐちゃになっちゃうからな。
「ぴぁぁぁぁぁぁぁ」
「ふふふふ。減るものでは無し、良いではないか」
ふにふに揉みまくって頬ずりして、やりたい放題されてるな。
「えっと、止めなくて良いんですか……?」
「あー、まぁ姫様も自覚はされてるからな。あまり酷い様なら無理にでも止めてくれって言われてる」
「そろそろ止めましょうか」
うん、もっと早く止めて良かったと思うんだ。
残念そうなコレットさんの表情からすると、この状態のアリア様も見ていたくて引き延ばしてたっぽいな……
「ってあれ、ぴーちゃんが居ない?」
「あー、ついさっき『よーしよしよし、お前は可愛いから今日からうちの子だ』って言って服の中に入れてたよ」
「いやいやいや」
お姉ちゃんに言われて見てみれば、確かにアリア様の胸の辺りがもぞもぞ動いて、それを押さえ込むように両手をかぶせてる。
こらー、ぴーちゃんはうちの子だぞー。
「む? これは…… どういう状況だ?」
背後に回ったコレットさんに魔法で治癒されて、正気を取り戻したアリア様。
途中から記憶が飛んでるらしいな。
「またやらかしてたんですよ」
「ぬ、すまんな。あまりに美味さに少し惚けていたのは覚えているのだが」
「えーと、アリア様」
「おお、白雪。生きているという事は、握りしめたりはしなかった様だな」
「いや、私は無事なんですけど…… ぴーちゃんを返してもらってもいいですか?」
「ぬ? ……私は一体何をやっているのだ」
「可愛い可愛いって言って弄り回して、そのまま連れて帰ろうとしてましたよ」
「ぴぃぃ……」
アリア様が首元から服に手を突っ込んで引き抜くと、暴れ疲れてぐったりしたぴーちゃんの姿が。
うん、まぁ怪我は無い様でなによりだよ。




