268:続けて振り返ろう。
微妙に嫌そうな顔をしながら、アヤメさんが口を開く。
「でも、白雪は大丈夫だったんだろ?」
「あー、まぁ私の場合は脆すぎて、からかおうとしたら潰しちゃうかもしれないからだろうね」
「……それもそうか。っていうかぴーちゃんは何されたんだ?」
「えーと、最初の挨拶で美味しそうって冗談言われて、そのあと部屋の入り口…… こう、口を縦にしたみたいに壁が開くんだけど、そこではむっと挟まれて」
「あらら」
「そのあと粉を調べてる最中に小っちゃいジェイさん…… あ、触手の先端で自分のミニチュアを作ったやつだけど」
「そんな事も出来るんですね」
「うん。複数を同時に操作するのは難しくてまだ出来ないって言ってたけどね。で、それで私に抱き着こうとして飛びかかって来たのを見て、元の大きな方の後頭部をげしげし蹴ってたんだけど」
「けなげだねぇ」
「そしたら後頭部がぐぱっと開いて、勢いを付けて蹴ってたから止まれずに飛び込んじゃって」
「怖っ」
「クリオネの様な感じでしょうか?」
「私は正面に居たからちゃんと見えてないんだけど、多分後頭部に縦向きのでっかい口が出来た感じだと思う」
「ぴぃ」
はっきりと見る羽目になってたぴーちゃんから同意の鳴き声が。
合ってたらしい。
「で、頭だけがジェイさんの後頭部から生えてるみたいにされて、粉を調べてる間はずっと揉まれながらしゃぶられてた」
「助けてやれよ……」
「いやー、敵じゃないし怒ってないし大丈夫だからやめたげてって言ってるのを無視して蹴り続けてたからさ。反省しようねってことでね」
「ぴぅ」
「あ、一応納得はしてるんだね」
「アイツは嫌いだけどあれは仕方ないから、って感じだけどね」
こくこく頷くぴーちゃん。
「ところで、粉の事は何か解ったの?」
「あー、とりあえず既存の毒とかが効かないジェイさんでもほぼ抵抗出来ない強さって事と、二十……人間換算で二メートルほど離れたら効果が無くなるって事が解ったかな」
「あぁ、相変わらず安全に戦わせてはくれないんだな」
「まぁ制限無くても、それはそれで危なくて使えないけどね。風に乗ってどこに行くか解ったもんじゃないし」
「【妖精】の風下には立てなくなっちゃうね」
「見える範囲ならまだ良いんだけど……」
「忘れた頃に全く関係無い場所や、町中で発症してしまうかもしれませんから。まぁその心配も無い様で、その点は良かったですね」
「うん。まぁどっちにしろ使う予定は今の所無いんだけど」
砂糖としては使うだろうけどね。
「で、調べ終わってディーさんの所にラキを迎えに行ったら、なんか一発芸みたいなの披露された」
「一発芸?」
「さっき言ったクロスボウみたいな腕を使ってラキを発射するんだけど、敢えて的から外して発射されたのをラキが自力で軌道修正して真ん中に着弾するの」
「え、なんか凄いね。かなりのスピードなんじゃないの?」
「かなりのっていうか、全く見えなかったよ。発射したと思ったらもう着弾してたって感じ」
「そんなスピードでの調整は出来るのに、うっかり捕まる事はあるんですね」
「流石に何かそういう能力なんじゃないか? 飛びかかる時限定みたいな」
「あ、そうみたいだね」
ラキがうんうんって頷いてるし。
でもその技って使う事あんまり無いんじゃない?
あ、でも走り回って狩りをするタイプのクモって、飛びかかる動きがすっごい速いんだったかな。
あんまり観察した事無いし、良くは知らないけど。
「で、それからジーさんの話を聞いてお暇しようとしたら、ちょっと待ってって止められて」
「何かあったの?」
「壁からサフィさんがヌルって出てきて、ボトって落ちた」
「何があったんだよ……」
「警備の人達にお仕置きされてたんだけど、そのせいで疲れて汗だくだからって、ジェイさんが体内でマッサージしながら粘液風呂に入れて洗ってたらしい」
「うわー……」
お姉ちゃんが引いてる。
うん、私も同じ反応すると思う。
「まぁ洗われた結果、今度は粘液でヌメヌメになってたんだけどね」
「ダメじゃないですか」
「うん、そう抗議したらまた床から飲み込まれて、今度は綺麗に乾かされて壁から落ちて来たよ」
「乾かすって、どうやったんだ?」
「私もそう思って聞いてみたら、包んでる面を腸壁みたいにして水分を吸収しながら、魔法で風を送ったって言ってた」
「器用なものですね」
「しかも中のサフィさんが暑くない様に、熱風と冷風を使い分けて同時に出してたらしいよ」
「変な所で凄いなぁ……」
私も同時にいくつも使うのを練習してみようかな?
訓練の効率も良くなりそうだし、損は無いだろうし。
あ、でも普段から【浮遊】は同時に使ってるわけだし、慣れれば案外できるかもだな。




