267:研究所を振り返ろう。
「まぁそれはともかく研究所に行ったわけだけど。入り口で見張り…… いや、警備かな? のランディさんに挨拶して入れてもらって」
「あいつらは真面目に仕事してたか?」
「むしろあの人がサボってる姿っていうのが、あんまり想像できないんですけど」
「それもそうだな」
ジョージさんの問いに、少し考えてみてから答える。
見てない二人は解らないけど、二人の狐さんは真面目っぽかったし。
うん、お互いに「サフィさんと違って」って言葉が見え隠れしてるよね。
「で、研究所に入ったらディーっていう人間? のおじさんと、ジェイって言う魔人……? のお姉さんに出迎えられた」
「何ですっごい疑問形なの……?」
「いや、うん、なんていうかね……。ディーさんは頭以外は生身じゃなかったし」
「どういうことだよ」
「義手とか義足っていうか、義体? なんか割と自由に取り換えられるっぽい」
「なんとなくは解りましたが……」
うん、まぁ私も詳しくは知らないし、何となくで良いんじゃないかな。
説明しろって言われても困るし。
「で、ジェイさんは人類やめちゃってた」
「それこそどういうことだよ……」
「ってそういえばアリア様、なんて物を拾ってきてるんですか」
アヤメさんの疑問の声が聞こえたけど、それを置いておいてアリア様にツッコむ。
「む? あぁ、アレか。海岸を散歩していたら、何やら見慣れぬ活きの良い触手が落ちていたのでな」
いや、見慣れた触手って普通はあんまり無いよね。
そういう事を言ってるんじゃないだろうけど。
「そういう物は専門家の所に持っていくのが筋というものだろう」
「それは間違ってないと思いますけど、自分に埋め込んでみるのが趣味の人に持っていっちゃ駄目だと思いますよ……」
「その前にきちんと調べはするから、問題は無いさ」
いや、ツッコミ所はそこじゃないから。
調査したかどうかは大事だけど、今は良いんですよ。
「その後が大問題じゃないですか」
「しかし、本人は喜んでいただろう?」
「まぁアリア様に与えられたって所も含めて大喜びでしょうけど」
「ならば良いではないか」
「まぁちゃんと制御できてるから、他に問題は起きてませんけどね……」
「うむ。人類と呼べなくなってしまっているのも本人の望み通りであるし、良い事づくめではないかな」
望んでたんだ……
まぁそんな感じではあったけどさ。
「えーと…… 一体どんな感じになってたんだ?」
アヤメさんが再度問いかけてきた。
「んー、全身が青白くて両腕がそれぞれ長い触手になってて、下半身は無数の触手に分かれてにょろにょろしてた」
「うっわ」
「上半身は腕以外普通の形だったけど、物を食べる口は脚の付け根についてたよ」
「タコの様な感じでしょうか?」
「多分。裏返して覗いたりなんてことはしてないから牙が有るのかは判らないけど、付いてる場所はそんな感じだね」
「……それ、元は普通の【魔人】だったんだよな?」
「うむ。ほぼ常時体のどこかが別の生物ではあったが、れっきとした【魔人】であったぞ」
「微妙に疑問が残るけど、少なくとも二日前くらいにアリア様が触手を渡すまではそうだったらしいよ」
「【魔人】って…… いや待てレティ。まだ何も言ってないぞ」
そっと置いてある石に手を添えたレティさんに、アヤメさんが慌てて弁解する。
でも今「まだ」って言ったよね。
レティさんはとりあえず手を離してくれたけど。
「まぁその体も普通に作ったらそうなるってだけで、いくらでも好きな形になれるっぽいけど」
「と言いますと?」
「実際はスライムみたいな不定形生物っぽい。いや、どちらかというとスライムみたいに自在に形を変えられるだけかな?」
「何を見たんだよ……」
「研究所だと思って入った建物が、それを取り込んで擬態したジェイさん自身だった」
「なにそれ怖い」
「何でも食べられるのですね」
「石や金属は消化に時間がかかるし、美味しくないからあまり食べたくはないと言っていたがな」
喜んで食らい尽くされたら困るけどね。
そんな目的で町に出て来られたら討伐せざるを得ないだろうし。
「まぁそれでも仕方ないから中に入って、粉を調べてもらったよ。ラキはディーさんの作る機械が気に入ったみたいで、そっちに行って見せてもらってたけど」
「ほー、どんなのが有ったんだ?」
「私はちょっとしか見てないけど、胸から散弾を発射したり手の平から鉄の杭を射出したり」
「色々と凄いな」
「クロスボウみたいになった腕とか、手首から先がドリルになってる腕とか」
「ちょっと見てみたいな…… 今度訪ねてみようか」
微妙に興味を引かれたらしいアヤメさん。
「あー、でも行ってみるのは止めた方が良いと思うよ」
「うむ」
「ん? やっぱ危ないかな」
「いや、私やアリア様の知り合いって言えば危害は加えられないと思うけど」
「恐らく、ジェイに気に入られて弄り回されると思うぞ」
「ぴゃー……」
うん、なんかアヤメさんが行くとそうなる未来しか予想できない。
被害者のぴーちゃんもそう言ってるし。




