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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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260/3658

260:状況を聞こう。

「え、あれ? えっと、魔術師? って言いませんでした?」


「うむ」


 お姉ちゃんが混乱している。

 うん、まぁ仕方ない。



「アリア様、それジーって呼ばれてる人ですか?」


「ん? そうだが…… ああ、あの二人から聞いたのか」


「はい。簡単にですけどね」


 やっぱりか。

 まぁそんなのが何人も居たら怖いけどさ。

 ……いや、実際に強いのを見せつけてるんだから、そこまでのレベルじゃなくても真似る人が居るかもしれないけど。



「えっと…… どういった人なのでしょうか?」


「種族は【魔人】で、元宮廷筆頭魔術師の魔法研究者だな。ちなみに本名はグレゴリーという」


「なんか凄そうだけど、やっぱり前の情報と結びつかない…… 【魔人】って肉体的には柔らかい種族でしたよね」


「ふむ。では『魔法マニアの筋肉爺』と言えばどうかな?」


「……えー」


「アリア様、身も蓋も無いです」


「解り易く言ったまでだ」


 うん、まぁそうだろうけどさ。

 もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないかな?



「また筋肉【魔人】か…… んっ」


 ……アヤメさんが呟きながらレティさんを見て、吹き出すのを我慢する様な声を出しながら反対を向いた。

 あれ絶対、マッチョになったレティさんとか想像しただろ。


「どうぞ」


「がっ!? んーあぁー、ってぇーよレティー、容赦なさすぎんだろー……?」


 うわー……

 笑顔のままでさっき私がお姉ちゃんにぶつけた石を拾って、アヤメさんの右脚のすねに投げつけたよ。

 あれは痛いわ。




「いやー、今のはアヤメちゃんが悪いと思うなー」


「まぁ怪我はしておらぬ様だし、大丈夫ではないか?」


「コイツはその、怪我をしないギリギリの所を見極めてくるから厄介なんですよ……」


「ほほう!」


 カトリーヌさんは座ってなさい。


「あの、期待させて申し訳ないのですが、流石に【妖精】には無理ですよ」


「むう、残念ですわ……」


 いや、それは謝らなくて良いんじゃないかな。




「それにしても、いくら鍛えてても【魔人】の体じゃ限度があるんじゃありませんか?」


「仮にも筆頭魔術師だった男だ。強化魔法の性能も、常人とは桁が違うのさ」


「王国騎士を相手に、金属で出来た全身鎧の上から素手でボコボコにしたって言ってましたしね……」


「うわー……」


「ん? いや、それは違うぞ白雪」


「え?」


「その時は魔法を使っていないからな。鎧を変形させたのは純粋な腕力だ」


「マジですか」


「うわぁー……」


 お姉ちゃんの開いた口がふさがらない。

 うん、気持ちはよく解る。


 ……待てよ?

 その上に強化魔法をかけたものをたった二人で抑え込むって、あの二人も大概とんでもないな……




「あ、そういえばトラブルって何があったんですか?」


 なんかに怒って突撃したんだよね。


「本国に居た頃、三月に一度行われていた研究報告の場でちょっとした事故が起きてな」


「事故?」


「うむ。なんでもジーの奴は、船を【風魔法】で宙に浮かべて、そこに何らかの動力を付けて空を飛ばせられないかという実験をしていたらしいのだが」


 おお、ファンタジー的乗り物。

 いや、実物を見たら「飛行船だこれ」ってなる見た目かも知れないけど。



「試作品として二人乗り程度の小さなボートを浮かべて見せたら、運悪く近くを低空飛行していた個体が居たらしくてな。操作する為に乗っていた研究員ごと、木っ端微塵にされてしまったのだ」


「……ツイてないですね」


 主に研究員が。

 その人も存在は知ってるだろうから、普通だったら大丈夫な高度で抑えてたんだろうになぁ……



「うむ。そしてジーが自分の研究を私に披露している所を邪魔されて、激怒して突撃していったのだ」


「えっと、亡くなった研究員さんの事は?」


「白雪、あの二人に会ったのなら解るだろう」


「あ、はい。眼中に無いですよね……」


 そういえば、研究の為なら他人どころか自分の命だって平気で捨てられる人達だった。

 その辺は期待するだけ無駄なんだろうな。




「にしても、ジーさんが着いた頃には居なくなってるんじゃ?」


「言っただろう? 見慣れない物が飛んでいると触りに来ると」


「ああ、呼ぶ必要さえ無いんでしたね」


「うむ。そして無事突撃を受け止めて、叱りつけたという訳だ。いや、無傷とはいかなかったし、叱ると言うよりも苦情といった感じではあったがな」


 ん?



「というと?」


「流石のジーでも、何本か骨が折れてしまっていた様だ。降りてきてから『自分の体を癒す羽目になるなど、一体何年ぶりの事ですかな』と、豪快に笑いながら治していたな」


「あー。止められはしたけど、やっぱり無理があったんですね。苦情っていうのは?」


「いくら興奮しているとはいえ、高位種族に正面から敵意を向ける程の愚か者では無いからな。まぁ一番の理由は捕まえた相手の外見が小さな女の子だったので、なんとなく怒り辛かったのであろうがな」


「あらら」


 まぁいい年して小さい子に感情をぶつけてるのは、周りから見たらなんだかなーってなりそうだな。

 いや、そのくらいは許されそうな事をされては居るんだけど。


 ……でもムッキムキのお爺さんが小さな女の子を捕まえてる絵面ってどうなんだろう。



「まぁ、配慮した苦言も殆ど聞いてもらえていない様ではあったがな」


「無視されちゃったんですか?」


「いや、どうやらよほど驚いたらしくてな。『すごーい! ニンゲンなのに撫でても壊れない!』『おじいちゃん、すごいすごい!』『ニンゲンなんかがこんなに固くなるなんて、いっぱい頑張ったんだねー!』といった感じで、話も聞かずに称賛し続けていた」


「……それは称賛なんですかね?」


 すごい上から目線だけど。


「まぁ彼女からしてみれば、普通のニンゲンというのは少し掠めるだけで消し飛ぶ程度の存在だからな。原形を留めているだけでも凄い事なのに、生きて自分を掴んでくるのだ。並大抵の驚きではないだろうさ」


「まぁ、確かにそうかもしれませんね」


 ていうかそれ下手したら驚きすぎて、パニックになって大暴れされそうで怖いな……

 いや、大丈夫だったんだから言っても意味はないんだけどさ。




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