259:飛び方を知ろう。
「んー…… ねーねー、アリアさまー」
「む? どうした、めーちゃん」
おや、ずっと静かに聞いてためーちゃんから何かあるらしい。
「んー、【樹人】は、高位種族じゃないんですよねー?」
「うむ。確かに人類よりは強力な種だが、どうにもならないという程ではないからであろうな」
そういえば死に戻りした時も、衛兵さんに真っ二つにされたって言ってたな。
「むー、仲間外れだー」
「まぁ特殊な種族って意味では似たようなものだし、別に良いんじゃない?」
「んー、そうなんだけどねー。うん、まぁいっかー」
私のコメントに、一瞬考えたけどすぐに納得してくれるめーちゃん。
どうやらちょっと言ってみただけらしい。
「あの、アリア様。少しお聞きしても良いですか?」
おや、今度はレティさんか。
そういえばさっきから、口元に手を当てて何か考えてる感じだったな。
「うむうむ、何でも聞くが良いぞ! とは言っても、知らぬことは答えられんがな!」
得意げに胸を張って許可を出し、即座に逃げを打っておくアリア様。
いや、当然の事を言っただけではあるんだけどさ。
「その高位種族の方達なのですが、こちらの大陸にも居る可能性が?」
わざわざ言うまでも無く、私達を除いてって事だよね。
「ふむ。現在は見つかっていないが、恐らく居るのではないかな? あちらで確認されていない新たな種族が見つかる可能性もあるし、考えたくは無いがそれらが敵対する可能性も無いとは言えないな」
なんかフラグっぽいけど、最後のは多分ゼロとは言えないから言ってみただけだろうな。
どう考えても種族丸ごと敵対したら詰むだろうし。
現実ならともかく、ゲームでそれはマズいだろう。
いや現実で詰む方がよっぽどマズいけど。
「まぁそうでしょうね。レティ、なんでわざわざ聞いたんだ?」
「いえ、他の方々にも知らせた方が良いかと思いまして」
「あー、そっか。変に突っ込んでも無駄死にするだけだもんな」
「ふむ。……あぁ」
「おや、何か?」
何かを思い出したらしいアリア様に、レティさんが問いかける。
というか問いかけろと言わんばかりの間の取り方だな。
「いや、先ほどの話にも出た普段は雲の上を飛んでいる連中…… マハー・パクシーと呼ばれているが、そいつらはまず上空に居るであろうな」
あ、そういう種族名なんだ。
まぁ多分人類が勝手に呼んでるだけで、本人たちに言ってみたら「え?」って感じになるんだろうけど。
「マハー・パクシー…… 『偉大なる鳥』と言った感じでしょうか?」
「レティちゃん、それ何語?」
「ヒンディー語ですね。マハは聞いた事も有るかと思いますよ」
「えっと、マハラジャとか?」
「はい。マハーが偉大、ラージャが王という意味ですね」
「へー。レティ、相変わらずやたらと物知ってるなぁ。ていうか命名規則が解らんわ」
「気にするだけ無駄なんじゃない?」
「まぁ人の名前だって各国入り乱れてるしねぇ」
まぁ大体欧米系だけど。
あ、ライサさんとかはロシアっぽいかな?
「まぁそれはともかく、連中にとって海が有ることなど何の障害にもならんからな。迂闊に空を飛ぶのは避けた方が良い」
「いや普通の人は飛べませんよ」
アリア様の言葉に即座にツッコむアヤメさん。
まぁうん、普通は飛べないよね。
「そうでもないぞ。【風魔法】を鍛えれば可能だからな。ジョージ、見せてやれ」
「へーい。ほれ、浮いてるだろ?」
おお、スッと現れてジャンプしたまま滞空してる。
なるほど、【浮遊】を持ってる種族は居なくても魔法で飛べる人は居るんだな。
「まぁあまり燃費はよろしくないが、それなりに飛べなくもないという訳だ」
「こいつらみたいに常時飛ぶのはまず無理だな。下手すりゃ魔力切れで意識が途切れて墜落しちまう」
「指で差さないでくださいよ。まぁ別に良いですけど」
こちらに突き出した指に向けて【妖精吐息】を吹きかけておく。
見せるためにわざわざMP消費してくれたんだし、お礼代わりだ。
「お、ありがとよ」
「いえいえ、こちらこそ」
「ちなみに、【火魔法】を鍛える事でも飛べなくもないぞ」
「姫様、チラッと見ても絶対にやりませんからね」
ニヤニヤしながら言うアリア様と、即座に拒否するジョージさん。
「どんな感じなんです? ジョージさんの態度で普通に飛ぶんじゃないのは判りますけど」
「こう、箱や板に乗ってだな」
「うん、大体解ったんで良いです。それ、下手したら死体が飛んでくだけでしょう……?」
そもそも着地をどうする気なんだよ。
足場を上手く地面側に向けてもう一回爆破でもするのか。
「まぁその可能性も無くはない」
「むしろ、死なない可能性が無くはないってくらいでしょうに…… 言っとくが試さん方が良いぞ?」
「やりませんよ…… ていうか私に言っても仕方ないでしょ。普通に飛べるんですから」
「それもそうか。……っておい、やめてやれよ?」
ん?
……お姉ちゃんとレティさんが、アヤメさんをじっと見てるな。
「いやいや、マジで勘弁してくれよ? 怒るからな?」
「ちぇー」
「少し見たかったのですが」
お姉ちゃんはともかく、なんかレティさんが本気っぽくて怖い。
「まぁその飛び方は半ば冗談としてだ」
「半ばなんですね……」
「ある程度の高さまで飛んで連中の目に付くと、高確率で撃墜されるから気を付けた方が良いのは事実だ」
またスルーされた。
「縄張り意識の様なものでしょうか?」
「いや、そういう訳では無いようだ」
「というと?」
「何か見慣れない物が浮いていると、つい触ってみたくなるという習性があるらしい」
「特に敵意が有る訳では無いのですね……」
なんてはた迷惑な……
せめて減速してからにしてくれればいいのに。
「なんでそのままの速度で突っ込んでくるんでしょうねぇ」
「ゆっくり飛ぶのは難しいそうだ。それに普通に触れて壊れてしまうのであれば、その程度の物だからそこで興味が無くなるのだな」
「本当にただ気になるってだけなんですね……」
「うむ。鳥などの、元々空を飛んでいて見慣れた物に対しては何もしない様だしな」
なんていうか、飛びたければなんとかしてみせろって試練みたいな存在だな。
「そういえば本人たちから聞いたっぽい感じですけど、コンタクトを取れた事があるんですか?」
「うむ。少々トラブルがあって頭に血が上ったうちの国の魔術師が、周囲の制止を振り切って文句を言いに飛んで行ってな」
「よく無事で済みましたね。相手が止まってくれるまで避け続けたんですか?」
「いや。己の胸板で突撃を受け止めて、相手の肩を掴んで叱りつけた」
……あー、それ絶対ジーさんでしょ。




