258:理由を聞こう。
「あれ、でも結局【吸血鬼】が吹っ飛ばしたんですよね?」
「うむ。集まった代表者たちをなんとか宥めようとしたものの、特に殺された【吸血鬼】に育てられた者たちと、釣り出すために狙われた者たちの親族の怒りは収まらなくてな」
「まぁ、それも仕方ないですよねぇ」
幼い頃から長ければ十数年、優しく育ててくれたとなればもう一人の親みたいなものだろうしなぁ。
そんな相手を殺されれば、怒って当然だろう。
しかも理由も下らないし。
というか、巻き込んじゃった訳じゃなくてわざと子供狙ったのか……
王様も最低だけど、兵士もなんでそんな指示に従うかね。
いや、どれだけ嫌でも逆らえないんだろうけどさ。
「うむ。亡くなった者への想いゆえに、あまり無下にもしがたいしな。なんとか説得して、けじめは【吸血鬼】が自分たちでつける事と、王都のみで済ませる事を受け入れさせた」
「それも大概凄まじいと思いますけどね」
「一国が焦土になるよりはマシであろうよ」
「まぁそれはそうですが。自分達でやるっていうのは?」
「人間同士で戦うと、いかに戦力に差があるとはいえ攻める側にも相当な被害が出るからな。それにいかに速攻を仕掛けようとも、王都のみを攻めるという事も出来ん」
「あぁ、確かに。っていうか【吸血鬼】は表に出られないのに、どうやって攻めたんですか?」
地上に出るわけにも行かないし、夜に動いたとしても痛いのはともかく弱体化してるだろうし。
「簡単な話さ。表に出られないのなら出なければ良いのだよ」
「はい?」
「総掛かりの突貫工事で王城の真下までトンネルを掘り、深夜になってから真上に向けて全員で魔法を放ったのだ」
「うわぁ」
まぁ確かにそれならピンポイントで狙えるだろうし、察知もされないだろう。
重機を使ったりする訳じゃなくて手でサクサク掘ってるだけだから、騒音もあまりしないし。
いや重機とかないだろうけど。
というかそもそも多少音が出たくらいで聞こえるような、浅い所は掘らないか。
まぁ深すぎると吹き飛ばせないだろうから、手前で浅くするか真下で上に掘ったろうけど。
それなりに日はかかるだろうけど上から人間が攻めたらもっとかかるかもしれないし、下手したら主犯の王様が逃げちゃうかもしれないもんなぁ。
「とまぁそうして城を吹き飛ばし巣に帰って、周辺国の代表に対してこの隙に攻め入らぬ様に頼んだ」
「王城と首都と王族がまとめて消し飛ぶって隙どころの話じゃないですよね」
「と言いますか、そのままにしておく方が逆にまずいのではありませんの?」
「国が無くなったからといってすぐに飢えるような村は無いがな。さりとてそのままという訳にもいかん」
まぁ食料だけあっても、何が起こるか判らないしなぁ。
この世界だと、普通に魔物の被害とかもあるだろうし。
「それじゃ、どうしたんですか?」
「その国出身の奉公人や、奉公上がりの者を集めて国の代わりをするように頼んだらしい。幸いなんとか上手く行ったらしく、今でもその国は残っているぞ」
「へぇ。なんかグダグダになりそうなものですけど」
「【吸血鬼】の頼みも有って、周りの国も協力したからな」
「あぁ、なるほど。にしても、それって実質【吸血鬼】の国じゃないですかね?」
上層部が軒並み【吸血鬼】の配下みたいなものだし。
「まぁ正直な所、元々周辺諸国も似たような物だ。裕福な家で【吸血鬼】の奉公上がりの者が一人も居ない所など、無いと言っても過言ではないからな。というか我が国を含め、ほぼ全ての国がそうなのだが」
「それ大丈夫なんですかね?」
「まぁ、それで上手く回っているのだから問題は無いのだろうよ。そもそも【吸血鬼】全体に人類に対する敵意が芽生えれば、そのような事は関係なく容易に滅ぼされるだろうしな」
「あー。まぁ普段やってる事って、逆に人類の強化みたいな感じでしたっけ」
「うむ。上に立たれているのが気に食わないと文句を言うには、相手が悪すぎるというものだ」
「実際、種族として上位な訳ですしね」
人間から見て高位種族って認めちゃってるんだし。
「白雪、それを同じ高位種族の【妖精】が言っては、嫌味に聞こえるぞ?」
「え? あっ、いやそんなつもりは……」
「ははっ。冗談だ、解っているさ。そんなに狼狽えるでない」
「雪ちゃん、顔に似合わず小心者なんですよ」
「うっさい」
顔は関係無いでしょうが。
生まれつきこういう目つきなんだから仕方ないんだい。
いや、今のこの顔は生まれつきじゃないけどさ。
こういう風に作ったんだから、ある意味生まれつきとは言えるかもしれないけど。
それはどうでもいいか。
「まぁそういう訳で【吸血鬼】の被害と言っても人間の自業自得で、【吸血鬼】はむしろ被害を減らすために動いたという話だな」
「遊び半分で人を消す【妖精】とは大違いだね」
「うるさいよお姉ちゃんって言いたい所だけど、否定できない……」
「怖いですわねぇ」
「いやカトリーヌさん、さっきもちょっと気になってたけどカトリーヌさんもこっち側だからね?」
「……そういえばそうでしたわ」
いやいや、わざとじゃなかったのか。
隣に座って同じ手の平サイズな視点で聞いてて、なぜそんなうっかりが出来るんだ。




