257:事件を知ろう。
「【吸血鬼】って、割と人類に友好的な種族じゃありませんでしたっけ?」
「うむ」
友好的っていうか、可愛がってるっていうか。
見ようによっちゃ自分達を上位に置いて人間をペット扱いしてるとも言えるけど、光が届かない限り圧倒的に強いのは事実だから仕方ない所もある。
それに飼われてる側のメリットも、色々な面で大きいしね。
「それじゃ一体、どうしてそんな事に? いやまぁ、そりゃ全員が好意的とは限らないのは解りますけど」
「まぁそういう者も居ないでもないが、その件には関わってはいないな」
「顛末を聞かせてもらってもいいですか?」
「うむ。かいつまんで話すと、下らない理由で【吸血鬼】の巣を襲撃して報復を受けたというお話だ」
「姫様、流石に要約し過ぎかと」
コレットさんがすかさずツッコんでくれた。
うん、今の説明じゃ一応吹き飛ばす理由が有ったって事くらいしか判らないぞ。
「はっはっは。ではもう少し詳しく話すとしようか」
「そうしてもらえるとありがたいです」
「うむ。まず襲撃した理由からだな。その国の王は、【吸血鬼】の下での奉公上がりだったのだが」
「あれ? 王位継承者なのに【吸血鬼】の所に送られてたんですか?」
「いや、継承者には兄が居てな。それで送られていたのだが、事故が起きて亡くなってしまった為に継承権が転がり込んできたクチだ」
「あぁ、なるほど」
言い方は悪いが、予備だった訳だ。
「まぁそういう事で王となってしばらく経つうちに、過去の恥を知られている事が気になって仕方なくなり始めた」
「過去の恥?」
「まぁ幼い頃から長い事、同じ年頃の者達と暮らし続けていたんだ。恥ずかしい事の一つや二つ、起きる事も知られる事もあるだろうさ」
「あー、まぁ無いとは言えないですね。お姉ちゃんも昔ぃっ!?」
私の言葉を遮る様に、机に座っていた私の体すれすれにお姉ちゃんの手が叩きつけられた。
後ろからだから余計にびっくりした……
いや、悪いのは私なんだけどさ。
「ゆーきーちゃん?」
「いやうん、解ってるから。あ、二匹とも大丈夫大丈夫。ふざけてるだけだから」
だからそんな威嚇しないであげてね。
いや、あえて逆らって続けてみたら今度は本当にぶちゅっと行かれるかもしれないけど。
「白雪、後でこっそり…… いや冗談だって。だからその石は置いとけ。な?」
ニヤニヤしながら私から聞き出そうとしたアヤメさんが、無表情で鞄から自分の頭ほどもある石を取り出したお姉ちゃんを宥める。
ほんと色んな石が入ってるな、あの鞄……
なんだろう、拾ってるうちに妙な趣味にでも目覚めたか?
「続けて良いかな?」
「あ、はい。ってもしかして、襲った理由って」
「うむ。その話を人に知られたくなくて、脅しをかけて口を封じようとした訳だ」
「うわぁ…… 一国の王様がそんな理由で……?」
「何を握られていたのかは判らんが、情けない話だ」
「止める人は居なかったんですかねぇ」
「まぁ当然居ただろうが、止まらなんだのであろうな」
「実行しちゃってるわけですしね」
「うむ。という訳で地上に居る人間の少ない夜間に軍勢を接近させ、日の出と共に奇襲を仕掛けた」
「よく考えたら、そこって他の貴族や富豪の子たちが居るんじゃ?」
「うむ。それどころか隣国の王族も居たからな。【吸血鬼】の報復が無かったとしても、滅亡は時間の問題だったであろうな」
「……なんていうか、うん」
「まぁ、一言で言えば愚かだな。で、奇襲の結果、一体は仕留める事が出来た。いや、出来てしまったと言うべきか」
「失敗してた方がマシですしね」
「それも預かっている子供たちを護るために日光を浴びてしまった結果であるからな。【吸血鬼】達よりも、奉公人やその関係者たちの怒りの方が凄まじい程であったらしい」
「擁護する余地が無いですねぇ……」
いや、しようとも思わないけどさ。
「結局穴の奥に引っ込まれて手出しが出来ず撤退したのだが、後に報せを受けた周辺諸国が激怒してな」
「まぁ当然と言えば当然でしょうね」
「民まで皆殺しにしてしまえなどという過激な意見まで出始めて、これはいかんと逆に【吸血鬼】達が慌て、宥める側に回る羽目になったという」
人間って怖いなー。
いや私も一応そっち側のはずだけどさ。




