256:脅威を知ろう。
「まぁ戻ってくる事があるのは解りましたけど、それでもなぁ……」
「白雪はいまいち納得がいかぬようだが、そういう物なのだよ。当時から今に至るまで、高位種族の気まぐれに対しては身を伏せてやり過ごすというのが常識なのだ」
「むぅ。……って、【妖精】じゃなくて『高位種族』ですか?」
「うむ。【妖精】や【吸血鬼】を含む、人とは比べ物にならぬ力を持った種族たちの総称だな」
「へぇ、他にも色々居るんですか……」
龍もそこに分類されるのかな。
単純に強力な魔物って分類かもしれないけど。
「よく滅びませんね、人類……」
えー……って感じのお姉ちゃんの呟きが。
「まぁ高位種族は基本的に、取るに足らぬ人類などには興味を持たぬからな。【妖精】や【吸血鬼】という例外も居るが」
「でも気まぐれで被害が出たりもするんですよね?」
「うむ。ただ、こちらを意識して何かするという訳では無くてな」
「あー、むしろ逆ですか」
なんとなく察せたので、横から口を挟む。
お姉ちゃんは微妙にピンと来てない顔してるけど。
「うむ。解り易い例で言えば、龍の様な巨大な体躯を持つ種族が少し散歩をしよう、知り合いの所に遊びに行ってみようと外を歩けば、それだけで大騒ぎになる訳だ」
「進路上に人里が有っても、わざわざ迂回なんてしてくれないんですよね?」
「避けてくれる様な相手なら騒ぎにはならんさ」
「まぁそうですね。止まってもらう事も出来ないでしょうし」
「うむ。というか、わざわざ認識させると最悪の結果を招く事もある」
「……えっと、実例が?」
「いくつか。少し鬱陶しいなと思われたのか、踏みつけで人も建物も圧縮されて地面に混ぜられ、完全な更地にされた村が二つ」
「目障りでイラッとしただけでそれですか……」
「うむ。まぁ向こうからしてみれば、適当に何度か足を振り下ろすだけだからな。大した手間でもないだろうよ」
うん、大きさが違うっていうのはそれだけで脅威だもんなぁ。
初日に身をもって解らされたし。
「あー…… 他には?」
「丁度小腹が空いていたのか、目に付く物ほぼすべてを食い尽くされた村が一つだな」
「ほぼっていうと、食べ残しもあったんですか」
「そこ、気にするところか……?」
「いや、まぁそうかもしれないけど」
アヤメさんのツッコミに曖昧な返事を返す。
うん、正直ただなんとなく聞いてみただけだしなぁ。
「中に食料が無く、なおかつ誰も隠れていない小屋などは無事であったらしいぞ」
「えっと、隠れてた場合は?」
「家ごとパクリ、だな」
「でっかいなぁ」
「そこなのか。いや確かに家ごと食えるって相当なデカさだけどさ」
「でしょ?」
家の大きさにもよるけど、少なくとも私とめーちゃんよりもっとサイズの差が有る訳だし。
まぁ相手の姿が判らないし、もしかしたらワニみたいなでっかい口の生き物かもしれないけどさ。
「まぁそういう相手が出てきた時に人に出来る事は、精々目立たぬ様に進路上から離れる事だけだな」
「可能なら一歩分以上は余計に離れておきたい所ですね」
「うむ。急に向きを変えるやも知れぬからな」
「しかし、それで家を失った方は可哀想ですわね……」
「命には代えられんさ。まだ事前に察知出来る分、マシな部類でもあるしな」
「……察知出来ないものも居るんですのね」
「うむ」
いや、ほんと気軽に殺しにかかってくるなぁ、この世界……
レア種族だけに厳しい訳じゃないのね。
……いや少なくとも今の所、プレイヤーが関わる範囲ではその通りだわ。
「普段はかなりの高さ……雲よりももっと上を高速で飛び回っている種族が、何を思ったのか地表に降りてきた時などがそうだな」
「どのくらい早いんですか?」
「少なくとも音よりは速いらしいぞ。町の外壁が爆散したのが見えてから、直後に近くに居た友人の上半身が消失した後で壁の音が聞こえたという話があるからな」
「……えっと、それ狙われたとかじゃないんですよね?」
「断言は出来んが、運が悪かったのだろうな。ただまっすぐ飛んでいた所に、偶然立っていただけの様だ」
あぁ、捕まえられないし話も聞けないから、本当の所は判らないのか。
しかし、確かにこういうのが相手だと用心のしようも無いな。
予兆の無い雷に警戒しろって言う様なものだし。
「まぁ記録に残っている中で一番大規模な被害を出したのは、【吸血鬼】だったりするのだが」
「えーと…… 何があったんですか?」
良かった、まだ上が居た。
いや、何も良くないわ。
【妖精】が滅茶苦茶な事やってたのには変わりないし、何か理由が有るのかもしれないし。
「私のお爺様が王をしていた時代に、とある国の城を丸ごと爆破して、降り注ぐ破片と炎で王都を壊滅させた」
「いやいやいや。なんでそんな事に……」
とんでもないな……
思った以上に大事件だった。




