253:引き続き聞こう。
「にしても、なんでそんな危険な生き物に対して優しくしろって言い伝えが?」
アヤメさんから疑問の声が。
まぁ、普通はそう思うよね。
「まぁ今の話だけではそう思うのは当然だが、基本的に【妖精】は善きものとされていた様だ」
「その程度じゃ評判が揺らがない位に、良い事やってたんですか?」
「色々とな。特に大きい出来事だと、龍の襲撃から国を守ったなどという話もあるぞ」
「はぇー……」
お姉ちゃん、アホの子っぽく見えるから口閉じようね。
ていうか龍ってマジか。
「えっと、龍ってどのくらい強いんですか?」
一応聞いてみる。
ゲームによっては割と普通に倒せる相手だったりするしなぁ。
「ふむ。どのくらい強いか、か」
「はい」
「本当の所はどうなのか判らんが、その記録によれば一筋の傷を負う事も無く一晩で三つの国を滅ぼしたそうだ。人類にどうにかなる相手では無い様だな」
「……そんな意味が解らない相手から、どうやって守ったんですか……?」
無理ゲーにも程があるでしょ、そんなもん。
【妖精】も色々と意味は解らないけど、いくらなんでもどうにかなるとは思えないんだけど……?
「ふむ。龍の襲来の知らせを受けて絶望する王の前に一匹の【妖精】が現れて、『しにたくないのー?』と問いかけてきた」
「まぁそりゃ、死にたくはないでしょうね」
「その王は『自分はどうなっても構わないから、どうにかして民を護ってはもらえまいか』と答えたらしい」
「良い王様だったんですね」
「うむ。【妖精】はその願いに『わかったー』と答えて、『おーいみんなー、ちょっとあつまってー』と呼びかけながら城を出ていった」
「……王様と【妖精】の温度差がすごいんですけど」
「記録に残る【妖精】の性格は、どれもその様な軽いものだな。お前達が例外なのではないか?」
「どうなんでしょうね。まぁ良いや、話の邪魔してすみません」
「良いさ。呼びかけながら飛んで行く【妖精】の下にどこからともなく次々と新たな【妖精】が集まり、一体どこに潜んでいたのか、城を出る頃には空を埋め尽くすほどの群れとなったそうな」
「色んな意味で怖すぎるんですけど……」
「しらゴキぃったぁーっ!」
「流石にその発言は許容範囲外だよ、お姉ちゃん」
誰がゴキブリか。
威力を落として巨大にした【石弾】を発動し、【追放】でお姉ちゃんの頭上に飛ばして自由落下させてやった。
ふふふ、握りこぶしくらいの石が頭に落ちてきたら結構な痛みだろう。
流石に怪我をするほどの高さにはしなかったけど。
「あんた、妹にゴキは無いだろ……」
「うぅ、つい…… ごめんなさい、雪ちゃん」
「わかればよろしい。っと、ごめんなさい」
「いや、今のは仕方ないと思うぞ」
また話の腰を折ってしまった。
折ったのはお姉ちゃんな気もするけど。
「龍はさぁ次の国だと飛んで来てみれば、視界を埋め尽くす程の【妖精】の群れに歓迎される羽目になった訳だ」
「それだけ強いなら、突っ込んだら何とかなるんじゃないです?」
「そう思って突っ込んだらしいな。確かに正面に居た【妖精】はなんの抵抗も出来ずに弾けた様だ」
「ですよねぇ」
「しかしそれで潰せなかった【妖精】達が最初の【妖精】の号令に従って、龍の体にしがみ付いて次々に【自爆】していったそうな」
「え、いや、何それ怖っ!?」
「流石の龍も耐えきれなかったらしく、【妖精】の雲を抜ける頃には既に瀕死の重傷を負っていた」
「……なんか逆に龍が可哀想なんですけど。そのまま仕留められちゃったんですか?」
「いや、動けなくなった龍の前に最初の【妖精】が飛んで行き、何かを話し合った結果なのか残った皆で回復してやったらしい」
「なんなんでしょうね。何かに怒って正気を失ってたんでしょうか?」
「それは判らんな。その【妖精】は何も教えてくれなかったらしく、その辺りは記録に残っていないな」
「で、龍は大人しく帰って行ったんですか」
「うむ。かくして国は護られたと」
「……で、オチは?」
「ふむ、やはり何かあると思ったか」
「どうせ良い話だなーで終らないんですよね」
「うむ。王は『自分はどうなってもいい』と【妖精】に言ってしまったからな。王は姿を消し、二度と見つかる事は無かったという」
……うん、やっぱりろくでもないね。




