252:お話を聞こう。
露骨にやる気を出したモニカさんは放っておいて、先にテーブルでくつろいでいた三人の所へ。
なんか帰ってきたばかりにしては、妙にアヤメさんが元気だな。
「アヤメさん、何か良い事でもあったの?」
「いや、それがさ。昨日のマッサージに特殊効果が有ったみたいなんだよ」
「あー、コレットさんにゴリゴリされてたやつ?」
「うん。妙に体が動くなーってステータス見てみたら、なんかボーナスが入ってたんだよ。そろそろ時間切れなんだけど、痛い思いをした甲斐は有ったなぁ」
「丁度来てるんだし、今日もお願いしてみたら?」
「いや、そんな軽々しく頼める相手じゃないだろ…… そもそも他の仕事してる最中じゃないか」
まぁホイホイ来てるから感覚が狂うけど、立場を考えると本当なら会う事すら難しい相手だもんね。
「む? なに、マッサージくらい構わんだろう? コレットよ」
「はい。姫様の仰せのままに」
こちらの会話を聞きつけたアリア様が、ニヤニヤしながらコレットさんの了解を得る。
悪い笑顔だなー。
「すいませんマジで勘弁してください。あれ本当に痛いんですよ……」
「うむ、身をもって知っているさ……」
ちょっと遠い目になるアリア様。
実は巻き添えが欲しいだけじゃないのか?
「そういうものですので、耐えて頂きませんと」
「うむ、解っている。解ってはいるのだ」
「痛い物は痛いですからね」
なんか変な連帯感が生まれてない?
いや仲良くなるのは良い事だけどさ。
「そういう事だ。まぁ必要な事だからな…… 仕方がない」
「頑張ってください」
「むぅ、他人事だと思いおってからに」
と思ったら裏切った。
まぁ誰だって痛いのは嫌だよね。
一部を除いてだけど。
「ところで、今日は何か面白い事は有った?」
なんとなく聞いてみる。
まぁこれ、別に今聞かなくてもご飯食べてる時で良いんだけど。
「いえ、特にそういった事は。普通に戦って、普通に採取してきただけですね」
「あっはっは。雪ちゃんじゃあるまいし、そんないつも愉快な日常送ってないよー?」
「いや、人をなんだと思ってるのさ……」
私だって別に騒ぎを起こしたい訳じゃないんだぞ。
「うーん、空飛ぶ災害?」
「真面目にそんな事言われても困るんだけど」
ちょっと考えて出てきた妹の表現が「災害」て。
「まぁあながち間違ってもいないのではないかな?」
おおう、アリア様まで……
なんか扱いが酷くない?
「白雪は不服そうだが、実の所【妖精】は災害扱いされても仕方ない一面もあるからな」
「何かご存じなのですか?」
「遥か昔の事だが、【妖精】達の怒りを買って村を滅ぼされたという記録が残っている」
「えー……」
「雪ちゃん怖っ」
「いや待って待って。言うまでも無く私じゃないから」
遥か昔って言ってるじゃないの。
「何故そのような事に?」
「詳しくは記されていないが、ある日ふらりと訪れた【妖精】の群れをもてなそうとしたところ、何が逆鱗に触れたのか突然暴れ始めたそうだ」
「雪ちゃん怖っ」
「だーかーらー」
私じゃないっつーのに。
っていうかその【妖精】達、理不尽すぎない?
いや何があったのか判らないから、何とも言えないけどさ。
もしかしたら私でも怒る様な何かが起きた可能性も、無いでは無いし。
うちの子達がカトリーヌさんみたいな目に遭わされてたら、多分暴れるし。
「生き延びた人は居るのですか? あ、少なくとも【妖精】の仕業と証言した人が居る筈ですね」
「うむ。暴れ始めてすぐに、隣村に報告に走った一人だけが生き残った訳だ」
「よく逃げ切れましたねぇ」
「運が良かったのだろうな。記述からするとその者の他にも数人が別々に走ったそうだが、他の者達は皆そのまま消されてしまった様だ」
「雪ちゃん酷い……」
「ええい、しつこいお姉ちゃん。いちいち茶化すんじゃないよ」
「いや、だって思ってたより重くて」
「いやうん、まぁそれは解るけど」
私も割と引いてるけど。
普通討伐対象にされるだろう、そんな生き物。
なんで優しくしろって言い伝えられてるんだ。
「二日後、村に戻った報告者が見たのは」
「もう勘弁して下さい……」
うん、群れが災害扱いされても仕方ないのは良く解ったから。
でも一人じゃそんな事は出来ないからさ。
「む? 惨状は聞きたくないか」
「よく解ったんで。もう災害でも何でも良いですから」
惨状って言っちゃってるし。
「ふむ、そうか」
良かった、素直に引いてくれた。
あんまりそういう話されると、ぴーちゃん達にまで怖がられそうだよ。
ちょっと手遅れな気もするけど。
なんか退き気味だし。
っていうか、レティさんはなんでちょっと残念そうなんだ。
聞きたかったのか?




