249:競争しよう。
「ま、それは良いとしてだ。あのバカはしっかり仕事してたか?」
「え? あぁ、サフィさんの事ですか」
別にバカって思ってる訳じゃないけど、この言い方ならまずそうだろうし。
「……まぁそれなりに。ちゃんと案内してもらえましたし、死ぬことも有りませんでしたし」
うん、最低限の事はちゃんとやってるよね。
まぁ実質やったのは案内だけだった気もするけど。
いや、もしかしたら私が気付いてないだけで何かに襲われてたのかもしれない。
もしかしたら。
っていうかそんな、やめてバラさないでお仕置きされるからみたいな顔で見られたらなぁ。
いつの間に私の横に出てきてたのさ。
「ふーん…… まぁ白雪からの評価は合格って事で良しとするか」
ジョージさんがチラッとサフィさんを見て言う。
「ただお前な。そんな顔で見てたら、サボってましたって自分で言ってる様なもんだろうが」
「気のせい、気のせい」
「安心しろ。白雪がサボってないって言ってるんだから、それで叱る気はねぇよ」
「良かった」
うん、それも自白してる様なもんだよね。
ジョージさん、ため息ついて呆れてるよ。
「ただな」
「んえ?」
「報告書を持ってきたランディから、向こうでの一部始終は聞いてるからな」
「……そんな馬鹿な」
「白雪、そういう訳で悪いがコイツ借りていくぞ」
「いや、借りるっていうか返却ですよね」
「まぁな。終わったらまた付けるか?」
「いえ、大丈夫です。どうせこの後はどこかに行く予定も有りませんしね」
むしってるうちにお姉ちゃん達が帰ってくるだろう。
というかメッセージ来るまでむしってるつもりだし。
「お慈悲をー」
「安心しろ。向こうで散々しごかれたとは聞いてる」
「なら……」
「その分は引いてやるよ」
「うう、やっぱり」
まぁ、許されはしないよね。
借りていくって言ってたし。
「おい、もう良いぞ」
「ひぃー……」
見えない何かに羽交い絞めにされて、ずるずる引きずられながら消えていくサフィさん。
何かって言うか、別の隠密さんだろうけどさ。
がんばってねー。
「さて、そんじゃ俺も退散すっかな」
「はーい。お仕事頑張ってください」
「おう。裏庭で暴れんじゃねぇぞー」
「解ってますよ……」
消えていくジョージさんに手を振って見送る。
さて、私もお仕事お仕事。
まぁメインは当然、自分のお弁当作りなんだけど。
むぅ。
話してる間に、カトリーヌさんにかなり差を付けられてしまったぞ。
いや別に競争じゃないから問題は無いんだけど、なんか片側だけ進んでると違和感があるし。
よーし、頑張って追い付くぞー。
端から順番に、手が触れ次第即座に枯らしてどんどん進む。
これが現実なら草の陰からでっかい変な虫とか出てきそうで怖いけど、このゲームだと見た事無いから大丈夫だろう。
まぁ虫型の魔物は普通に居るみたいだけどね。
エリちゃんがでっかいクモに食べられてたはずだし。
む。何故スピードを上げる、カトリーヌさんよ。
こっちの作業を見てちょっとのんびりしすぎかなと思ったのか、それとも追い付かれまいとしてるのか。
うん、多分後者だな。
別に勝負を挑んだつもりは無いんだけど。
まぁ【妖精】の先輩としての意地で、ちょっと頑張ってみるか。
お姉ちゃんが帰ってくるまでに追い付けるかな?
あ、メッセージの音が。
むぅ、頑張って追いすがったけど微妙な所だな……
「カトリーヌさん、お姉ちゃんが帰ってきたっぽいから私はここで切り上げるね」
「あら、では私もそうさせて頂きましょうか。ふふ、ギリギリでしたわ」
「むー。これ、私の方がちょっとだけ進んでない?」
見比べて少しゴネてみる。
いや別に負けたからどうってことは無いんだけどさ。
「……そうでしょうか? ほらここ、やはり私の方が」
「あ、ぴーちゃん。お帰りー」
「ぴっ」
カトリーヌさんの反論の最中に、ぴーちゃんが私達の間に降りてきた。
むしってる最中、暇だったのか上空でふわふわ飛び回ってたんだよね。
丁度中間くらいに降りてきてたぴーちゃんが、ゆっくりとカトリーヌさんの方に進んで行く。
「あら、ぴーちゃん様…… え、あ、はい、私のような卑小な虫けらごときが、偉大なる白雪さんにかなうはずがありません……」
「いや、別に威圧してるわけじゃないから。ぴーちゃん、ちょっとへこんでるよ」
「ぴぅ……」
ん、カトリーヌさんの手に羽を当てた。
どうする気だろう?
「ぴー」
掴めないのに割と器用に、カトリーヌさんの腕を羽で持ち上げて掲げるぴーちゃん。
「えっ? あっ、カトリーヌさんの勝ちって事?」
「ぴっ」
うん、ご主人様だからって贔屓は無しか。
真面目な良い子だね。うん。
「むぅ、上に居たのは良く見るためかぁ。ちょっと悔しいなー」
「ありがとうございます、ぴーちゃん様。しかし実質、負けた様なものですわ……」
「あー、まぁ確かにこっちが始めるのは遅れてたけど」
「ええ。私も頑張ったつもりですが、流石ですわね」
「まぁ一応、少しだけ私の方が長く【妖精】やってるわけだしね」
「精進いたします」
いやそんな真面目な感じにならなくて良いんじゃないかな。
ゲームなんだし楽しまなきゃ。
「己を磨いて、いずれは白雪さんの手足となれる様に」
「いや別に私の配下じゃないんだからさ」
「いえ、足と成る事は無理ですわね…… この様な素晴らし」
「黙りなさい離しなさい」
よく解らない事を言いながら足に顔を押し付けようとしてきたので、げしっと蹴っておいた。
なんでこの人は私の足を神聖視したがるんだ。こわい。




