246:起こさないであげよう。
「あ、と……」
穴への魔力球の投下を、突然止めるソニアちゃん。
「どうしたの?」
「そういえば、アリア様の話だと、【純魔法】って……」
「ん? えーっと…… あー、なんか土が手に付くのが気になるから使うってだけだったっけ?」
「うん、確か、そうだったよね…… それじゃ、【錬金術】の、練習が先かなって……」
「あぁ、確かにそうかもね。【魔力武具】が無くても、これだけサクサク掘れてるんだし」
研究所に行ってる間だけで、少なくとも三階層分くらいは掘れてるっぽい。
どのタイミングで掘り始めたのかは判らないし、途中でおやつ休憩も挟んでるはずだけど。
「それに、霧になれば、落とせるから…… 本当に、掘る時に、気になるだけ……」
「あー。そう言えば手に土、付いてなかったね」
「こんな感じ……」
ソニアちゃんが私の前に手を近づけて、もやもやっと手首から先だけを霧にする。
おお、一部だけ変化ってのも出来るんだ。
指に残ってたっぽい岩の欠片や細かい土が、ぽろぽろ落ちていった。
フッと手が元に戻ると、綺麗に全部落ちていた。
いや、まぁ一部だけ残ってたら何でだよってなるけど。
「おー、便利だねー」
「現実でも、出来たらなー……」
「あはは、気持ちは解るけどね。【妖精】も色々便利だし」
「まぁ、それはともかく…… その人、雪さんの、お友達……?」
「えっ? ……あー、ごめんなさい。言ってなかったや」
いつの間にかエリちゃんの隣で、サフィさんが丸まってぐーすか寝てる。
本当にすぐ寝るな、この人……
というか、せめて見えないところでこっそりサボりなさいよ。
いくらなんでも堂々としすぎだよ。
「この人は、役場で案内につけられたサフィさん。まぁ見ての通りな感じの人かな」
「にゃんこっぽくて、かわいい……」
「あ、そういう感想なんだ」
「これ、お耳触ったら、怒るかな……?」
「あー、まぁ一応、ちゃんとお願いしてからにした方が良いと思うよ」
相手は猫じゃないんだしね。
体に触るなら、ちゃんと許可を取るべきだろう。
まぁその本人は、寝てたエリちゃんに勝手にひっついて寝てるけど。
「そうだよね…… 起こしても悪いし……」
「いや、この人一応今も仕事中だから、本当なら起こすべきではあるんだけどね」
「でも、すごく気持ち良さそうに、寝てるし……」
「まぁ、うん。用事が有るわけでも無いから、放っといてあげようか」
さっき散々酷い目に遭ってたしね。
まぁ移動する時には容赦なく起こすけど。
そういえばぴーちゃん達は何やってるんだろ。
あるちゃんとケンカとかしてなきゃ良いんだけど……
いや、流石にケンカしてたら私もソニアちゃんも気付くか。
「あ、良いなー」
棚の上で横になったあるちゃんのお腹に、ぴーちゃんがもふっと寄りかかってのんびりしてた。
柔らかくて気持ち良さそうだ。
なぜかラキはあるちゃんの頭の上に移動してたけど、嫌がってる素振りは無いから構わないのかな。
「雪さんも、混ざってきたら……?」
「うーん、それじゃお言葉に甘えて」
ふわーっと近づいて行くと、一瞬だけあるちゃんのおててがピクッて反応した。
うん、お願いだから我慢してね?
ねこパンチなんて食らったら、お部屋が汚れちゃうからね。
棚に着地して、あるちゃんのお腹の横から顔の方に歩いていく。
近づいたらまた嗅がれた。そんなに石鹸の匂いが気になるのか。
嫌がってる訳じゃなさそうだし、勘弁してもらおう。
あるちゃんの耳の付け根にぽふっと手を当て、下に向けて滑らせる。
感覚は鋭敏だろうし、私の力でも撫でられてることくらいは解ってくれるだろう。
多分。
「それじゃ、失礼しまーす」
一応断ってから、ぴーちゃんの横にもふっとダイブする。
うおー、もっふもふだー。
やっぱ猫のお腹って良いなー……
珠ちゃんに比べると少しだけ硬めかな?
まぁあっちは仔猫だし、そんなもんなのかな。
でもこれもまた違う良さがあるからなぁ。
それはそれ、これはこれってやつだ。
なんか違う気もするけど。
あ、ラキが駆け寄ってきた。
よくそんなモフモフの上を軽快に走れるなぁ。
あー、まぁ埋まるほどの自重も無いか。
なんか、だらーんと伸ばした私の手の下に潜り込んで来た。
良く解んないけど、とりあえず撫でておくか。
横で見てたぴーちゃんも引っ付いてきたので、反対の手で羽を撫でてあげた。
おー、これもまた違った感触で気持ち良いな。
……なんかあるちゃんもこっちに顔を近づけてきた。
目を閉じて頭を差し出してきてるし、私も撫でてーって事かな?
私の腕力じゃ撫でても大して気持ち良くないだろうけど、せっかくなので撫でまわさせてもらおう。




