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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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245/3658

245:手本を見せよう。

 土の山に置かれた岩に近づき、手をついて魔力を通す。


「まぁやった訓練って言っても、本に書いてある通り魔力を流して捏ねてただけなんだけどね」


 尖った部分を柔らかくして捏ね回し、千切り取ってかざして見せる。


「ん…… 私も、一緒にやってみよう」


 両膝をついた姿勢から私の上に覆いかぶさるように前傾し、岩を両手で包み込んで魔力を流し始めるソニアちゃん。

 うっかりぐちゅっと岩に混ぜ込まれても困るし、少しソニアちゃんのおひざの方に近寄っておこう。



「【吸血鬼】も太陽が無ければ凄く強いんだし、【妖精】ほどすぐじゃなくてもその内取れると思うよ」


 喋りながら近寄ったら片手で膝の上をぽんぽんと示されたので、座れという事だと判断して乗らせてもらう。

 おおう、すべすべお肌がとても冷たい。

 人間達と違って、普通の体温ではないんだな。


 なんていうか、冷血動物的なひんやり感だ。

 もしくは死体みたいな? いや触った事なんて無いけどさ。




 むぅ、これは予想外の気持ち良さだ。

 シルクほどではないとはいえ、吸い付くようなやわすべお肌で、手をつくとひんやりした感触で力強く押し返してくる。

 あぁそうか、シルクが人間サイズならこんな感じなのかな。


 ちょっと試しに……

 おー…… 持ってた石を横に置いてうつ伏せにピトッと貼り付いてみたら、ほっぺたがひんやり気持ち良い……



「雪さん……? どう、したの……?」


「え、あ、ごめん。勝手にひっついちゃって」


 手をついて置きあがり、膝にまたがる様に座り直す。


「ん、それは、構わない、よ…… 座っていいって、言ったの、私だもの……」


 いや、それにしても上に座るだけなのと抱き着くのとは違うだろう。

 やったの私だけど。



「ま、まぁ気長に頑張ろうか」


 横に置いた石を拾って、ごまかす様な発言をしておく。

 別にごまかす必要は無いんだけど。


「うん、がんばる…… 取れるまでは、それっぽい石だけ鞄につめて、残りは柔らかくして、壁にしようかな」


「それがいいかもね。流石に全部入れておく訳にも行かないし、置いておく場所も無いし」


「外に出られれば、簡単、なんだけど」


「だねぇ」


 捨てる為に地表に顔出したら、日中だとそれだけで即死だもんなぁ。



「まぁ外に出られるなら穴ばっかり掘る必要も無いんだけど」


 出られないから地中で作業する訳だし。


「そう、だね。……あ、でも、ね」


「ん?」


「力仕事、っぽい事、新鮮…… 現実だと、皆、やらせてくれない、から……」


「あー」


 うん、まぁそうだろうね。

 こんな小っちゃい子に、重い物なんて持たせられないだろうし。

 いや、年上だけどさ。



「皆、優しくしては、くれるんだけど……」


「ま、まぁ良い事じゃないですか。大事にされてるんでしょう?」


「うん…… 良い人達…… それに、力が無いのは、ほんとだしね……」


 私なんて現実だと誰も近寄ってくれないから、どんな重労働でも自分でやるしかないし。

 しかも一人っきりで黙々と。




 何を作るでもなく石をこねこねして、適当な所で口を開く。


「で、【純魔法】の方なんだけど」


「あ、はい……」


「こんな感じで、自分の外に魔力を放出して留めておいて」


 ソニアちゃんの膝の上から顔の前に移動して、小さな魔力球を作る。


「で、私が覚えた時はこんな感じに圧縮して結晶にしてたら取れてたね」


 両手できゅっと握って結晶にし、ソニアちゃんから見える様に掲げる。



「おぉー…… なんか、難しそう……」


「あー、制御に失敗したら暴走するから、あんまり大きいのは試さない方が良いと思う」


「うん…… おうち、壊れたら、困る……」


「まぁその穴の底でやれば大丈夫かもしれないけど、自分が危ない事には変わりないからね」


 私もそれで一回死んでるし。

 まぁあれは指を突っ込まれた(異物混入の)せいもあるけど。



「気を付ける…… あ、出すだけなら、出来た……」


「おー、早いねぇ」


 近づけた両手の人差し指の間に、ビー玉くらいのサイズの魔力球が出来てる。


「で、これを…… むー、固まらない……」


 指同士を近づけてぎゅっと圧縮してるけど、すぐに元のサイズに戻ってるな。



「あれ? 何でだろ…… ちょっと貸してみて?」


「あ、うん……」


 ソニアちゃんの指の間から魔力球をひょいっと取り上げ、両手で挟んで圧縮していく。

 ありゃ、どんどん小っちゃくなっていくな。

 最終的に、私から見ても一ミリくらいになるまで圧縮して、やっと固まってくれた。



「なんか、こんな小っちゃくなっちゃった」


「むぅ、ほとんど、見えない…… 雪さんの、そんなに縮まない、よね?」


「うん。大体一割くらいかな?」


 試しに同じくらいの魔力球を出して圧縮してみると、指先サイズで固まってくれた。



「なんでだろ…… 私の魔力、薄いのかな……?」


「うーん、どっちかって言うと【妖精】の魔力が濃すぎるんだと思う」


 【魔力感知】で見ても、ソニアちゃんは人間とはケタ違いに濃く見えるし。

 ってそのソニアちゃんでこれなら、人間の魔力で結晶を作ろうと思ったら一体どれだけ巨大なボールを作らなきゃいけないんだ……

 そりゃ純度の高い結晶が貴重な訳だよ。



「うーん、習得、難しい、かな……?」


「いや、でもそこまで珍しい魔法って反応じゃなかったしなぁ…… あ、そうか」


「ん……?」


「私は使ってないけど【純魔法】には【魔力弾】って魔法が有るし、さっきのボールを飛ばして破裂させてれば取れるんじゃないかな」


「あぁ…… むしろそっちが、普通の取り方、なのかな……」


「多分そうだと思う。でも破裂かー…… あ、その穴に落とせば良いのか」


「そこしか、無いね…… よーし、やるぞう……」


 うんうんと頷いて、穴の上で魔力球を発生させるソニアちゃん。

 あ、そう言えばさっきの結晶持ったままだった。



「そうだ、さっきの結晶返すね」


「あ、雪さんに、上げる…… 雪さんって、魔力が、ごはんなんでしょ……?」


「うん。それじゃ、ありがたく頂くよ」


「おやつ代わりに、召し上がれ……」


 にこっと可愛く微笑むソニアちゃん。

 うーむ、現実で可愛がる人達の気持ちがちょっと解る気がする。



「うん。頂きまーす…… え、何これ。すっごく美味しい」


 人間を溶かして食べた時みたいな、濃厚な味が一瞬だけ口中に広がる。

 ソニアちゃんは白桃味かぁ。


「おー、それは、良かった……」


「ちょっとそれ、一つ貰ってみて良いかな?」


「うん、どうぞ……」


 先ほどの様に指の間に浮かんでいる魔力球を手で取って、両手に持ってちゅっと吸い付く。

 あー、やっぱり。

 結構濃くて美味しいけど、さっきの結晶とは全然違う。

 圧縮すると量は減っちゃうけど、普通に食べるより美味しく頂けるんだな。



「それにしても……」


「ん?」


「雪さん、普通に手で持ってる、けど……」


「うん」


「それ、一応、攻撃魔法、みたいなものじゃ……?」


 あ、確かに。

 しかも【吸血鬼】の魔法だから、普通の人のと比べるとかなり強力な奴だよね。

 普通に持ってるし、自分から顔を突っ込んでいったけど。



「あー、まぁ【妖精】だし。魔法じゃそうそうダメージは通らないよ」


「そっか、すごいなー……」


「そういう種族だからね。その分、指で触っただけで死ぬくらいに物理攻撃に弱いけど」


「なるほどー…… 大変、だね」


「いや、【吸血鬼】も大概だと思うよ」


「あ、そうだね…… ふふ…… お互い、頑張らなきゃ、ね……?」


「だねぇ。まぁ欠点に関しちゃ頑張ってもどうにもならないから、他の所でだね」


「うん…… とりあえず、まずは頑張って、スキルを覚えるぞー……」


 よーしと意気込んで、穴に向かってぽいぽいと魔力を落としていくソニアちゃん。

 頑張るのは良いけど、暴発と魔力切れには気を付けてね?




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