242:舐められよう。
むぅ、ネタでやってるとかバカにしてるとかなら叱るんだけどなぁ。
なんていうか、真面目に私のために頑張ってるみたいだから反応に困る。
……まぁもしこっちで効果あったら、現実に戻った時余計に悲しくなりそうだけど。
まぁ良いや。
別に痛いとか気持ち悪いってわけじゃないし。
問題が無ければ、やりたいようにさせてあげるのが一番だな。
あ、気が済んだみたいだ。
……で、やっぱり舐められるのね。
「シルク、大丈夫? そんなに脂ばっかり舐めてたら、気持ち悪くなっちゃわない?」
なぜかキョトンとした顔でこちらを見てくるシルク。
あれ、私何かおかしな事言ったか?
突然シルクが「あー、そっか」みたいに何かに納得した顔になった。
なんだなんだ。
「う、くすぐったぃぅぐ……」
脇腹を人差し指でつーっとなぞられ、くすぐったいと言おうとした口にその指をねじ込まれた。
噛まれても痛くもかゆくもないから出来る行動だなぁ。
「あれ?」
ねじ込まれた指に付いたバターを舐める羽目になったけど、なんだこれ。
バターの味と香りはそのままなのに、油脂の気持ち悪さが無いぞ。
確かにこれなら、私の体の表面に付いた程度の量くらい問題無く飲めてしまいそうだ。
「これって…… これって、そんな良いバター使っちゃってたの?」
普通に喋ろうとして失敗し、突っ込んできているシルクの手をトントンと指で叩いて、指を抜いてもらってから言い直す。
ん、ふるふる首を振ってまだ器にちょっと残ってたのを指で掬い取ってきた。
あ、舐めてみろって?
……あれ、普通に脂っこいぞ。
まさかこれ、妖精茶の時と同じ現象がバターで起きてるのか。
あー、それでシルクが舐め始めたのか。
そういえばラキと違って、シルクは抱っこして撫でたりすりすりして可愛がるだけだったはずだ。
いや、洗われたり脱がされたりはしたけど。
ん? なんか小さくトントン聞こえるけど……
あ、ラキがベッドに来て両手を上げたまま前脚で地団太踏んでる。
あー。
シルクだけずるい、私にもよこせーって事かこれ。
ラキの場合、バターが欲しいのか舐めたいだけなのかよく判らないな。
「ぴぅ……」
うわぁ、ぴーちゃんまでおずおずと来ちゃったよ。
くそぅ、もう諦めるか。
「シルク、私は気にしないから二匹にも分けてあげてくれないかな?」
だめーって感じでラキを摘まみ上げてたシルクを止めて、皆で仲良く分け合う様にお願いする。
あ、ちょっとしょぼんとした顔で頷いて、ラキを私の足の甲に置いた。
うん、良い子良い子。今は手がバターまみれだから撫でてあげられないけどね。
「ほら、ぴーちゃんもおいで。私は終わるまで現実逃避してるから」
「……ぴっ!」
ばさっと羽を広げて万歳するぴーちゃん。
うわー、嬉しそうだなー……
だらりと全身の力を抜いて、クッションに頭を乗せて目を閉じる。
うぅ、両手とつま先から柔らかい感触が……
いや、つま先のラキの舌は小さすぎて柔らかいって言える程の感触ではないけど。
まぁ別に硬くはないし、どうでも良い事か。
しかしさっきの味、紅茶のスッとする感じもだけど好みが別れる所だろうな。
バターの脂っこさが好きな人には、いまいち不評なんじゃないか?
いや、判らないけども。
というか私の体は、食べ物を美味しくする何かでも出てるのか?
……汗に魔力がこもってるとか?
んー、なんかあんまり試したくはないな……
あんまり真面目に調べて判明しちゃうと、変な相手に狙われそうだし。
主にモニカさんとか。
自分のご飯作る分の油を、全部このバターにしたがりそうで怖い。
ていうか多分、本当にお願いされる。
そういえばこっちは甘くなかったな。
妖精茶には甘味も追加されてたのに。
……あ、そうか。
あれは昨日のお風呂の時点で【白の誘惑】を習得してて、自動で出る粉が溶け込んでたのか。
それならお風呂に入る時は自動生成をオンにしておいた方が、シルクのためかな。
うおぉぉぁー……
流石に腋をペロペロされるのはくすぐったい。
でもあんまり動くと皆困るだろうし、我慢だ我慢。
しかしこれ、なんていうかシルクが取ってきた獲物を、皆で捕食してるみたいな絵面になってそうだな。
うん、まぁ別に良いんだけどさ。
ちょっとうとうとし始めた所で、首の下と太ももの下辺りにシルクの手が差し込まれた。
「……んぁ、終わった?」
にっこりと頷くシルクと、ありがとうございましたって感じでお辞儀するぴーちゃんと、私のお腹の上でブンブン手を振るラキ。
ってぴーちゃんの頭の上じゃないんだ。
あぁそうか、上に乗って舐めてたから足がバターまみれになってるのか。
多分これこのままお風呂に運ばれて洗われちゃうから、その時ついでに私が洗ってあげようじゃないか。
私の方が柔らかいから、力加減に気を付けなくても良いしね。
流石にシルクほど器用じゃないからなぁ。
頑丈なのは色々と助かる。
思った通りそのまま部屋から出てお風呂に直行。
まぁこのまま外に持っていかれたら本気で困るけどさ。
私、今全裸だし。
一旦私をシャワーの下に浮かべて、お風呂から出ていくシルク。
あぁ、シルクは普段着だったから脱がなきゃだったな。
それじゃ、戻ってくるまでの間にささっとラキを洗っちゃおう。
シルクの事だからすぐ戻ってくるだろうけどね。
【魔力武具】で洗面器を作って、自力で出すのも面倒なのでシャワーで温水を出し、浴びながらお湯を溜める。
ラキの下半身が浸かる程度のお湯はすぐ溜まったので、おなかの上のラキを摘まみ上げて洗面器を置き、その中に放り込む。
よしよし、綺麗にしようねー。
ってこらこら、バシャバシャ暴れるんじゃありません。
今は水遊びじゃなくて体を洗う時間だよ。
あ、しまった。
よく考えたら油だし、水だけじゃちゃんと落ちないな。
どうしたものか。
おやシルク、帰って来てたのね。
ん、何それ。
手に乗せてた粉を、少しだけラキにつけて……
あぁ、石鹸か何かか。よし、これなら綺麗になるね。
どういう舐め方をしていたのか上半身にもところどころバターが付いていたので、全体に石鹸を広げてこしこしと擦っておく。
そういえばちゃんと服脱いでるな。
まぁ替えなんて持ってないだろうし、汚したら洗っても乾くまでじめっとしちゃうから正解か。




