241:揉んでもらおう。
無駄に張り切ってるモニカさんを置いて妖精庭園の奥へと進み、家に帰る。
門をくぐって庭に入り、気持ち良さそうに日光を浴びてるめーちゃんに声をかけた。
「ただいまー」
「おかえりー。楽しかったー?」
「んー、まぁ色々と面白くはあったかなー。とりあえずラキは大喜びだったよ」
「おー、良かったねー」
ぴーちゃんの頭に貼り付いたまま、笑顔でこくこく頷くラキ。
その下のぴーちゃんの顔は晴れないけど。
まぁさんざん遊ばれてたからなぁ。
「シルクは家に居るかな?」
「んー。エリちゃんと一緒に色々買って帰って来て、頑張ってお仕事してるみたいだよー」
「そか、ありがとー」
めーちゃんにお礼を言うついでに【施肥】をかけておく。
日光浴をするなら栄養も補給しておかないとだろう。
玄関のドアを開けようと思ったら、手を伸ばす前から勝手に開いていった。
どうやらシルクに気配を察知されていた様だ。
まぁ隠してるわけでもないし、すぐ表で声出して喋ってたんだから何もおかしくはないけど。
「ただいまー」
笑顔で出迎えるシルクに帰宅の挨拶を。
「ぴぃ。 ……ぴっ?」
隣のぴーちゃんが続くと、シルクがなにやら少し怪訝な顔になってぴーちゃんに近づいて行った。
どうしたのかな?
「ぴゃっ?」
おおう。
正面からぴーちゃんのふかふかに顔を突っ込んで、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
なんでいきなり……
あ、顔上げた。
なんか、むーって顔でぴーちゃんを見つめてるな。
ぴーちゃんは気まずげにちょっと目を逸らしてるし。
何だっていうんだ。
とりあえず中に入るか。
ぴーちゃんもシルクに促されて私の後ろに続く。
シルクがドアを閉めてこっちに寄ってきた。
また抱っこされるかな……って何で脱がすんだ。
妖精の服は残ってるけどさ。
そのまま抱き上げられ、頭を胸に預けるような体勢にされて優しく頭を撫でられる。
ふあー、やっぱすっごい気持ち良いなぁ。
おや、なんだかいつもより撫で方が積極的だ。
顔やお腹に頬ずりもしてくるし。
あー、もしかしてぴーちゃんの体に私の匂いが付いてたのに気付いて、自分も構って欲しいって事なのかな?
そっちだけずるいー、みたいな。
うん、二匹だけ可愛がるのも不公平だし、シルクにも優しくしてあげよう。
……それを言ったら今日呼んでない子たちはもっと可愛がらないとなんだけどね。
まぁそれはおいおいだな。今はシルクの番だ。
迂闊に私から触りに行くと怯えるので、出来る限りゆっくりと下から手を伸ばしてシルクの頬を撫でる。
うん、やっぱり少し硬直するけど仕方ない。
よしよし。痛い事はしないよー。
ん、何も指示してないのに移動し始めた。
何かお仕事の成果を見せたいのかな?
こっちはお風呂だけど……
別にまだ入るつもりは無いよ?
あ、手前の部屋に入るのね。
ここはタオルを置いてある部屋だっけかな。
おー、壁一面に棚が作られてサイズごとにタオルが整頓されてる。
えらいえらい。
ってなんか部屋の真ん中に見慣れないベッドがあるぞ。
あー、これ知ってる。マッサージ用の奴だ。
端っこに顔をはめる穴の空いた板が付いてて、その下に腕を置く台も有るし。
そっとベッドに下ろされた。
見せるだけじゃなくてマッサージもしてくれるのか。
お、これタオル生地を何枚か重ねた上にシーツをかぶせてるんだな。
思ったより柔らかいや。
優しくうつ伏せに転がる様に体を誘導される。
……あれ?
妖精の服があるはずの所に、直にシーツの感触を感じるんだけど?
あ、目の前にある台に置かれたカゴに上着と一緒に入れられてる。
うん、まぁ誰か見てる訳でも無いし良いか……
もしかしたらサフィさんが何らかの手段で見てるかもしれないけど、隠密の人達は居ても居なくても解らないからノーカウントで。
流石に姿を見せて覗いてたら文句言うけどね。
顔を穴にはめ込まれ、後頭部を撫でられる。
あれ、せっかく腕置きがあるのに腕は胴体に沿って伸ばしておくのか。
別に良いんだけどさ。
うーん、痛いタイプのマッサージじゃなきゃ良いけど……
まぁ、これやると痛いよってアピールをせずに勝手にやり始めはしないか。
私に怒られるのは恐れてるはずだしね。
っておおぅ。
なんだなんだ、なんか背中に柔らかい物がふにっと置かれたぞ。
んー…… あ、多分これ溶けかけの柔らかいバターだ。
シルクが上から押さえてバターを少し潰し、私の体温で溶かしながら全身に広げていく。
うぁー、ヌルヌルするぅ。
ってこれ結局後でお風呂入らなきゃじゃん。
シャワーだけで大丈夫だし、洗われたくない理由が有るわけじゃないから別に良いんだけどさ。
シーツに埋まっている前面以外、全身にしっかりバターを塗りこまれてしまった。
……なんかつま先に一瞬妙な感触がして、少し間を置いてタオルの棚の方からポスッて音が聞こえたんだけど。
【魔力感知】で視てたから、ラキが舐めに来てシルクに排除されたのは解ってるけどね。
何をやってるんだあの子は。
さっきまでぴーちゃんに手伝ってもらって、自分の糸を糸巻きに集めてただろうに。
顔を穴にはめたまま、全身を優しくヌルヌルもみもみされる。
あー、これ結構気持ち良いなー……
美容効果とかの意味は無いだろうけど、まぁそれはそれ。
そもそも普通のマッサージも意味あるのかって話だし。
いや、なんか今朝のアヤメさんの動きが妙に良かったし、何か持続効果があるのかもしれないけどね。
まぁそんな事より、単純に気持ち良いからそれだけで十分だ。
バターを使うって言っても、私のサイズだとスプーン一杯も要らないだろうし。
あ、揉む手が止まった。終わりかな?
ひぁっ!?
つま先に暖かくて柔らかくてしっとりした感触が……
いや、平たく言うとシルクの舌なんだけど。
いや待って、ちょっと待ってシルク。
私に馴染んだバターを舐め取りながら、だんだん上がってこないで。
布か何かで拭けばいいじゃない。
待って待って。多分そんなにバターばっかり舐めると体に悪いよ。
……ろくに抵抗もさせてもらえなかった。
うん、良いよ、うん。
シルクが今までになく幸せなのが、スキルの効果で伝わってくるし?
おねーさんは、シルクが喜んでくれて嬉しいよ……?
顔を上げると、少し離れた場所でラキが糸を出すのを中断してむくれてるのが見えた。
いや、そんなずるいぞーって顔されても困る。
少なくとも私は困る。
舐め終わった背中側をタオルで軽く拭き、私を反転させて仰向けにするシルク。
ってあれ? まだマッサージは終わってないの?
さっきまで顔をはめてた穴にクッションが置かれてそこに頭を乗せられた。
あぁ、前からも揉むのね。
既に嫌な予感がビンビンしてるっていうか確信の域だけど、毒を食らわば皿までって言うもんね。
クリームみたいな柔らかさのバターがお腹にポトッと乗せられ、先ほどと同じ様に体の前面すべてに伸ばされていく。
あー、やっぱ揉まれるのは気持ち良いんだよなぁ。
ヌルヌルする感触も、慣れれば良い感じだし。
ってシルクちゃんよ。
何故胴体の一か所を重点的に、円を描いて外から中に押し込む様に揉むのだ。
ご主人様を憐れむんじゃありません。
あとそれダメだったよ。




