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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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234/3658

234:居残りの話を聞こう。

 おっといけない。


「ディーさん、ラキと遊んでてくれてありがとうございました」


 当のラキはずっと私のほっぺたに引っ付いてぺろぺろ舐めてるけど、お礼を言っておかなきゃ。


「いやいや。自分が作った物をすごいすごいと言ってもらえるのは本当に嬉しいものだからね。僕も楽しかったよ」


 言ってはいないってのはどうでも良いツッコミだから言わないでおくとして、そういうものかな。

 まぁ本人が楽しかったって言うんだからそうなんだろう。



「ディーは良いわねぇ。私なんてぴーちゃんにすっかり嫌われちゃったのに」


「君の事だから、どうせまた変な構い方をした結果だろう?」


「酷いわディー。そんな事ないわよぅ」


「ぴっ!」


 あ、私の後ろから抗議の声が上がった。


「はっはっは。許してやってくれ、ぴーちゃんさん。こいつはいつもこうなんだよ…… いや、許してやる理由にはならないな」


 笑いながら言い始めたのに、途中で真顔になるディーさん。

 まぁ確かにそうだけども。



「おねーさん悲しいわー」


「あー、もうちょっとゆっくり仲良くなろうとした方が良いんじゃないですかね……」


 そもそも初めから怯えられてたから、スタート地点がかなりマイナス側だったんだし。


「うーん、ディーやジーにもよく言われるわねぇ」


「ジー?」


 なんか知らない名前が。

 見てないけどもう一人居るのかな?

 というかいつも言われてるなら直そうよ。


 ってぴーちゃん、なんで私の服の裾から中にもそもそ顔突っ込んで来てるのさ。

 いや、うん、まぁぴーちゃんが幸せならそれでも良いけどさ。

 ちょっと暑くない? 大丈夫?

 多分これ、絵面は大丈夫じゃないって言うか凄いシュールだよ?



「ジーはまだこっちには来てないんだけど、本国の研究所にいるもう一人の仲間だよ。向こうでは三人で一緒に色々やってたんだ」


 私の疑問の声に、ディーさんが答えてくれた。

 こう言っちゃなんだけど、まだ同類が居るのか……

 あと多分、「やってた」っていうか「やらかしてた」なんじゃない?



「えっと、どんな人なんですか?」


「そうね、簡単に言うなら魔法担当のおじいちゃんよ」


「彼が居ないと腕に高度な仕込みが出来ないんだよねぇ」


「へぇー。……えっと、その人は」


「あぁ、ジーはちゃんと人間よー? 【人間】じゃなくて【魔人】だけどね」


 言いたい事を察したのかジェイさんが教えてくれた。

 てか今更ながら通常種族をまとめて人間って言うのに、【人間】って種族が居るのは地味に紛らわしいな。



「あー、そういえば今更なんですけどジェイさん」


「あら、何かしら?」


「最初に魔物呼ばわりしてすいませんでした」


 仕方なかった気がするけど、一応謝っておこう。


「うふふ、良いのよぉ? バケモノっぽく登場してみせたのは私なんだから」


 あぁ、確かに家から生えてくることが出来るなら、わざわざ通気口みたいな穴を作ってそこから出て来なくても良いのか。


「それにああ言ったけど、私ももう自分を人間だとは思ってないわ。だからぜーんぜん気にしなくて良いのよー」


 あー、まぁそりゃそこまで変質してたらなぁ……

 ネズミも生きたままごっくんしてたし。


 おやラキ、ほっぺたはもう良いの?

 あ、次は首ね、はいはい。

 おおう、小っちゃい舌が結構くすぐったいな。

 うっかり噛まない様に気を付けてねー?



「それは良いとしてジーの事だけど」


「彼は元は王宮の筆頭魔術師だったんだけど、左遷されて研究所に送られてきてね」


「左遷って、何かやっちゃったんですか?」


「うふふ。元々魔法にしか興味が無いし、性格にも難が有るから上からは嫌われてたんだけどね」


「何でそんな人がそんな地位に……」


「あぁ、それは単純な事さ。総合的に見て、王国で最強の魔術師だったからだよ」


「あー、なるほど。でも魔法にしか興味無いなら、本人は嫌がったんじゃないですか?」


 王宮の偉い人とか、なんか色々とめんどくさそうだし。

 仕事も、他の偉い人も。



「うん、それも有っていつも態度が悪かったからね。皆いつ問題を起こすか、賭けのネタにしてたくらいだよ」


「うふふ。思ってたより続いて、損しちゃったわ」


 ジェイさん、すぐ暴れる方に賭けてたのか……



「それで、何をやって左遷されたんですか?」


「ああ、軍の合同演習で騎士隊の隊長とケンカしてね」


「魔法使いなんて自分達が守ってやらないとろくに戦えない軟弱者の集まり、みたいなことをお貴族様のネチネチした嫌味な口調で言われたのよ」


「あー、そりゃ魔法使いにしてみれば面白くないですよねぇ」


「まぁ当然と言えば当然だけど、他のまともな騎士達は魔法隊の支援や援護がどれだけ重要か良く解っていたがね。その隊長がお偉いさんの息子だったから、下手に口も出せなかったんだ」


 あぁ、一番めんどくさいタイプの隊長だったのね……



「で、元々家で魔法の研究をしていたいのに駆り出されて不機嫌だったジーが切れてしまってね」


「貴族のお坊ちゃんを馬から引きずり降ろしてぼっこぼこにしちゃって、処罰されたって訳なのよー」


「それ、よく左遷で済みましたね……」


「自分が悪いと思ってないから、処刑するなんて言ったら全力で抵抗されるだろうからね」


「とんでもない被害が出そうだから、穏便に追い出したのよ」


「本人は大喜びだったし、良かったんじゃないかな」


「王宮に居た時には見た事も無い様な笑顔でよろしくなって言ってきたものねぇ」


 うーむ。

 やりたくも無い仕事させられて、鬱憤溜まってたんだろうなぁ。



「そういえば、なんでその人だけこっちに来てないんですか?」


「船の定員の問題とか色々ねー。誰が残るかでもめたわよー?」


「話し合った結果、攻撃魔法と回復魔法と飛び道具は無しの殴り合いで決めようって事になったね」


 何その露骨にジーさんが不利なルール。

 残り二人は色々仕込んだ機械の体と、猛獣や魔獣を埋め込んだ生物兵器みたいな人なのに。


 うひっ。

 ちょっとラキ、鎖骨はくすぐったいよ。



「それ、魔法使いが不利すぎるんじゃ……?」


「うふふ。普通の魔法使いだったらそうなんだけどねー」


「そのルールでも、僕ら二人でかかってやっと互角だったねぇ」


「え」



「あのおじいちゃん、普通じゃないからねぇ」


「騎士隊長をボコボコにしたのも、素手で全身鎧の上からだよ」


「変形しちゃって、脱がすの大変だったらしいわねぇ」


「えー……」



「『総合的に』最強って言っただろう? さっきの隊長の言葉じゃないけど、魔術師だからって接近戦にも対応できなくてどうするって考えの人でね」


「元々【魔人】にしては凄く体格の良かった人なんだけど、そこから更に体を鍛えた上に【魔人】でもトップクラスの魔力で肉体強化魔法をかけて殴ってくるのよぅ」


「いやぁ、アレはすごい迫力だよね」


「あの時は熊の腕を付けてたのに、軽々とへし折られちゃったのよねぇ」


 なにそれ、かなりこわい。

 このゲームのNPC達、ほんとなんなの?


 あとぴーちゃん、さっきから微妙に動いて体を擦りつけて来るのは何なの。

 猫が自分の匂いを付けるマーキング的な奴なの?




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