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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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223/3658

223:吐き出させよう。

 フェルミさんが棚から持ってきた精緻な細工の施された器に、さらさらーっとお砂糖を流し込む。

 おっとっと。粒が細かすぎて、気を付けないと舞っちゃうな。


 あらかた流し込んだらボウルを消して、落ち切ってない粉も器へ移す。

 しかしこの器、かなりお高そうな感じだけど、商品じゃないの?

 まぁ作った人が持ってきてるんだし、口出しする事じゃないか。



「……んもー。ほら、手を出してください。ちょっとだけですよ」


 諦めきれない顔で口に人差し指を当てて、こちらをじっと見つめるティアーナさんに声をかける。


「うぅ、でも……」


「そう言いながら、普通に出してるじゃないですか」


 言葉は躊躇い気味なのに、私が出せって言った直後にスッと左手が出てきた。

 体の反応が正直すぎるぞ。



 差し出された手の上に、少しだけお砂糖を乗せる。

 少しって言っても、私から見ればそれなりに有る様に見えるけどね。

 全部集めて丸めたら、握りこぶしくらいのサイズかな?


「わぁー、い…… あ、ありがとう」


「まったく、仕様の無い子ね」


 またしても大声を出しそうになって、慌てて声を潜めるティアーナさん。

 フェルミさん、呆れて笑ってるよ。



「さて、それじゃ私はそろそろ研究所に行こうかな。カトリーヌさんはどうする?」


「私はこちらに残ろうと思いますわ。色々と作りたい物がありますので」


 さっきのを見た後だと、ろくでもない物を作ってきそうで怖いんだけど。

 ……まぁ私が使われる訳じゃないから、別に良いか。



「そっか。それじゃ……」


 ぴーちゃんに呼びかけようと振り向いたら、ラキをくわえた口がもにゅもにゅ動いてた。

 上半身をねっとりれろれろ舐め回して、じっくり味わってるっぽいな……


 半分鳥みたいなものだし、虫が美味しいんだろうか。

 舐めてるの人型の部分だけど。


 ラキが窒息しちゃわない様に、たまに口の端だけ開けて空気を取り込んでるな。

 少しだけそのままにして、鼻からふすーって吐き出してぺろぺろ再開。

 って見ててどうするんだ。



「えーと、ぴーちゃん。そろそろ許してあげよ?」


「んっ」


 ラキをくわえたまま返事をして、口からはみ出た下半身を自分の羽に乗せる。

 あれ、離さないのかな?


 あ、反対の羽で下半身を上から押さえて、唇で軽く挟んだままずるーっと引き抜いてく。

 よだれでべとべとになっちゃったから、拭い取ってるのかな。


 ちゅぽんっと口から出したラキを、羽のふわふわした部分で挟んで軽くこしこししてる。

 そうして残りもちゃんと拭き取ってから、ぽふぽふ叩いてぐったりしてるラキを起こす。



「よしよし。ラキも殴り掛かって行ったんだから、おあいこでしょー?」


 ぴーちゃんからラキを受け取って手の平に乗せると、「あいつがいぢめるー!」みたいなアピールをしてきたので、頭を撫でながらなだめる。

 まぁ最初にペチッてした以外、一発も殴れてないんだから返し過ぎな感じはちょっとするけどね。


「でも、毒って武器を使わなかったのはえらいね。良い子良い子」


 流石にケンカで使う様な物じゃないからなぁ。

 頭から背中に指を滑らせて、お尻の気持ち良い所をぽむぽむと軽くつっつく。

 ……まぁそんな余裕も無かっただけかもしれないけど。



「ぴぅ……」


 あ、ちょっとやり過ぎたと思ったのか、ぴーちゃんがごめんねって顔で近づいてきた。

 接近に気づいたラキがビクッとして、来るなーと威嚇し始める。

 ほらほら、食べに来たんじゃなくて謝りに来たんだからさ。

 仲直りしよ?


「ぴ、ぴゃー」


 ラキの前にほっぺたを差し出して、羽の先でつんつんしてる。

 気が済むまで殴って良いから許してって?



 少し戸惑った後、むすっとした顔で腕を組んで、ピョンっとぴーちゃんの頭に飛び乗るラキ。

 八本の脚でぴーちゃんの頭にがしっと捕まり、うつぶせにべたーっと貼り付いて両手でぺちぺちと頭を叩く。

 えっと、これは仲直りって事で良いんだろうか?

 とりあえず、無抵抗のぴーちゃんに殴り掛かっていかなくてちょっとほっとしたよ。




「よし、それじゃ今日もありがとうございましたー」


「あ、ちょっと待って」


「はい?」


 挨拶して工房を出て行こうとしたら、フェルミさんに呼び止められた。

 まだ何かあったっけ?



「あの子、多分だけれど貴女のお供じゃないかしら?」


「え? あ、はい、そうですね……」


 隅っこに置いてある箱の陰の狭い所に、丸まってすぴゃーと幸せそうに寝息を立ててるサフィさんの姿が。

 全身を見るのは初めてだけど、意外と背が高いな。

 細身で頭身高くて、綺麗なおねーさんって感じだ。

 言動やさっきの顔の出し方のせいか、もっと子供っぽい見た目だと思ってたよ。


 とりあえず、こっちが色々やってて待たせちゃったとはいえサボってる事に変わりは無い。

 少し離れた所から、【凍結吐息】で零度近い冷風を首筋に吹きかけてみよう。

 それ、ふーっと。



「ふおぅっ!?」


 吐息が届いた瞬間、奇声を上げて飛び上がるサフィさん。

 おお、離れておいて良かった。もうちょっと近かったら撥ね潰されてたよ。


「なな、何今の…… 首がちべたい……」


「いや、ぐーすか寝てたんでちょっと目覚ましにと」


「むぅ、起きてた起きてた」


「流石に無理があるでしょ……」


 びっくりして飛び跳ねた挙句に「何今の」って言っちゃってたし。



「サボってないもん」


 言いながらスーッと消えていくサフィさん。


「あ、逃げた」


「隠れただけ。逃げてない」


「いや…… まぁ良いか。移動しますよ」


「了解。研究所?」


「そうですね。私は場所を知らないんで、案内をお願いします」


「任せて。外で待ってる」


「はい。それじゃ、また来ますねー」


 フェルミさん達に手を振って、ドアに飛ぶ。



「ええ、またね。それにしても、あそこに自分から行くだなんて物好きねぇ」


「ちゃんと生きて帰ってくるんだよー」


「うぅ、不安を煽らないでくださいよぅ……」


 文句を言いながらぴーちゃんを先に通し、手をひらひら振ってドアを閉める。

 ほんと、一体何をやってる所なんだ……




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