222:飾りを貰おう。
くっ、これツッコんだら負けな奴だろうからスルーだ。
どう考えてもお仕置き待ちだし。
粗相したらお仕置きしてもらえると覚えちゃったら、何度もやる様になっちゃうかもしれないからな。
……なんかペットの躾みたいだな。まぁ良いや。
いや、まぁ止めないと通報するぞって言うのが一番早いし、普通はそうなんだろうけどね。
カトリーヌさん、別に女の子が好きな人って訳じゃなさそうだし、ただお仕置きして欲しいだけだろうからなぁ。
いや、まぁ普通はそんなん関係無しで通報するだろうけど。
まぁ今はスルーしてれば止めるでしょ。
放っといてぴーちゃんもみもみしていよう。
んー、ちょっと筋肉の形や付き方が人間とは違うみたいだな。
揃えた指先で上から順に軽く押さえていって、どう揉めば気持ち良いか探っていく。
うーん、この辺をこんな感じかな?
「ぅぴゃー……」
お。親指でぐいーっと広げる様に押さえたら、それに合わせて気持ち良さげな鳴き声が漏れた。
ここかー、ここが良いのかー?
うん、合ってるっぽいな。なんとなく感覚が伝わってくるのはこういう時便利だ。
あ、気付けばカトリーヌさんも真面目にぴーちゃん揉んでた。
そうそう、それで良いんだよ。私を揉んでも何も良い事は無いよー。
よし、こんなもんかな。
ってなんかラキがぴーちゃんの頭に乗ってこっち見てる。
なんだなんだ。
ん、こっちを見たままおなかをぽんぽんしてる。
よく解らないけど手を伸ばして、おなかをぷにぷに突っついてみた。
やだーって動きしてるけど嬉しそうだし、どうもこれで合ってたらしいな。
でもラキはさっきやってあげたからね。
これでおしまいだよー。
ぶーって顔してもダメです。
すごい今更だけど、ここフェルミさんの工房だし。
ほんとに今更すぎるけど。
「よーし。ぴーちゃん、終わったよー。起きてー」
気持ち良かったせいかちょっとうとうとしてるぴーちゃんを、少し強く肩を揉みつつ声をかけて起こしにかかる。
「んぴぃ…… ぴゃっ!?」
こらこら、やめたげなさい。
ぴーちゃんの顔の前に飛び降りて「起きてー!」とほっぺたをぺちぺちするラキ。
「あ」
ぴーちゃんがくぱっと口を開けて、少し体を伸ばして上から勢いよくラキの上半身をくわえこんだ。
そのまま少し持ち上げて、横に首を振りながらぺっと吐き捨てて放り投げる。
せっかく良い気分だったのに邪魔しないでよーって事かな?
こらこら、ケンカしないの。
ラキ、威勢よくパンチの素振りしてるけどぴーちゃんの目を見られてないじゃない。
あ、また捕まった。
今度はくわえるだけじゃなくて、前歯で甘噛みしてるっぽい。
……バツンと行っちゃわない様に気を付けてね?
再度放り捨てられて、バッと起き上がるラキ。
悔し気にダカダカと地団太を踏んで、むきーっと腕をぐるぐる振り回しながらまた向かって行った。
子供か。
あー…… あっさりぱくっと捕まっちゃった。
そりゃ正面からまっすぐ突っ込めば、そうもなるよ。
お尻をもぞもぞ動かされて乗ったままだったことを思い出し、ごめんねと言いながらぴーちゃんから降りる。
羽をついて上半身を持ち上げ、むくりと起き上がるぴーちゃん。
……口からラキの下半身がだらーんってはみでてる。
程々にしてあげなよ?
おや?
そういえばぴーちゃんの脚に細長い筒状のアンクレット……っていうか足環が付いてる。
小鳥とかだと怪我の原因になるらしいけど、ハーピーなら大丈夫かな。
糸を出してる間に作ってもらったのかな?
「フェルミさん、これ、さっきの間に?」
「ええ。鳥さんならこれかなと思って。気に入ってくれると良いのだけど」
「んむー」
こらこら、ラキをくわえたまま声を出そうとしないの。
とりあえず気に入ってるらしいのは解ったけど。
「良いみたいですね」
「そう。それじゃ、それは上げるわ」
「あ、おいくらですか?」
「上げると言っているでしょう? どうしてもお金を払いたいというなら、その子にもお金を押し付けさせるわよ?」
「あ、私に振るんだ。まぁ受け取ってくれるなら払うけどさ」
「むぅ」
でもなー、タダで貰うには手が込んでる感じするからなぁ。
結構細かい模様が掘ってあるし。
まぁあの時間で作れてるんだし、フェルミさん的には本当にただの暇潰し程度の労力なんだろうけど。
あ、そうだ。
【魔力武具】で三十センチくらいのボウルを作って、と。
それを置いた上に掴んだ翅の先端を持ってきて、お砂糖をだばー。
このサイズなら大さじ一杯分くらいにはなるだろう。
「それじゃ、これをどうぞ」
「あら、これは?」
「今朝から新しい魔法が増えて、お砂糖を出せる様になりまして。こっちも簡単に出せる物で物々交換って事で」
「あら、それは嬉しいわね。甘い物は好きなのだけれど、趣味にお金を使っていると中々、ね」
「あ、でもこの魔法はその気になったら毒にもできちゃうんで……」
「貴女、そういう事はしないでしょう?」
「まぁそうなんですけど、一応出来るって事は言っておかないと、と思いまして」
「そうね。でも、心配はしていないから有難く頂くわ。器を持ってくるから、少し待っていてね」
そう言って机から離れ、加工済みの品が置いてあるっぽい棚に向かうフェルミさん。
今は私の魔力で作った器に入れてるし、すぐ食べないなら移さないとだもんね。
「フミちゃん良いなー」
「貴女は糸を貰ったでしょう? わがままを言わないの」
「そうだけどさー」
「良い物を見られたんだから、それで満足しておきなさい」
あー、確かにふんすふんす言いながら机の端に顔乗っけて見てたなぁ……
じゃあ追加で上げなくても大丈夫かな。
心情的にも。




