217:叱らせよう。
カトリーヌさんの両手足に枷をはめて、それぞれに一本ずつ鎖を繋ぐ。
四つ全てに繋ぎ終わったら、ぴーちゃんがぽいっとカトリーヌさんを放り投げた。
扱いが雑だなぁ……
「ふむ…… うん、良い感じですわ」
何事も無かったかの様に立ち上がって、鎖をジャラジャラさせながら具合を確かめるカトリーヌさん。
まぁ文句が無いなら別に良いけどさ。
「それでは、あまりご主人様のお手を煩わせるのも申し訳ないので後は自分でやりますわ」
「そう? それじゃ私はあっちで練習してるね」
なんか今、私を呼ぶ時に変な感じがしたけどスルーしよう。
多分触れても良い事無いし。
「はい。あら、ラキ様……? おぶっ」
……こらこらラキ、足の鎖を持って楽しそうに走るのは止めてあげなさい。
思いっきり顔打って、机に鼻血の線が引かれちゃってるから。
【妖精】相手には効きが悪いけど、一応効果は有るし【妖精吐息】で治してあげよう。
嫌じゃなかったら手伝ってあげてね、と二匹に言い残して一人でコンコンと金属板を叩く。
スキルは取れなくても、少しずつ思い通りの形に出来る様になっていくのは楽しいね。
「フェルミさん、こことここの針が急所に向かってしまっているので、これでは閉めるとすぐに死んでしまうかと思われます」
「あら、本当ね。少し調整しましょう。この針も少し長いかしらね?」
「そうですわね。もう少し短くしないと、目の奥に届いてしまいそうです」
……背後から聞こえてくる物騒な会話が気になって仕方ないけど。
うん、集中集中。気にしたら負けだ。多分。
「ふー、今日はこんな感じでしたー。 ……あれ? フェルミさん、カトリーヌさんはどこへ?」
切りの良いところで手を止め、成果物を持って皆の居る机に戻る。
しかし何故かカトリーヌさんの姿だけが見当たらないので、器具の調整をしているフェルミさんに聞いてみた。
「あら、お疲れ様。……こことここ、もう少し強く叩いた方が良いわね。ここは逆に少し力が入り過ぎているわ」
「あぁ、言われてみれば確かに」
「それとカトリーヌさんだけれど…… カトリーヌさん、少し動くわよ。気を付けて」
ん? 机の下に目を向けて声をかけてる。
下に居るのかな?
机の端から覗きこんでみたけど姿は見えない。
あれ、フェルミさんの靴が片方だけ木靴に変わってるぞ。
というかあの靴、なんか床に敷いた板に繋がってない?
……フェルミさんがゆっくりと靴から白い素足を引き抜くと、その中に転がるカトリーヌさんが見えた。
え、なんで無事なの? 人間の足に踏まれて無事なはずは……
あー、カトリーヌさんの形にピッタリ合わせた、人型のくぼみがインソールに掘ってあるのか。
ちゃんと翅を収める所もあるな。
そうか、足を動かすと中身が動きについてこれずに潰れるから、板に繋いで動かない様に固定してあるのか。
「流石はフェルミさん、完璧なお仕事ですわ」
「喜んでもらえたなら良かったわ。…………中に入りたいのかしら?」
「いえ結構です。なんでちょっと面白い事を思いついたみたいな笑顔で言うんですか」
「いえ、そういえば何度かこう声をかけたわね、と思って」
「あぁ、確かに」
素材屋さんとここの表だったかな?
言う程の回数じゃない気もするけど。
「まぁ、もし入りたいと言ったとしても、サイズが合わないのだけれど」
「私とカトリーヌさんじゃ、結構身長が違いますしね」
「それと、肩の辺りが少し深めに作られていますので……」
「ラキ、ごー」
「お仲間」のラキに指示を飛ばして、カトリーヌさんの足に糸を引っ付けて引きずりまわさせる。
さっきの靴に入るためか、首輪だけを残して全部外してるから糸を付けないと引っ張れないしね。
首輪の鎖も外してるし。
いや、付いてても流石にそれは死んじゃうだろうから、やらないけどさ。
またしても鼻血を出したカトリーヌさんの治療を済ませ、机に付いた血を掃除する。
一通り拭き終ったタイミングで、突然に工房の入り口がバーンと開かれた。
「フミちゃんお待たせー! 注文のミニお布団、出来上がったよ!」
「あなたは今日も騒がしいわね…… お客様も居るんだから、少し静かに、ね?」
「あっ、ごめんね。って妖精さんだー!」
「あ、はい。妖精さんです、どうも」
なんか勢いに押されて妙な返事をしてしまった。
普通の声量で話したし、ドアも開いてるから聞こえてないよね。
……なんかこの人が居たら、ここでも声が聞こえなくなりそうだけど。
「とりあえず、まずはドアを閉めてくれるかしら?」
「うん。妖精さん妖精さん、あの糸を出したのってこの子かなっ!?」
「騒がしいと言っているでしょう? 声を抑えなさいな」
ドアをスパーンと閉めるやいなや、凄い勢いで詰め寄ってくる素材屋さん。
あー、この人がアリア様の言ってたティーさんなのか。
あんまり勢いよく迫ってくるから、そのまま潰されるかと思ったよ。
じっと見られてるラキも、近づいてくる勢いにビックリして威嚇してるし。




