216:首につけよう。
あぁ、カトリーヌさんが吸い寄せられていく……
これが飛んで火にいる夏の虫って奴か。
いや【妖精】は虫じゃないし夏でも無いけどさ。
「白雪さん、少し手を貸して頂いてもよろしいですか?」
「えぇー……」
まぁ確かに、誰かが外から何かするタイプの器具とか、自分じゃ付けられない物も多そうだけどさ。
正直な所あんまり触りたい道具じゃないよね。
「ぴ、ぴぴっ」
「いや、ぴーちゃんじゃ持てないから無理でしょ」
「ぴぃ……」
私が嫌がってるのを見てぴーちゃんが引き受けようとしてくれたけど、羽じゃ扱えそうにない物が殆どなんだよね。
石の板を持つくらいなら、挟めば行けるだろうけどさ。
私がツッコむとしょんぼりとした顔で自分の羽の先を見る。
うん、仕方ない仕方ない。ぴーちゃんは何も悪くないよ。
「うー、少しだけだよ?」
肩の上のラキを摘まみ上げて机に下ろし、カトリーヌさんに近づいて行く。
「ありがとうございます。では、早速これを」
「やだ」
薄くて目の細かい布の袋に砂鉄か何かを詰め込んで、閉じた口に木製の柄を付けた鈍器を差し出してきたので、即座に断っておいた。
これ、ブラックジャックとか言う奴だっけ?
確かに手伝うとは言ったけど、直接攻撃させようとするんじゃないよ。
「むぅ、ではこれを」
「いや、別にあれが気に入らないんじゃないよ。殴らせようとしないでって言ってんの」
今度は金属の板を厚手の布を重ねた物で挟んで、縫い合わせて取っ手を付けた様な物を差し出してきた。
良く知らないけど多分ひっぱたく道具でしょ?
「それでは…… これをお願いできますか?」
「はいはい。いやこれ、別に自分でつけられるじゃない」
次は金属製の首輪を差し出してきた。
少しやりづらいかもしれないけど、普通に一人で装着できる物じゃないか。
「ご主人様に付けて頂く事に意義があるのですわ」
「いや、私ご主人様じゃないし」
異議は認めない。
「えっ?」みたいな顔してもダメ。
「まぁ付けるくらいなら良いけどさ。ほら、貸して」
カトリーヌさんの手の上に乗ってる首輪を掴んで、カチャッと開く。
「ぴっ」
いつの間にか近くに来ていたぴーちゃんが羽でカトリーヌさんを後ろに向かせ、肩を上から押さえる。
あ、膝の裏にラキがタックルして脚を曲げさせた。
タイミングを合わせてぴーちゃんがグッと押し下げて、膝をつかせる。
……うん、脚でラキが挟まれちゃったけどまぁ無事だろう。
ぴーちゃんがカトリーヌさんの正面に回って、さぁどうぞって顔でこっち見てる。
「あー、うん、ありがとね」
付けやすくなったのは確かなので、お礼を言いながらカトリーヌさんの首に首輪をはめる。
多分何もしなくても同じ体勢になってたと思うけどね。
「はい、これも」
「あー、はい」
フェルミさんが横から、接続用の金具が付いた鎖のリードをスッと差し出してきた。
断っても仕方ないので、受け取ってカチッと繋げる。
「ふぅ、これで動きやすくなりましたわ」
「いや、そんな訳無いでしょ。あ、ぴーちゃんありがと」
「ぴゃっ」
動かないままで意味の解らない事を言い出したカトリーヌさんに突っ込んだら、ぴーちゃんが羽でぺしっと頭をはたいてくれた。
「はい、もう付け終わったんだから立って。そろそろラキも息苦しいかもだし」
「ぅぐっ……」
カトリーヌさんの首に繋がった鎖をグイッと上に引っ張り、無理矢理立たせる。
あ、膝の裏に居たラキがボトって落ちた。
大丈夫かな? あ、大丈夫だな。
カトリーヌさんの踵の辺りをペチペチ叩いてるけど、それ逆恨みだからね?
「けほっ」
立ったおかげで首を引っ張る力が緩んで、まともに呼吸できるようになったので息を整えるカトリーヌさん。
「あ」
少しふらついた拍子にカトリーヌさんの足がラキの上にむぎゅっと。
うーん、無事かな?
「あぁっ、申し訳ございません、ラキ様!」
カトリーヌさんが足を上げると同時に、反対側の足に走って行ってべちべち叩くラキ。
無傷だけどご立腹だな。
ちゃんと加減して叩いてるから、本気で怒ってはないだろうけど。
「ラキもそうなる可能性があるんだから、ちゃんと足下からは離れとかなきゃね。ほらほら、もういいでしょ?」
むーって顔のラキを摘まみ上げて、少し離れた所に下ろす。
また踏まれてもいけないしね。
「では続いてこれらもお願いできますか?」
「あー、まぁ良いけどさ。こっちが腕?」
「はい。そちらに鎖もありますので」
「はいはい、繋げって事ね」
小さな棚に並べられた薄く短い筒の様な物を四つ持ってきたので、確認してカチャカチャはめていく。
ぴーちゃん、私がはめやすい様にやってくれてるのは判るんだけどさ。
羽で挟んでぐるんぐるんカトリーヌさんの全身を回して、逆さにしたりするのはやめてあげようね。




