210:付いてきてもらおう。
「そんじゃ、場所はそいつが知ってっから」
「あ、色々寄り道しなきゃなんですけど大丈夫ですか?」
「構わねぇよ。どうせ先に済ませて解放してやっても、こいつ帰ってこねぇだろうし」
「え?」
「そんなことない」
「お前こないだ買い出し頼んだら帰って来なくて、探させてみたら店の屋根の上で寝てたじゃねーか」
「う」
……何でクビにならないんだ。
人手が足りないのか?
まぁ誰にでもできる仕事じゃないだろうから、そこは仕方ないけど。
「つー訳で今日一杯は好きにこき使って良いぞ。声かけても返事が無かったり、無茶な事を言ってないのに拒否しやがったりしたら後で言ってくれ」
「どうなるんです?」
「隠してるのを全部没収する」
「殺生な」
またえらくゆるい罰だな……
本人的にはそれが一番つらいんだろうか?
「俺やコレットに教育されるよりゃ良いだろうが」
「むぅ、それはそうだけど」
少なくとも一番ではないらしい。
「そもそもサボらなきゃ良いだけだろうが。たまには真面目に働きやがれ」
「今遊んでた人が言っても微妙ですね、それ」
「ぶーぶー」
いや、それでも常習犯に文句を言う権利はあんまり無いかな。
「うるせぇよ。ほれ行った行った。約束があんだろ?」
「そうですね。それじゃ…… えっと、何と呼べば?」
「サフィ。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします。あ、私は白雪です」
「私はカトリーヌですわ」
「大丈夫、良く知ってる」
あぁ、ずっとここの警備してれば知ってるよね。
まぁこっちも一応言っただけだけど。
消えていくジョージさんに挨拶してホールに戻ると、中央の辺りに何やら人が集まっていた。
「ライサさん、あれはどうしたんですか?」
「お疲れ様です。あの人だかりでしたら、新しく設置されたオブジェを見物する方達ですよ」
……キャシーさんの事か。
少し高めに飛んでみると、確かに中央に石の頭部が見える。
触れない様に柵かロープでも張ってあるのか、微妙に間が開いてるな。
まぁ触られるのは嫌だろうから、必要な事だろう。
「あ、ぴーちゃん。おーい、起きてー」
ぴーちゃんが受付の上に置かれた即席の止まり木に乗って気持ち良さそうにうとうとしていたので、両手でほっぺたを挟んでもにもにと揉んでみる。
「ぴぃ……ぴぅ…… ぅぴやっ!?」
「おはよー。終わったよー」
一瞬寝ぼけてたな。
目を閉じたまま「むぅー…… じゃまー……」って感じで私の手を羽で押しのけて、目を開けたら揉んでたのがご主人さまだと気付いて硬直した。
「ぴー……」
「あぁ、良いの良いの。ほら、ぴーちゃんが寝てるの見て可愛いなぁって思ってもらえてるんだから」
「眼福です」
自分だけ寝てて申し訳ないって感じに鳴いたので、問題無いんだよと教えておく。
「うらやましい」
「そりゃあなたの仕事は可愛がってもらう事じゃないですし、仕方ないでしょうに」
「むぅ」
「……あぁ、サフィさんですか。白雪様の案内を指示されたのですね」
「そう」
唐突に聞こえた声に一瞬だけ考えて、すぐに理解したらしいライサさん。
説明の必要が無いって楽でいいなぁ。
「それじゃ、また来ますねー」
「はい、お待ちしております」
ライサさんに挨拶して役場を出る。
うぅ、ほんとに「おしおきちゅう!」の札がかかってるよ。
まぁ仕方ないか……
「あれ、こっち反対」
役場を出て家に向かう為に北へ進み始めると、サフィさんの疑問の声が聞こえてきた。
「ほら、色々寄るって言ったでしょう? 一度家に帰るんですよ」
「シルク様をお迎えに参らねばなりませんしね」
「うん。エリちゃんも居れば誘ってみるかな」
「そうですわね」
そういえば今日は売る分の蜜は集めてないな。
まぁ毎日ある訳じゃないって言ってるし、別に良いか。
「お帰りなさいませ、白雪様」
「ただいまー。あれ、どうしたんですか?」
家に帰る途中、門の前にモニカさんが待ち構えていた。
普段なら普通に仕事してるのに珍しいな。
「いえ、何やら妙な物が付いて来ている様ですので」
「あ、サフィさんかな? 案内の為にジョージさんに言われて付いて来てもらってるんで、大丈夫ですよ」
「白雪様に付いて回れるとはなんと羨ましい……」
「じゃあ代わって」
「そうしたいのは山々ですが、私はここを放棄する訳にはいかないのです」
まぁ最悪の場合、配置換えされちゃうかもしれないからね。
「それに、交代するとここの仕事をして頂く事になりますが」
「やっぱ無しで」
……まぁ私が何か言わない限りは、ただ付いていくだけのお仕事だしなぁ。
庭の手入れに比べればはるかに楽だよね。
「しかしわざわざ案内を付けるとは、どちらへ?」
「あの頭のおかしい研究所」
「……やはり私も」
「いや、仕事しててくださいよ。私なら大丈夫ですって」
多分だけど。
サフィさんの言いようとかモニカさんの反応とかでちょっと自信無くなってくるけど。
とは言え本当に仕事放棄して付いてこられても、ちょっと困るしね。
「私一人で問題無い。というか一人でやらないと怒られそう」
「あー、確かに」
「白雪ちゃんの身に何かあったら、私も後で何されるか判らないし頑張るしかない」
うん、少なくともおやつは誰かのお腹に入っちゃうだろうな……
下手するとジョージさんとコレットさんに二人がかりで教育されかねない。




