206:脚を増やそう。
よたよたと一歩踏み出させては転びかけたり転んだりを繰り返して練習を続ける。
むー、本当に難しいなこれ。
「あ、そうか。二本脚で歩くのが難しいなら脚を増やせばいいのか」
「あん? ……なんかこだわりがあって敢えて二本でやってるのかと思ってたんだが」
「いえ、単に人型って発想に囚われてただけです」
「そうだな。お前はそういう奴だったよ」
むぅ、バカにされている。
「いいじゃないですか。これはこれでいい感じに訓練にはなりそうですし」
体勢が崩れそうになったら即座に対応する必要があるし、だからってその対応に精密さが足りなければそのまま転んじゃうし。
「ま、それは確かにな。でもお前、脚を増やすっつってもよ」
「なんです?」
「まともに制御できんのか? そこのラキじゃあるまいし、二本足でしか歩いた事はねぇだろうに」
よんだー? とこっちを振り向いて首を傾げるラキ。
こらこら、せめてまともに相手してあげなさい。
カトリーヌさんが悔しいのと気持ち良いのが混ざったよく解んない表情になってるから。
「うーん、確かに上手く動かすのは無理かもしれませんけど…… まぁそれでも転ばなくはなりますよ」
「その辺も造りや操作次第だろうけどな」
「まぁそうなんですけどね。よし、試してみよう」
何とか立たせている人形の足を一旦地面に繋げて、増やす脚の分の土を吸い上げる。
こんなものかな?
土を一旦腰の辺りにまとめて、そこからにゅーっと新しい脚を生やしていく。
四本でも不安が残るので六本脚にしてみた。
「人型のままでやるとちと気持ち悪いな、それ」
「まぁ確かに。んー、重心を下げた方が良いかな?」
「その方が倒れにくくなるだろうな」
ぐーっと腰を落として付け根と膝を九十度くらいにしてみた。
んー、いっそお尻が地面につく一歩手前くらいまで落としてみるか。
「よし、これなら倒れないぞー」
「それ、腕意味あんのか? 前側の脚が邪魔になってんだろ」
「届かないなら伸ばして…… やっぱやめとこ」
昨日のエリちゃんみたいになってしまった。
「まぁまずはまともに歩かせるところからですよ」
「それもそうだ」
「ってジョージさん、いつの間にか歩くくらいなら何とかなってるじゃないですか……」
「まぁ体の動かし方は良く知ってるからな。それを参考にすれば少しはやりやすくなった」
「あー、重心移動とかそういうのですか?」
「そんなとこだ。お前のとこの魔人も得意なんじゃねぇか?」
「確かに、レティさんは綺麗に動きますね」
【妖精】を運べる程度には精密に動く人だもんね。
なんかやらせてみたらすぐに歩かせられそうな気もする。
役割で言えばアヤメさんの方がジョージさんに近いんだけどね。
ジョージさんから見ればまだまだ未熟って事なのかな?
「こらジョージ、何を遊んでいるんだお前は」
あ、アリア様が叱りに来た。
「お、姫様。監視ですよ監視」
「まったく……」
悪びれもせず「サボってねーっすよ」みたいなノリで返すジョージさん。
そんなんでいいのか。
「姫様こそ仕事はどうされたんで?」
「疲れた!」
えー……
まぁコレットさんもちゃんと後ろに居るし、脱走してきた訳じゃないんだろうけど。
「という訳で私にも愛でさせるが良い」
「いや、別に愛でられてはいませんけどね。とりあえずお疲れならこれをどうぞ」
アリア様の顔の前までふわっと飛んで、【妖精吐息】を吹きかける。
「おぉ、助かる。ありがとう」
「いえ。これくらいで良ければ、いつでもやらせてもらいますよ」
借りは返しきれないくらい溜められちゃってるし、そもそもちょっと魔力を乗せて息を吹くだけだしね。
「ふむ、あちらは試合を……というか遊ばれているのか」
「まぁ良く言っても稽古ですかね」
たまに中断してジェスチャーで指導されてるし。
ごほうびを賭けてるのに余裕だなー。
「楽しそうではあるのだが、流石にあのサイズを操作するのは厳しいな……」
「アリア様から見れば一センチも無いでしょうしね」
「うむ。という訳で白雪、私にも糸をくれ」
何が「という訳」なのか。
まぁ良いけどさ。
「はい、どうぞ。あ、コレットさんもやります?」
「いえ、私は……」
「コレット、貰っておけ。そしてジョージの人形を叩き壊してやると良い」
「はい、姫様」
「くっそ、一気にやる気出しやがって…… そう簡単にやらしゃしねーぞ」
あー、さっきからジョージさん見てたもんな。
多分これ、さっき「あんなの」とか言ったのが伝わってるんだろうな。
っていうかここの偉い人達、こんなんでいいのか?
まぁ良いか。楽しそうだし。




