205:二本脚で立たせよう。
【土魔法】の訓練だったはずなのに、なんか趣旨が変わってる気がするけどまぁ良いか。
カトリーヌさんがラキにシゴかれているのを観戦していても仕方ないので、再度自分の訓練を……ってなんかラキが呼んでる。
「ん、どうしたの?」
「むぅぅ、なんという屈辱……」
呼ぶのは良いんだけど、人形と殴り合いしてるのに上半身を横に向けて、パンチを片手で払い落しながらこっちに手を振るのは流石に可哀想じゃない?
あ、なんか屈辱とか言いつつちょっと嬉しそうだし別に良いや。
「えーと? カトリーヌさんの攻撃が、当たる……らない?」
会話が始まっても殴られ続けているのを意に介さず、左手で捌きながらこちらにジェスチャーを送ってくるラキ。
右手で人形の腕を指して、その後自分の顔にむにーと当て、すぐに離して否定する感じに顔の前で振る。
「まぁ確かに当たってないね。あ、違くて? えーと、最後まで当たらなかったら、とか? あ、そうなのね」
まぁ当たってないのなんて主張するまでもないしね。
こっちにジェスチャー送ってる間、胴体をろくに動かさずに手の動きだけで全部逸らしてるし。
「んー…… あ、その時は何かご褒美が欲しい、とか?」
おお、笑顔でこくこく頷いた。
「うん、良いよ。何か欲しい物でもあるの?」
んーん、と首を振る。
物じゃないのか。
「それじゃ、私に何かやって欲しいの?」
うんうん、か。なんだろ?
えっと…… なんか私の足を右手で指してきた。嫌な予感が……
右足、左足、自分の顔の順に指していき、物を挟むような動きで両手を合わせて、ぐにぐにとすり合わせる。
「えーっと…… その、えっと。避けきったら、足で挟んでにぎにぎしてほしい、って…… 事なのかな……?」
うぅ、眩しい笑顔で同意されてしまった。
そんな嬉しそうな顔で頷かれたら断れないじゃないか……
「あぁっ、ずるいですわラキ様! 白雪さん、それでは攻撃が当たったならば、私にご褒美を!」
「もー、カトリーヌさんのせいでラキまで変な趣味になっちゃったじゃないの」
「本当に私の影響なのでしょうか? 白雪さんのおみ足に触れられるという事は、何物にも代えがたい無上の」
「はいはいはいはい、解りましたー。もーいいでーす、私が悪かったでーす」
いや、突然宗教家みたいなノリで語り始められても解らないけどさ。
ラキもうんうんって頷いてるんじゃないよ。
まぁ確かに最初から足に来てたし、元々って可能性もあるけどさー。
「っていうか当てたらって言うけど、ラキちゃんさっきから手さえ使ってないじゃない」
ジェスチャーに両手を使った時から、胴体と首の動きだけで全部避けられてるし。
「えぇ…… 私の攻撃には、手を使う価値すら無いという事ですわね」
たまにお腹を狙ってみても、脚の動きで全身をクイッと後ろにスライドしてすかされてる。
おぉ、へいへーいって両手で挑発してだらーんと手を下げた。
「完全に舐められてるよ?」
「それはそれで嬉しいですが…… 不肖このカトリーヌ、ご褒美を勝ち取るため全力で参りますわよー!」
「いや、さっきから割とムキになってたよね」
カトリーヌさん、勝負事では意外と負けず嫌いなのかな?
私とやってる時も容赦なかったし。
でもむしろやる気が出すぎて動きが単調になっちゃってるのか、一発放つたびにぺちって叩かれてるよ。
まともに勝負してもらえるまで、先は長そうだね。
二人に頑張ってねーと声をかけて、ボックスから座椅子を取り出して花壇のふちに置く。
ここなら土台を置かなくても普通の椅子みたいに座れるしね。
先程と同じ様に人差し指から糸を発射して地面に貼りつけ、もももっと盛り上がらせてから人の形に作り変える。
うーん、さっきみたいなのだと両手が塞がっちゃうし、人差し指から何本も……あ、出せた。
うん、同じ指から出してても操作に問題は無いみたい。
よーし、それじゃ試しに歩かせてみよう。
地面を介して魔力を流してる訳じゃないから、切り離しても大丈夫ははずだ。
右脚を上げて、下ろして左足を…… あ、転んで腕が取れた。
むぅ、一旦崩してやり直しだ。
人形と指から外した糸の束を、ちゅるっと吸って回収する。
……なんか素麺みたいだな。味は無いけど。
再度人の形にして、今度は少し固めにした上で慎重に。
一旦膝をつかせて片手を地面につけ、両足を切り離してゆっくりと立ち上がらせる。
うおお、ふらふらしてる。バランス取るのってこんなに難しいんだなぁ。
何とか立てたけど、迂闊に動いたらすぐに転んじゃいそうだよ。
「何やってんだ?」
「いや、これを歩かせてみようと思ったんですけどね。普通に立たせるだけでも難しいもんだなと」
例によって何も無い空間に、胡坐をかいた状態でモヤっと出てくるジョージさん。
いい加減役場の中でなら慣れたよ。
「なんか面白そうだな。ちょっと貸してみ?」
「良いですけど、これじゃジョージさんにはちょっと小さいでしょ。糸は出すんで、人形は自分で作ってください」
一旦糸を横に置いてジョージさんの近くまで飛び、両手を揃えて十本一気に発射して地面に引っ付ける。
ジョージさん用なのである程度長く伸ばして切り離し、束ねて差し出して摘まんでもらった。
「お、悪ぃな。ありがとよ」
「いえいえ。っていうか仕事は良いんですか?」
「ここでお前が何かやらかさないか見張るのも仕事の内だ。どうせ居るのは知られてんだから、出てきてても問題ねぇだろ」
「そういうもんですかね?」
「もんなんだよ」
うん、まぁもし問題が有っても、怒られるのはジョージさんだしな。
「おぉ、これ綺麗に魔力が通るな。良い糸だわ」
私の半分くらいの大きさに土を盛り上げて、上半身を作って腕を振らせるジョージさん。
うん、ちょっと予想はしてたけど動きが私の操作より滑らかだ。
魔力の差で動き自体はゆっくりだけど、動きに無駄が無い。
「で、これで足も作って……っと、こりゃ確かに難しいな」
「一発で膝もつかせずに成功させておいて、そういう事を言われるとなんか悔しいんですけどー?」
すいーっと私より少し大きい人形に近寄り、どむっと肩を突き飛ばす。
おー、流石の反応で立て直そうとしたけど、上手くいかずにぐしゃっと倒れた。
「あっ、手前何しやがる! くっそー、また作るとこからかよ……」
「だってなんか悔しいじゃないですか」
「だんだん遠慮が無くなって来たな…… お前と違っていくらでも魔力使える訳じゃねぇんだぞ?」
「あー、そうか。それじゃ大まかな成形はこっちでやりますよ。細部はそっちで調整してください」
地面に手をつき、倒したのと同じくらいの人形を作って落ちている糸を繋げ、土から自分の魔力を抜き取る。
残したままだとジョージさんの魔力を弾いちゃうかもしれないしね。
「お、ありがとよ。……よし、こんなもんか」
さくっと調整を済ませ、流れる様に両足を切り離すジョージさん。
「……慣れるの早すぎじゃないですかね」
「いや、これでも今すげぇ集中してんだぞ? だから近寄るんじゃねぇ。次やったら怒るからな」
むぅ、先に警告されちゃ突き飛ばせないじゃないか。
いや流石に二度目はやらないけどさ。




