203:お人形遊びをしよう。
「大丈夫ですか……?」
「あー、痛かったっていうかびっくりしたのが殆どなんで大丈夫みたいですよ」
所詮【妖精】の力で引っ張れるゴムだしね。
ぴーちゃんにはチクッとするくらいの痛みだろう。
逆だとのたうち回ってただろうけど、まぁそれが望みだったんだろうからそれは別に良い。
「そ、そうですか。えっと、カトリーヌさんは」
「こっちでなんとかしておくので、お仕事に戻ってもらって大丈夫ですよー」
「はい。それでは失礼致します」
「はーい。で、カトリーヌさん? 今も言ったけどぴーちゃんにダメージは無いし、そこまでして謝らなくても大丈夫だよ」
わざわざ着陸してまで土下座しなくても。
っていうかラキ、私人間の顔の高さに居るのによくここから飛び降りたな。
「しかし、いくら痛くは無いとはいえぴーちゃん様にご無礼を働いた事は……」
「いや、そんな謝られる方がぴーちゃん困っちゃうから。カトリーヌさんはぴーちゃん様を困らせたいの?」
「い、いえ、その様な事は決して……」
「そういうなら起きようよ。っていうかぴーちゃん、攫ってきちゃって」
「ぴゃー」
私の指示を受けて地表まで降下し、両足の鉤爪でカトリーヌさんの胴体を鷲掴みにして私の所に戻ってくる。
「ラキ、こっちおいで」
振り落とされない様にカトリーヌさんの髪にしがみついていたラキを回収。
あ、ちゃんと命綱で付けた糸は外しておくんだよ。
「ほらカトリーヌさん、ちゃんと自分で飛んで。そんなエサみたいに垂れ下がってないでさ」
「いっそエサにでもして頂ければ……」
「ぴゃっ」
「要らないってさ。はいはい、悪いと思ったなら普通に謝るだけで良いから。私達はそういう風にされても困るっていうか、キツい言い方をすると迷惑だから」
こんな事が有る度に毎回宥めなきゃいけないとなると正直面倒なので、丁度良いので教育しておく。
いや、人を教育する様な立場じゃないんだけどね。
「……はい。重ねて不愉快にさせ、誠に申し訳ありませんでした……」
自分の【浮遊】で私達の前に浮いて、深々と頭を下げるカトリーヌさん。
「いや、別にそこまでじゃないからそんな真面目に謝られても。ただ、次からはあんな感じになったらスルーしちゃうからね?」
「はい、気を付けますわ」
「ぴゃー」
ぴーちゃんが「いいんだよー」と羽で頭をなでなでして、ぎゅっと抱きしめる。
やっぱり相手の頭を抱える様にするんだな。
「ぴ、ぴやー?」
頭を撫でていたらきゅっと抱き着かれ、ぷるぷるし始めたのに困惑するぴーちゃん。
「はいはい、立ち直った途端にぴーちゃんの体で窒息しようとしないの。私と一緒に訓練するんでしょ?」
「そうでした。ここで死に戻ってお待たせする訳には行きませんわね」
「そうそう。よしぴーちゃん、今日はぴーちゃんに受付で愛想を振りまくお仕事をしてもらおうかな」
ラキだと小っちゃすぎて、少し離れると見えないし。
なんだかんだで可愛がってもらえそうではあるけど。
「ぴー……?」
自分の目つきを気にしているのか、「私でも大丈夫?」って感じで不安そうにこっちを見るぴーちゃん。
「大丈夫大丈夫。みんな良い人達だし、きっと可愛がってもらえるよ。心配ならまずさっきのライサさんの所に行けば、間違いなく喜んでもらえるよ」
「ぴぅー」
不安を残しつつも決心した様で、ふわっと飛び上がって入り口に向かうぴーちゃん。
うん、ライサさんに喜んで貰えるのは確かだけど、喜ばれ過ぎて何かされたらごめんね?
「それじゃ、とりあえず地面まで降りようか」
「えぇ。火からでよろしいですか?」
「そうだね。よし、やるぞー」
「おー、ですわ」
ラキも一緒におーって感じで拳を振り上げてるけど、特にやることないよね。
走って遊んでおいで。
「……カトリーヌさん、これ脱ぎ方解る?」
「少々お待ちを。……えぇ、これなら問題ありませんわ」
「悪いんだけど、脱がせてもらって良いかな? 訓練で汚れちゃったら困るし」
「はい。シルク様ほど上手くは出来ませんので少々お待ちを」
「いや、あれはなんかもう別次元だから仕方ないよ」
いつ脱がせたのか解らないレベルだし。
妖精の服を残して上下を脱がせてもらい、背後から妖精の服に手をかけた時点で「ありがとう」とお礼を言いながら脇腹に肘を叩きこむ。
誰がこんな所で全裸にしろと言った。
地面の土を盛り上げてビニールプールくらいの大きさの水溜りを作り、カトリーヌさんとぱちゃぱちゃ水を動かしあっていると、窓の方から誰かに見られている感覚が。
「うーん、やっぱり視線を感じる」
「うふふ。職員の方々は白雪さんの愛らしい姿の虜ですわね」
「いや、自分を棚に上げないでよ。私に全部押し付けないでよー」
「うふふふふ」
くそぅ、スルーされた。
いや、別に好かれて困る事は無いんだけどさ。
好かれ過ぎて【妖精】の敵への対応がちょっと怖いくらいで。
でもなんかそのままスルーされるのも悔しいので、水面から水の塊を飛び上がらせてカトリーヌさんにぶつけておいた。
「白雪さん、白雪さん」
「ん?」
土魔法の訓練で地面に手をついて正面の地面から柱を生やし、その柱をうねうね動かしたりしていたらカトリーヌさんが声をかけてきた。
「えいっ」
「あっ」
むぅ。太い柱から腕みたいに生やした二本の棒で、私の立てた柱に打撃を加えてきた。
くそぅ、ちょっと欠けちゃったじゃないか。
「やったなー。……ていっ」
同じように腕を生やして相手の柱の先端部分、頭部にあたる部分へパンチを繰り出す。
「なっ!?」
「ふふふ、甘いですわ」
ぬぅ……
柱の中ほどをくにゃっと曲げて、ボクシングの回避動作みたいな避け方をされた。
ていうか律儀に膝と腰の辺りを器用に曲げたな、今。
「くそぅ、負けるかー! とー!」
「はいっ。ふふ、私の勝ちですわね」
ブンブンと腕を動かして大振りのパンチを繰り出すも全て躱され、綺麗にカウンターを決められて先端をへし折られてしまった。
「あーっ! ちょっ、もう一回もう一回!」
「はい。何度でも受けて立ちますわ」
くそぅ、余裕だなカトリーヌさん……
私が柱を作り直してる間に柱を人っぽい形に作り変えてるし。
せっかくだからこっちも人型に作ろうか。
「むぅ、勝てない……」
「しかし動きは良くなってきていますわよ」
ぬぅ、上から目線だ。
いや、実際全敗してるんだしカトリーヌさんの方が上なんだけどさ。
良くなってるって言っても、全部読まれてカウンターを合わせられてるんだよなぁ……
焦った顔一つさせられないよ。
「あら、ラキ様。どうなさいましたか?」
いつの間にか走り回ってたラキが戻ってきて、カトリーヌさんの作った人形の前でシャドーボクシングを始めていた。
「これ、私が相手だーって言ってるんじゃない?」
動きをぴたりと止めて頷き、人形に向けてきしゃーっと威嚇する。
「解りました。その前にサイズを合わせて……と。それでは参ります」
人形のサイズがラキの三倍はあったので一度崩し、新しくラキサイズの人形を作るカトリーヌさん。
「えっ?」
放ったパンチにラキの拳が正面から当たった、と思ったら人形の腕が消し飛んだ。
その次の瞬間には人形の頭部が反対の拳で消し飛ばされている。
「勝負にすらなりませんでしたわ……」
ガックリとうなだれるカトリーヌさんの頭によじ登り、両手を上げるラキ。
うん、まぁこうなるとは思った。




