140:コキャッと行こう。
なんか変に強調したのが気になるけど、嫌な予感がするからスルーしよう。
準備を終えたライサさんと並んで役場から出ていく。
「それじゃお願いしますね」
「えぇ、お任せください。それでは」
北へ向かうライサさんを見送り、お姉ちゃん達と合流するべく噴水広場へ向かう。
流石にもうカトリーヌさんも居るよね。
っていうか時間かけすぎてすり潰してる所にライサさんが鉢合わせたりしたら、下手したら許可が貰えなくなりそうだな。
「お待たせー」
ベンチに座っているお姉ちゃん達を見つけ、声をかけながら近づいていく。
レティさんの手の上に乗った太郎をお姉ちゃんがつんつんしてるな。
あ、やり過ぎて軽く噛まれた。
「こーら、あんまり人を噛んじゃ駄目だよー? っていうかお姉ちゃんも嫌がったらやめてあげなよ」
「いたた…… ごめんね、たろちゃん」
噛んだ太郎と噛まれる原因を作ったお姉ちゃんの両方に注意しておく。
ていうかどんだけ突っついたんだよ、お姉ちゃんは。
「このサイズのハムさんというのも良いですわね。抱き着かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
あ、カトリーヌさん来てた。
一応太郎に確認してみたら「いいよー?」みたいな顔になったので許可する。
何となくそれっぽく感じただけだけど、多分間違ってない。
嫌がってはいないって感情がうっすらと伝わって来てる気がするのは、【召喚術】のレベルが上がって馴染んで来たんだろうか?
ただの気のせいとか思い込みかも知れないけど。
「おぉー、もこもこで気持ち良いですわぁ……」
レティさんの手に乗り、太郎の背後から抱き着いて満喫するカトリーヌさん。
太郎も嫌がらずにじっと動かないであげてるな。
良かった、間違ってなかったらしい。
「いいなー、カトリーヌさん。私も埋もれたーい」
「おっ、何だ? また【妖精】が増えるのか?」
「んー、それは無理」
アヤメさんの冗談に即答するお姉ちゃん。
無理とはなんだ無理とは。
いやまぁ実際、いろんな意味で無理だけどさ。
お姉ちゃんがリセットしたらパーティーメンバーが欠けるから、二人にも迷惑がかかるし。
というかそもそも私にVRギア買ってくれたから、【妖精】が出るまでランダムを引き続けるお金は無いだろうし。
……そういえばカトリーヌさんが一体いくらかけたのか聞いてないな。
なんか怖いから聞かないでおこう。
「ん? こらカトリーヌさん、うちの子の背中で何してんの」
太郎がチチッと小さく鳴いてこちらを呼ぶので見てみたら、カトリーヌさんが太郎の後頭部に顔を埋めて窒息を楽しんでいた。
カトリーヌさんの背中をぽんぽん叩いて離れるように促す。
……ぷるぷるしながらも全く動く気配が無い。
「おーい、離れなさーい」
右腕を隙間から首に回して左の上腕に乗せ、左手をカトリーヌさんの後頭部に添える。
いわゆる裸絞めの体勢になってから、後ろに向けて引っ張ってみた。
おい、なんでしがみ付く力が増すんだよ。
首への負担で楽しみが増えただけなのか。
「カトリーヌさん、離さないと折るよー」
少し締め付けを強めつつカトリーヌさんに最後の警告を出す。
「雪ちゃんが凄い自然に怖い事言ってる……」
「どんどん命が軽くなっていってるな」
だって仕方ないじゃん、相手がカトリーヌさんなんだから。
むぅ、全く離す気配が無いな。てかむしろ期待してないかこれ。
「もー、仕方ないな……っと」
カトリーヌさんの頭を両腕で固定したまま思いっきり捻る。
うへ、嫌な感触……
「あっさり行きましたね……」
「うわぁ、首が変な向きに……」
よし、ひっぺがそう。
……いや、なんで脱力してないの。どういう執念だよ。
まぁ死に戻りで消えるからそのままでいいか。
「はいお帰り」
「いやぁ、堪能させて頂きました」
「もー、手間をかけさせないでよね」
「申し訳ありません。しかし流石は白雪さん、良い手際ですわ」
いや、何が流石なのか。
「人を殺し屋みたいに言わないでよ……」
「でも現実での眼つきは殺し屋のそれだよね、雪ちゃん」
「やかましいよお姉ちゃん」
そこは生まれつきなんだからしょうがないだろ……
「ありがとうございました太郎さん、気持ち良かったです」
太郎の正面に行ってお礼を言うカトリーヌさん。
うん、太郎ちょっと引いてるな。まぁ仕方ないか。
「さて、いい加減行こうか。お腹空いちゃったよ」
「そーだねー。何食べるー? ってあぁっ!?」
アヤメさんの言葉で皆が立ち上がろうとし、私は巻き込まれない様に後ろに下がる。
が、カトリーヌさんはうっかり横に避けて、隣で勢いよく立ち上がるお姉ちゃんに衝突した。
あー、あれもう死んでるかな……?
あぁうん、首も背骨も折れてるな。あれで生きてたらびっくりだわ。
受け止めても仕方ないので落ちていくのを見送る。
うん、着地まで見届ける必要無かったわ……
「おいおい…… 今のはカトリーヌのミスも有ったけど、あんたももうちょっと気を付けなよ……」
「うぅ、まさかこっちに来るとは思ってなかったんだよ……」
まぁ思ってたらあんな勢いで立たないわな。
あ、復活した。
「申し訳ありません、ミヤコさん。退避する方向を誤りましたわ」
「ううん、こっちこそごめんね。近くに【妖精】が居るんだからもうちょっと気を付けないといけなかったよ」
うん、何気ない動きでも私達にとっては即死攻撃だからな。
まぁ【妖精】が脆いのが悪いんだから、出来る限りこっちがぶつからない様に注意しないとね。




