133:抗議しよう。
「よし。それじゃ足元は押さえとくからそっちから上げて行ってくれるかい?」
「おうよ、任せろ」
アヤメさん達がズレない様にめーちゃんの足を押さえ、反対側を押し上げながら近づいて行って少しずつ角度を上げていくようだ。
でもそれって、近づいて行くにつれて根本側の負担が凄い事になるんじゃないかな?
じゃあどうするんだって話だけどさ。
「ヘイヘイ、相手が動かないからって変なとこ触ろうとするんじゃないぞー?」
「うっせぇバーカ」
熊さんはなんでそんなテンション高いんだよ。
さっき死んで来たばっかりだろうに。
「んー、ここまで連れてきてもらったら、自分でなんとか出来るから大丈夫だよー。ありがとー」
「でも動くのって痛いんだろ? 遠慮すんなって」
「そうそう。どうせなら最後まで手伝うよ」
「んー、ありがとー。それじゃー、足は根っこで固定したからー、押し上げて補助だけお願いー」
あれ、ほんとだ。地面についてた指先から、いつの間にか太い根っこが地面まで伸びてる。
根を張る速度は妙に速いな。まぁ飛び出すのも速かったしそんなものなのかね?
てか立ってた時の根っこより結構太いな。強度の為に調整したんだろうか?
「ふぬー」
ん? めーちゃんが気合いを入れたら体が少し浮いた?
うわ、地面に向けて固定した足指の握力だけで残りの部分を持ち上げてるのか、これ。
いや別に筋肉でもないし握力って言っていいのかよく判らないけどさ。
「おいおい、無理すんなって!」
「んー? 立つだけならこれだけでもなんとかなるから、無理では無いよー」
慌てて支えに行くお兄さんに、めーちゃんがのんびりと言葉を返す。
マジか。根っこの力凄いな。
「でもやっぱりそれだとお腹減るし、押し上げてくれると凄く楽になるー」
「そうか。それじゃ皆、やるぞー」
口々に返事をして左右から挟み込むように配置につく面々。
お姉ちゃんとレティさんは椅子に座って静観してる。
まぁ後衛だからSTR低いしね。
モニカさんは……あ、離れて見てる。
まぁ問題無く立てられそうだし、わざわざ手伝ってもらわなくていいか。
あれ、そういえばカトリーヌさんはどうしたんだろ?
屋敷の中かな? ってそうだ、死んだからシルクが還ったままだった。
シルク、おいでー。……ぬ?
出てきてすぐに頭を下げ、屋敷に向かっていった。どうしたっていうんだ。
「ごめん、ちょっと中を見て来るよ。カトリーヌさんは出てきてないし、なんかシルクが急いでるから気になる」
「はーい」
お姉ちゃんに言い残して、シルクを追いかけホールに入る。
お風呂の方に行ってるな。もしかしてお風呂に入れてる最中に消えたのか?
カトリーヌさんの魔力は……うん、お風呂に居るみたいだ。
脱衣場まで来たけど、服は置いてないな……
ん? シルク、どうしたの? 入ってくれって?
入るのはいいけど、嫌な予感しかしないんだけど。
なんか中から荒い吐息と「シルクさまぁ、まだですのぉ……?」って声が聞こえてきたし。
すっごい入りたくないぞ…… ええい、仕方ない!
「お帰りなさいましぃ…… さぁ、続きをお願いしますわぁ」
「うっわ……」
「あ、あら。白雪さんでしたか」
ドアを開け、入り口から中を覗きこむと酷い物が転がっていた。
うん、物っていうか妖精なんだけど。もうこれ、物って言っていいと思う。
布を使って目隠しをした上で、四肢の関節は外されたのか砕かれたのか、指も含めて全てあらぬ方向に折れ曲がっている。
翅は先端から少しずつちぎり取られたのか、細かく別れて部屋の隅にまとめられていた。
いや、本気で勘弁してよ……
そんな状態なのに、笑みを浮かべてハァハァ言ってるし……いやそれは今更か。
そういう人だったわこの人。
「お、お風呂場で何やってんのさー!」
「他のお部屋では汚れてしまうと思いまして」
「そういう事を言ってるんじゃ無いよ! っていうかそれシルクにやらせたでしょ!?」
「えぇ。お願いして無理を聞いて頂きました」
「もー、うちの子に何やらせてんのさー!」
「いえ、流石に初めから流血はあんまりだと思いましたので、翅以外は外す所までに留めましたわ」
翅から流血したらどうするんだよ。
いや、そこじゃない。
っていうか初めからってなんだ。これからもやらせる気かこの人。
「いやいや、あんまり変な事に付き合わせないであげて欲しいんだけど?」
シルクが嫌そうな顔で頷く。
可愛がろうとしてた相手に痛めつけてくれって言われた心境はどんなものだっただろうなぁ……
しかしその割に念入りに壊してあるな。
嫌な事でも本人のお願いだからって徹底して従ったのか……?
「ほら、シルクも嫌そうだよ」
「シルクさん、私のお願い、聞いて頂けないのでしょうか……?」
ええい、泣き落としにかかるな。
っておいシルク、何故近寄っていく。
何をする気だ……?
「あがぁあぁぁはぁぁん!」
うっわ、外した足を一本だけ掴んでぶら下げた。
当然逆さになるので、もう片方の足は無茶苦茶な角度でブラブラしている。
嫌そうな顔のままだけど、何かの覚悟が見え隠れする表情になってるぞ……
いや、頼むからそういう趣味には目覚めないでよ?
「がっ! あひぃぁあぁ! あぁりがはぁぁっとっごぉぁああいまっすぅぅうぁはあぁぐぅっふぅっ」
カトリーヌさんを掴んだ手をゆさゆさと揺らすことで、残りの手足にもダメージを与えていく。
しかし、しっかりお礼を言う辺り無駄に凄いな。
「あがぁああぁぁぁっ! はぁっ、はぁぁあぁっ!」
あ、掴んでた足が砕けた。反対の足に持ち替え……る前に、持ってた方の脚の膝も握りつぶしたな。
器用に内部を砕いたのか、表面に傷は入ってないようだ。
反対の足を掴んで、今まで以上にグニャグニャになった脚を放り捨てる。
あ、顔にベチッて当たった。痛そう。
駄目だ、これ以上見てたらこっちまでおかしくなるわ。
そっと出て行くとしよう。うん、頑張ってね……?
おおう、なんかパーンって言ったけど……
驚いて思わず振り向くと、カトリーヌさんは服を脱がされ尻を叩かれていた。
待って待って、なんか変な方向に急成長してない?
ほんとお願いだから、私にそれを向けないでね?
「おかえりー。あれ、雪ちゃんだけ?」
「あー、その…… 多分カトリーヌさんはそのうち外から戻ってくると思うから……」
「……外から? 中で一体何が起きてるの……?」
「聞かないで」
「……うん」




