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VRMMOで妖精さん  作者: しぇる


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125/3658

125:共感しよう。

 貰った銀貨をボックスにしまいこみ、ついでに穴を覗きこんでみる。

 んー、この穴のサイズだと指先しか入らないんじゃないか?

 物の大きさに合わせて開けるんだろうか。


 あれ、なんか穴が浅くなってるか?

 おぉ、ちょっとずつ塞がってるな。


 危ない危ない。入れるかなーとか試さなくて良かったよ。

 奥が出てくるだけならいいけど周囲も狭まっていってるから、入ってたら押しつぶされてた。

 何か入ってたら閉じないのかもしれないけどさ。


 というかそもそも人の体で遊ぶなって話だな。

 さっきも足指の上に転がってたし今更だけどさ。



「どしたのー?」


「いや、塞がっていってるなーって見てた」


「やーん、はずかしー」


「え、そういうもんなの?」


「いやいやー、冗談だよー。見られるくらいどってことないしー」


「まぁ確かに、これだけ大きいと目立つよね」


「それにー、木の姿の時なんて全裸で立ってる様なもんだしねー」


「確かに…… そうなのかな……?」


 まぁそりゃ服は着てないだろうけどさ。



「まー今の恰好も、結構裸に近いけどねー」


「あー、うん」


 なんていうか、細部を描写してない人形というか、フィットしたラバースーツというか全身タイツというか……

 人形っていうかサイズ的に像って感じか。いや、それはどうでもいいな。


「頑張ったら変形する時に服も作れるんだけどねー。細かい変形は疲れるからやだー」


 一応服を着れなくはないのか。

 まぁ疲れて養分を一杯吸っちゃうと怒られるだろうしな。

 今回は【施肥】で大丈夫みたいだけど。



「それに普通の種族ってちっちゃすぎて、人に見られてるって感じがあんまりしないんだよねー」


「まぁ解らなくも無いけどさ」


 私の場合は真逆だけどな。

 サイズが違い過ぎると同じ生き物って感覚が薄れるよなぁ。

 まぁ現実とちゃんと区別が付いていれば問題はないだろう。



「ところで、手の上に戻ってこないー? 見えないとなんか話しづらいー」


「あ、ごめんね」


「まぁ嘘なんだけどー」


「えー……」


 なんなんだ一体。

 いまいちノリの掴みにくい人だなぁ……



「そこに居てもちゃんと見えてるしねー。そっちが気にしないなら問題ないよー」


「え、ここ顔からは完全に死角になってるけど?」


 腹立たしい事に。


「んー、目で見てる訳じゃないからねー。これ飾りみたいな物だしー」


「あぁ、まぁ木の時は無いんだしそうなるか。どうやって周り見てるの?」


「んー? わかんない。なんかわかんないけど見えるから、それでいいんじゃないかなー」


 おおう、雑だな。

 まぁ確かに研究者でもあるまいし、詳細まで知らなくても問題は無いか。

 見えるっていう事実があれば十分だろう。



「まー、最初は頭がパンクするかと思ったけどねー」


「ん、どうして?」


「いやー、人間の視界と違いすぎてさー。三百六十度パノラマって感じー?」


「え、全方向が同時に見えてるの……?」


 好きに見回せるとかじゃないのか……



「うん、慣れるまですっごい気持ち悪かったー」


「気持ち悪いで済むんだ……」


「いやー、なんとかなるもんだねー。まぁ慣れたら慣れたで、今度は現実に戻った時に、人間の視界が狭すぎて不安になっちゃうんだけどねー」


「まぁ普通は前しか見えないからね」


「あと大きさもだねー。外してすぐだと遠くの物を掴もうとして空振りしちゃう」


「あー、それは解る。私は逆に近すぎてぶつかっちゃうけど」


「比率で言ったら私より極端だもんねー」


 我ながら変な所で解りあってるな……



「あー、あと少し慣らさないとまともに動けなかったよー」


「ん、それはどういう?」


「やー、この体って動こうとしてもあの速度じゃない」


「あぁ、ゆっくりだったね。あ、そうか」


「んー。最初にログアウトした時、ギアを外そうと思って手を動かしたら思いっきりぶつけちゃったよ。痛かったなー」


「いや、それ本気で危ないんじゃ?」


「ぶつけただけだから良かったけど、全力で振り切って関節が外れちゃうとかありそうだよねー」


「軽く言ってるけど、大問題だと思うよ……」



「んー。いちおー開発に文句言っといたー。そしたら『一部の種族のためにログアウト前のリハビリ空間を用意した』みたいなお返事が来たよー」


 判りきってる事なんだから最初から用意しておいてよ……

 というかそんなの出来たのか。

 流石に【妖精】が対象外って事はないだろう。


「あれ、それいつの事? 入った覚えが無いんだけど……」



「んー、この中で言うなら昨日の夕方かなー? 現実で言うなら午後三時過ぎくらい」


「あぁ、実装されてからログアウトしてないだけか」


「んー? 昨日は出なかったのー?」


「昨日は家のベッドで寝たから、ログアウトしなかったんだ」


「あー、お家持ってるんだったねー」


「うん。で、どんな感じの場所だった?」


「あー、なんていうか、用意したっていうけど最初の船の部屋だったよー」


 手抜きか。

 いや、別に何も問題はないんだけどさ。



「あ、でも一応違う部屋なのかなー。ベッドに寝た状態で入ったしー」


「現実に戻った時を想定してって事なのかな?」


「んー、多分。ベッドがある以外は同じっぽかったよー。あと、机の上に積み木みたいなのがあったかなー」


 ……うん、まぁ確かに距離感とか力加減とかの訓練にはいいのか。



「最初のガイドさんも居て手伝ってくれたよー。同じサイズの人を配置するっていう意味もあるのかなー?」


「あぁ、確かに最初のログアウトではお姉ちゃんに怯えちゃったなぁ」


 カメリアさん、キャラメイク以外にも出番が貰えたのか。

 まぁ特定種族じゃないと会う機会が無いのは変わらないけど。



「でもなんか最初に謝られたけど、なんだったんだろー?」


「こういう種族のデメリットは聞かないと教えられないみたいで、申し訳なく思ってるっぽいよ」


「あー。確かに最初に枯らされた時は言ってよーって思ったねー」


「私なんてお姉ちゃんに踏まれてミンチになったもんなぁ」


「わー、こわいねー」



「私からすれば潮風でゆっくり死ぬ方が怖いかも。こっちは大体痛みを感じる暇も無く死ぬからねぇ」


「あー、あれは苦しかったよー。全身がじわじわ痛くなって、さっさと死なせて欲しくなったねー」


「でっかい分耐久力ありそうだもんねぇ……」


「んー。あ、おじさんだ。あっちの子達のお世話が終わったんだねー」


 ん、おじさん?

 ……あー、バケツ持った人がこっちに歩いて来てるな。

 結構遠いのによく話しながら察知出来たな。

 あぁ、そういえば感知系のスキルを色々持ってるんだっけか。


 なんかバケツとは別に、袋を担いでるけどあれはなんだろう。



「おうデカブツ、水持って来てやったぞー。っつーかなんで変形してんだよ。腹減るんだろうが」


 いやうん、確かにデカいけどさ。


「ありがとー。でも今日のお水はいいよー。妖精さんがお世話してくれたんだー」


「あぁ? ……おぉ、そんなとこに居たのか。あんたが市場の連中の言ってた妖精か?」


 言ってたと言われても知らないけど、まぁ私しか居ないだろう。

 おじさんの顔の高さまで降下する。


「確か白雪ちゃんだったか。俺はこの辺で野菜を作ってるエドワードだ。よろしくな」


 名前で頷き、お辞儀をして挨拶した。

 聞こえてないだろうけど、一応「よろしくお願いします」と声には出しておこう。



「で、これは要らねぇのか?」


「うん、お水も養分も一杯くれたよー。あとそのお塩は要らないから、わざわざ持ってこなくていいよう」


 袋の中身、塩かい。

 追い出すどころか枯らしに来てるじゃないか。


「そうか? 意外といけるかも知れんぞ?」


「やーだよー。すっごい痛いんだからねー?」


 いや、お互いに解っててじゃれあってるだけっぽいけどさ。




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